今回は初の試みとして、IFFT/ILLの玄関口でもあるアトリウムを一般解放するということ。これまで「新生活に向けた商談の場」「コントラクトビジネスの場」として機能してきたIFFT/ILLですが、小売のバイヤーやオーナーと出展者による商談のための場からさらに踏み込み、交わりの場としての力を最大限に発揮するための思い切った転換です。今回、アトリウム特別企画「はじまりの仕事展」をディレクションするのは、『日本仕事百貨』代表・ナカムラケンタさん。この実験的な試みはどのようにスタートしたのか、今回のIFFT/ILLの見どころとともにお伝えします。
出展者から84のプロダクトをセレクトし、展示品に込められた「はじまりのストーリー」をエッセンスとなる言葉とともに紹介する、アトリウム特別企画「はじまりの仕事展」。今回、「展示会」に「展覧会」の機能を取り入れることで、より多くの人が興味を持って参加できる場になりそうだ。ナカムラケンタさんと、IFFT/ILLを運営するメッセフランクフルト ジャパン株式会社のセールスマネジャー正田琢麿さんに、いま改めて「見本市だからこそできること」はなにかをうかがいました。
「はじまりの仕事展」のはじまり
――まずはナカムラさんにアトリウムのディレクターを依頼された経緯から教えてください。
正田琢麿さん(以下、正田):昨年のインテリア ライフスタイルで、アトリウム特別企画を江口宏志さんにディレクションいただき、バイヤー属性ではない江口さんの視点から、「WANTED!」というテーマでインテリア ライフスタイルになかった価値観を表現していただきました。そこで、求人募集をする出展者が何社かいらっしゃり、その出展者の対談相手としてトークショーに登壇いただいたのが最初ですね。
――ナカムラさんはインテリア ライフスタイルにご縁みたいなものはありましたか?
ナカムラケンタさん(以下、ナカムラ):ないですね(笑)。僕はバイヤーでもなければ、小売をしているわけではないので、来場すると「その他」のパスを着用するため、なんというか忸怩たる思いを感じていました(笑)。ミラノサローネとかもそうですけど、いいなあと思いながらも「僕は呼ばれてないしなあ……」みたいな。プロフェッショナルな人たちの集まりというイメージでしたね。
――見本市はプロ向けという性質から距離感を感じる方もいるのは事実かと思います。そういう意味では「はじまりの仕事展」は、新しいアプロ―チになると思っています。今回の企画のコンセプトに至った経緯を教えてください。
正田:最初は従来の形でアトリウムの特別企画としてケンタさんにご相談していました。働き方改革が叫ばれる昨今、これまでのケンタさんのお仕事の強みを活かして、「ワークスタイル」に着目した表現ができないか考えていただきました。
ナカムラ:「ワークスタイル」というテーマでブース展開することもできたんですけど、もっと根本的なことを考えようと思って、より多くの人に見てもらうにはどうしたらいいんだろうと考えました。『日本仕事百貨』という求人サイトを運営していると感じるのは、「そもそもその仕事がどうやって生まれたのか?」ということに、関心が高いということです。
例えば、コップひとつが置いてあったとします。それがどんなに素晴らしいものであっても、自分とは関係ないと思ってしまうことってありますよね。ですが、それが生まれてきた背景を知ると、自分とそのコップとの距離が埋まって親しみを覚えるようになる。「仕事のはじまり」を共有できるようになる機会になれば、多くの人にとって身近なものになると考えたんです。
今回の「はじまりの仕事展」では、出品される84のすべてのプロダクトに関して直接お話をうかがいました。普段のインタビューでは必ず職場にうかがっているのですが、今回はそれが叶わず。ひとつひとつお電話で話をうかがうことになりました。それでも84点ともなると件数が多くて大変でしたね(笑)。『日本仕事百貨』で大切にしているのはあるがままのドキュメンタリーで、脚色されたストーリーではありません。過剰に背伸びしすぎた表現をしてしまうと、その姿勢が伝わってしまうんですね。正直にあるがままを伝えることの大切さを理解していただくことに大変苦労しました。
正田:ケンタさんに引き出していただいたのは、表層的な部分の奥にあるメッセージです。商品が世に出るまでの過程というのは、どうしても出展者が用意しているカタログやスタイリングされた写真などからしか知ることができなかったので、本企画では新しい視点を提供できるのかなと感じています。
――アトリウムを丸々使う展覧会企画だから、実際の出展スペース自体は減りますよね?ある意味、かなり冒険になるのかなとも思いましたが……。
正田:従来のブース出展型のアトリウム特別企画への期待はもちろんありました。そこに対しては冒険でしたが、むしろ多くの出展者を巻き込める形になったのはすごく良かったですね。
ナカムラ:アトリウムに関わる人の数は、いままでで最多ですもんね。
正田:そうですね。「はじまりの仕事展」に出品している企業がホール内の展示会場中にちらばっているので、この特別企画のもうひとつの側面は会場のインデックスであり、会場を回遊するためのハブになる場所なので、アトリウムをヒントに会場をくまなく回っていただけたらと思っています。
見本市だからこそできること
――いま、メーカーとエンドユーザーがいつでも直接売買できる時代です。そうした状況で、そもそも見本市の役割というのはどこにあると考えますか?
