クリエイターズクラブ「NEW」が考える、新しいデザイナー像と働き方の新基準

クリエイターズクラブ「NEW」が考える、新しいデザイナー像と働き方の新基準

武蔵野美術大学出身の4人が集まって結成されたクリエイターズクラブ「NEW」。さまざまな領域をまたいだアートディレクションなどを手がける同チームは、2025年の大阪・関西万博のロゴデザイン案で最終候補に選ばれたことでも話題を集め、JDNが2021年に新たにオープンした「デザインノトビラ」のロゴデザインも手がけている。

2021年に法人化されたNEWは、山田十維さんが代表を務め、沖田颯亜さん・坂本俊太さん・藤谷力澄さんの3人は、現在それぞれ別の会社に所属しながらNEWのプロジェクトに取り組んでいる。副業があたりまえになりつつある世の中で、これからデザイナーとして働くことについての考えや、「NEW」という名前に込めた思い、そしてチームとして取り組む「新しさ」について4人にうかがった。

【「デザインノトビラ」関連記事:クリエイターズクラブ「NEW」インタビュー】
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デザイナーとして「新しさ」に向き合うチーム

––みなさんはそれぞれ企業で働きながらNEWの活動をされていますが、現在のお仕事の内容と、NEWの中での役割について教えてください。

藤谷力澄さん(以下、藤谷):僕は普段は広告制作プロダクションでデザイナーをしていて、NEWでもデザイナーとして手を動かしています。

藤谷力澄(ふじたにりきと) 1995年生まれ。東京都出身。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒業。instagram:@rikitofujitani

藤谷力澄(ふじたにりきと) 1995年生まれ。東京都出身。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒業。instagram:@rikitofujitani

沖田颯亜さん(以下、沖田):私は化粧品関連の会社で、自社ブランドのパッケージデザインなどを手がけています。NEWの中ではアートディレクターとしてヘルスやビューティ、ヨガなど、おもに女性向けの案件を担当しています。

沖田颯亜(おきだそうあ) 1993年生まれ。東京都出身。武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒業。同年資生堂クリエイティブ本部に所属し、アートディレクターとして活動中。主に、ビューティーブランドや中国茶/クラフトビールなどの飲料系のパッケージを含めたコミニケーション全体のアートディレクションを手掛ける。 instagram:@soa.okida

沖田颯亜(おきだそうあ) 1993年生まれ。東京都出身。武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒業。同年資生堂クリエイティブ本部に所属し、アートディレクターとして活動中。主に、ビューティーブランドや中国茶/クラフトビールなどの飲料系のパッケージを含めたコミニケーション全体のアートディレクションを手掛ける。 instagram:@soa.okida

坂本俊太さん(以下、坂本):僕は普段は広告代理店でデザイナーをしていて、NEWでは沖田と同じくアートディレクターとして動いています。

山田十維さん(以下、山田):僕はこれまではクリエイティブアソシエーションの「CEKAI」に所属していましたが、2021年にNEWを法人化し、現在は僕だけがNEWの社員で、ほかのメンバーと連携してデザイン制作を行なっています。NEWではプロデューサー兼デザイナーとして、リーダー的な役割をしています。

――NEWが結成された経緯についてお聞かせいただけますか?

山田:僕らは4人とも武蔵野美術大学の同級生で、NEWを結成したのは2019年です。僕と藤谷は同じ高専に通っていたのでもともと知り合いだったのですが、学生時代に僕たち含めて15人くらいで大学の近くにアトリエを借りて、坂本と沖田とはその頃に仲良くなりました。当時からデザインに対しての考え方や方向性が近いのを感じていましたね。

山田十維 1994年生まれ。東京都出身。武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒業後、世界株式会社(CEKAI)を経て、2021年よりNEW inc.を設立。企業のブランディングやプロダクト開発に携わり、デザイナー・アートディレクター、時にはプロデューサーとして活動している。家業は、箱の設計を得意とする印刷加工会社。twitter:@neeeewjp

––そのアトリエはいつから利用していたんですか?

