“布があると楽しい!”と、実感してもらえるテキスタイルをつくりたい-氷室友里インタビュー(1)

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“布があると楽しい!”と、実感してもらえるテキスタイルをつくりたい-氷室友里インタビュー(1)

ユーザーがハサミを入れることで完成したり、裏返すと新たな柄が見えてくるテキスタイルなど、人と布との関わりの中に驚きや楽しさをもたらすことをテーマにデザインを行う、氷室友里さん。さまざまなブランドとコラボレーションしたり、直近ではカッシーナ・イクスシー青山本店で2017年のクリスマスインスタレーションを行いました。

2017年秋に開催された国際見本市「IFFT/インテリア ライフスタイル リビング」では、『Young Designer Award』を受賞するなど、いま多方面から注目を集める氷室さんに、出展の感想やご自身が手がけてきた工夫のつまったテキスタイルについて、デザインするときに大切にしていることなどをお聞きしました。

――これまで手がけてきたお仕事や、プロダクトへの展開について教えてください。

ハンカチブランド「swimmie」や壁紙ブランド「WhO」、最近では工業用クレープ紙をつかったブランド「crep」のピクニックシートのデザイン提供など、テキスタイルに限らずいろいろなお仕事をさせていただいています。

いまは布を使って表現することが多いんですが、もともとはテキスタイルデザイナーではなくプロダクトデザイナーになりたくて、プロダクトで人を楽しませたいなと思っていました。大学の時は布ではないもので表現していて、付箋をつくったり照明をつくったりしていました。

布は、生活の中でほかの素材にくらべていろいろな使われ方というか関わり方があって、「折りたたむ」「切る」「くしゃくしゃにする」「縫う」など、バリエーションが多い素材だと思います。「切る」だったら実際にひたすら何か切ってみたり、くしゃくしゃにした生地をずっと眺めてみたり、言葉でイメージをひたすら羅列してみたりと、何かおもしろい要素がないかと試行錯誤しながら考えています。すんなりアイデアが出るというタイプではなく、言葉も手も使ってひたすら実験するような、もがき苦しむタイプです(苦笑)。学生の時から考え方は同じで、手でいろいろ試してみた中からおもしろい要素を見つけて、それをプロダクトに展開していくということをやっていました。

氷室友里さん

氷室友里(ひむろ・ゆり)
多摩美術大学卒業。日本とフィンランドでテキスタイルを学び活動しているテキスタイルデザイナー。織の組織づくりから自身で行うオリジナルテキスタイルは、ハサミでカットして柄がアレンジできたり、表と裏で柄が変わったり、見る角度によって柄が変わったりと、一枚の布に小さなしかけと工夫がつまっている。商業施設のアートワークや、壁紙や日傘のデザインなど、活動の幅を広げている。

使う人がアレンジできたり小さな仕掛けがある、ユニークなテキスタイル

氷室さんの代表作として挙げられるのが、自分で好きにはさみを入れて柄をアレンジできる「snip snap」。購入したあとにテキスタイルにはさみを入れることを促すような大胆な発想はこれまでになく、展示会でも驚かれることが多いという。

snip snap series LAPLAND/ジャガード織りという模様を織れる技術を活用してつくった、ユーザーがハサミを入れることで変化していくテキスタイル。(左)ハサミを入れる前(右)入れた後

snip snap  LAPLAND/ジャガード織りという模様を織れる技術を活用してつくった、ユーザーがハサミを入れることで変化していくテキスタイル。(左)ハサミを入れる前(右)入れた後

大学院を卒業したくらいにつくった、自分でも思い入れの強いシリーズです。ジャガード織りという、模様を織れる技術を活用してつくっています。「snip snap LAPLAND」は、大学院在学中にフィンランドに交換留学で行っていたのですが、旅行でラップランドを訪れた際に経験したサウナや釣りなど、楽しいアクティビティの思い出を柄に落とし込んだものです。ラップランドの氷が張った湖をイメージしていて、氷を割るように白い部分にハサミを入れていくと、中から青い湖が現れ、魚が隠れていたりします。

――はさみを入れるのは抵抗があると思うんですが、実際に見たお客さんからはどういう反応がありますか?