正田:モノの売り買いのための場所というのが成り立ちだとは思いますが、モノというのは完成された製品だけではありません。そこでの出会いから次のビジネスが生まれる、つまり新しいモノの価値を生み出す場でありたいと思っています。トレンドで売れているモノはSNSなどで知ることができるので、「これが売れているモノ」だとピックアップしやすいですが、この見本市から次のトレンドを一緒につくっていく、SNSでは代替できない密なコミュニケーションを取れる場所でありたいと思っています。
ナカムラ:確かにいつでもモノが買える時代ですが、リアルな「場」に一堂に集まることに意味があると思っています。リアルな「場」の価値がどこにあるかというと、「顔と顔を合わせて話せる」ということと、「つながりをつくれる」ということだと思います。だからこそ、アトリウムにブースを設置して一方的な発信ではなく、もっともっとフラットにしたいんですよ。上からなにかを提示するというのはいまの時代の価値にそぐわない、一緒に「場」をつくっていく過程を共有することで、出展者同士をつなげて新しいコミュニティが形成されていくと思います。
今回、84のプロダクトすべてのお話を聞いて、なんというか大きな木を眺めているような感覚がありました。表層的な葉っぱの部分というよりは、根っこを引き出すことをとにかく大切にしましたね。根っこさえ共感してもらえれば、自ずとつくっているモノも共感してもらえるのではないでしょうか。
注目の出展者
「はじまり仕事展」の出展者の中から、ナカムラさんが気になった出展者をいくつかピックアップしていただいた。
■SOGU
デザイン会社Yのメンバー自身たちが欲しいと考えた雑貨を提案するブランド。モノが成り立つ要素を整理し、新たな視点で再解釈した商品を生み出していく。
■倉敷製蝋
昭和9年創業の老舗キャンドルメーカー、ペガサスキャンドル株式会社がデザイナー居山浩二とコラボレーションしたキャンドルブランド。薄さ3mmという板ガムのような形状の「CRAD CANDLE」は、溶けた蝋が垂れることなく完全燃焼する。
■LOHATES
介護⽤⼿すりの開発・販売を⾏ってきたマツ六株式会社による、⽴ち上がり⽤据置式⼿すり『LOHATES(ロハテス)』。インテリアにもこだわりのあるアクティブシニアをターゲットに、⼿すりを親に贈りたいと思うその⼦供世代を購⼊者に見据えて企画・開発された。
■THING FABRICS
愛知県今治市のタオルブランドが、アウターとして着用できるタオル地を2年半かけて開発。アメリカ産希少綿花「超長繊維綿」のみを使い、シルクのような光沢となめらかさを持つ「TIP TOP 365 TOWEL」、オーガニックコットンを使用した「ORGANIC T100 TOWEL」も展開する。
■terihaeru
愛知県一宮市、繊維の産地「尾州」で活動するテキスタイルデザイナー小島日和のテキスタイルブランド。繊維職人とともに、低速で織り上げる昔ながらのションヘル繊維を使って、立体的で、手織りに近い風合いを持つ個性豊かな作品をつくり出している。
――どの出展者も持っている技術への自負心を感じますし、必ずしもサイトがおしゃれ一辺倒じゃないのもいいですよね(笑)。
ナカムラ:バラバラのようでいて、何か共通したものがある。ただかっこいいのではなく、必要とされている理由がわかるものが集まったと感じます。
ここから「はじまる」ことへの期待
――トークショーでは、どんなことを伝えていきたい、あるいはどのような問いかけをしたいと考えていますか?
正田:商品を知るだけでなく、学びの場でありたいと思っています。今回は「For New Ideas」「For Retail Business」「For Contract Business」という、いろんな来場者のニーズに応えうる3つの軸を設けました。ケンタさんにもそれらすべてに登壇していただきます。
ナカムラ:僕が担当している3枠に関しては、基本的には用意されたことを話すというよりは、いま考えていることを引き出したいと思っています。もちろん過去の話も聞くんですけど、いま興味関心が高いことは何かを聞けるようにしたいですね。ちなみに、対談相手のひとりの寺田尚樹さんは大学時代に教わった先生なんです。なにか不思議なご縁を感じています(笑)。寺田さんには、オフィス環境や組織論など、いろいろな話をうかがえるのかなと思っています。
正田:アトリウムに立ち寄られた方にも気軽に参加していただきたいし、BtoBのビジネスの場ですが、業界のこれからを担う学生さんにとっても学びの場となると思います。
LIFESTYLE SALON Timetable
http://files.mmfcservice.com/documents/ifft2018/lifestylesalon.pdf
ナカムラ:本当にそうですよね、これは学生さんが来たほうがいい!例えば、デザインイベントとかでも、未来のイベントをつくっているのはボランティアで参加していたスタッフだったりします。なので、IFFT/ILLに来たことがきっかけで、「次は自分が出展したい!」と思ってもらえたらいいですよね。
正田:アトリウムは展覧会のように楽しんでもらえれば。モノの売り買いだけでなく、来場者と出展者のつながりから新しいビジネスが生まれる場にしていきたいですね。
――出展者の傾向がより多様になっていると思いますが、その辺りの変化はどのように感じられていますか?
正田:インテリアだけでなくライフスタイル全般を打ち出していきたいという思いがあるので、いい傾向ではあると思っていますが、その先のことも考えていきたいですね。出展者のみなさまの声をこれからも丁寧に拾っていきたいですね。
ナカムラ:いろいろな人に参加いただいて、みんなでつくる、というのはとても現代的だと思います。
取材・構成・文:瀬尾陽(JDN) 撮影:中川良輔
▼見本市来場事前登録
https://www2.mmfcservice.com/ifft18/ja/regist/index.htm
会期:2018年11月14日(水)~11月16日(金)
開催時間:10:00~18:00(最終日は17:00まで)
会場:東京ビッグサイト(東京国際展示場)西1・2ホール+アトリウム
主催:メッセフランクフルト ジャパン株式会社
入場料:2,000円(招待状持参者およびWeb来場事前登録者は無料) ※アトリウム内入場無料
http://www.ifft-interiorlifestyleliving.com/2018/lp/