驚かれている方がほとんどで、海外で展示した際には「壊しているの!?」と止められました(笑)。でもしかけを説明すると、みなさん驚きつつ笑顔になってくれます。言葉だけでは伝わらないこともありますし、実際に体験してもらえる機会をつくって理解してもらうということを大事にしています。はさみを入れることは最初は勇気がいると思いますが、ちょっと切り始めればジャキジャキ切れちゃうと思います。大人だと構成を考えて、同じバランスで切っていく方も多いんですが、子どもはぜんぜん迷いがないので大胆ですね(笑)。でもきれいな形をつくるのが重要ではなくて、切ったときの思い出がものと一緒に形として残るのが楽しいかなと考えていて、その時どういう時間を過ごしたか形に残るのがいいなと思っています。

――snip snapが商品化に行きつくには時間がかかりましたか?

学生の頃からずっとお世話になっている工場で、泊まり込みで生地の開発をさせてもらったりしました。糸の素材を決定するまでが大変で、糸が細すぎてハサミを入れる前からすでに下にある模様が見えてしまったり、糸が弱くてバラバラとすき間があいてきちゃったり、工場の方と一緒にたくさんの実験を経て糸が決定しました。

いろいろな糸で試したテストピース

いろいろな糸で試したテストピース

新しいことをはじめる時って時間がかかったり、それが商品につながるかわからないのでストレスもあると思うんですが、そこの工場の方は開発も納得がいくまで付き合ってくださるんです。行くたびに転写やレーザーの機械など、新しいものが増えているようなクリエイティビティが高い工場で、すごく応援してくださるんですよね。

昨年の「IFFT/インテリア ライフスタイル リビング(以下、IFFT/ILL)」では、snip snapはもちろん、これまでに関わったお仕事や作品を展開しました。

今回新しくしたという、snip snap seriesのパッケージ。デザインは、デザインチーム「minna」が手がけた。テキスタイルのパッケージとしてはめずらしい、透明の筒状のもの

今回新しくしたという、snip snap のパッケージ。デザインは、デザインチーム「minna」が手がけた。テキスタイルのパッケージとしてはめずらしい、透明の筒状のもの

生地メーカーKOKKAから発売される、リバーシブルの生地「TOY FABRICS」 。クマ、魚、うさぎ、アヒルの4パターンで、表が動物で裏が足跡になっている。つくることが楽しくなるような生地をコンセプトに、バッグやクッションカバーとかつくる際に、1枚買えば裏も使えて、生地の切り返しにも使いやすい。

生地メーカーKOKKAから発売される、リバーシブルの生地「TOY FABRICS」 。BEAR、FISH、RABBIT、DUCKの4パターンで、表が動物で裏が足跡になっている。つくることが楽しくなるような生地をコンセプトに、バッグやクッションカバーとかつくる際に、1枚買えば裏も使えて、生地の切り返しにも使いやすい。

前回(2017年6月)のインテリア ライフスタイルで出展していた「crep」の新柄のデザインが最初のきっかけになり、お仕事をさせていただくことになった、カッシーナ・イクスシーさんの期間限定インスタレーションも同時期に展開していました。そのつながりもあって、IFFT/ILLではご報告も兼ねてブースでご紹介していました。

カッシーナ・イクスシー 青山本店にて開催した、クリスマスインスタレーション。会場近くにあるイチョウの並木道からインスピレーションを得て、布の木の並木道がテーマとなった。大きな布を吊るして1本の木に見立て、それを並木道のようにレイアウトし、エントランスからお店の奥まで続いていくように表現。インスタレーションで使った生地はファブリックやリース、オーナメントとしてなど、グッズ展開もされた。

カッシーナ・イクスシー 青山本店にて開催した、クリスマスインスタレーション。会場近くにあるイチョウの並木道からインスピレーションを得て、布の木の並木道がテーマとなった。大きな布を吊るして1本の木に見立て、それを並木道のようにレイアウトし、エントランスからお店の奥まで続いていくように表現。インスタレーションで使った生地はファブリックやリース、オーナメントとしてなど、グッズ展開もされた。

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