坂本:それぞれ就活が落ち着いて卒業制作に入る頃なので、4年生のときです。武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン学科では、代々学生がアトリエを借りる文化があって、僕らのほかにも2ヶ所ほどアトリエがありました。ひとりで制作するよりもみんなで集まって一緒にやる方がモチベーションが保てるよねっていうことと、いい思い出として残るんじゃないかなというのもありましたね。ちなみに「ツクールハウス」という名前のアトリエでした(笑)。

坂本俊太(さかもとしゅんた) 1993年生まれ。大阪府出身。武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒。instagram:@sakamotoshuntatwitter:@skmtshnt

坂本俊太(さかもとしゅんた) 1993年生まれ。大阪府出身。武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒。instagram:@sakamotoshuntatwitter:@skmtshnt

坂本:1年生から4年生まで15人くらいがそのアトリエを利用していたので、代々卒業制作の時期には後輩が先輩を手伝ったり、賑やかにやっていました。山田は特に後輩と仲がよくて、通称“トーイボーイズ”を引き連れてましたね(笑)。

山田:卒制で手を動かし続けなきゃいけない地味な作業が多かったので、後輩にごはんを食べさせて手伝ってもらってましたね(笑)。

――その後、卒業後にNEWが結成されたきっかけはなんだったのでしょう?

山田:社会人になって2年後くらいに4人で集まる機会があり、「自分たちが本当にやりたいデザインって何だろう?」という話をしていたんです。自分たちが思い描いていたデザイナー像とは離れてしまっているような気がして、もう一度学生時代の気持ちに立ち返りたいなと。4人とも社会人として働きながら個人でも活動していきたい気持ちがあったので、じゃあアトリエをリバイバルしよう、それならチーム名みたいなものがあったほうがモチベーション上がるよね、という話になったのがNEWのはじまりです。なので、最初はいまのようにビジネスとして仕事を受ける目的ではなく、あくまで個人の制作の場としてつくった感覚でした。

――「NEW」という名前に決めた理由をお聞かせいただけますか?

山田:まずは、普遍的で誰にでもわかりやすい言葉の方がいいよねというのが4人の共通認識としてありました。そこでそれぞれ案を出し合って、「NEW」という言葉に、常に新しいものをつくり続けるデザイナーとしての使命感をあらわすようなものを感じて、その気持ちを忘れないためにもこの名前に決めました。

坂本:僕らの世代観もあるかもしれないんですが、古いものや普遍的なものに魅力を感じながらも、それだけじゃおもしろくないなと感じているところがあって。自分たちなりの新たな視点を加えるというミッションを課す意味でも、「NEW」がいいなと。

――NEWのWebサイトには「グラフィックデザインをはじめ、プロダクトやWebサイトなどのデジタル表現、これから生まれる新しいメディアなど領域を問わず、人の行動や感情に寄り添う『新しさ』に真摯に向き合います。」とありますね。

山田:僕がお世話になっている先輩にNEWという名前の話をしたときに、「僕たちの世代感をあらわす言葉だね」と言われたことがあって。すごくハッとしたんですが、そのことをきっかけに、「新しさ」ってなんだろうと考えながら書いたのがこのコンセプト文でした。自分たちが生まれた時代やデザインをはじめたタイミングというのは、すでにいろいろなものが世の中にあふれていて、デザインもある程度のところまで行きついてしまったような、飽和状態にあるような感じがしていて。そうやって潜在的に考えてきたことが、この名前がしっくりくる理由としてあるのかもしれないと思ったんですよね。

––NEWのプロジェクトにおいて、デザインの過程で「新しさ」について話すことはありますか?

坂本:その都度みんなで話すという感じではないですが、新しいことを考えなくちゃと変に意識するんじゃなくて、ふとした時に「これって普通だな、いいのかな」みたいに、自分たちがNEWという名前だからこそ立ち止まって考えることはありますね。

大阪万博のロゴデザイン案とドバイ万博日本館のアートディレクション

――NEWのみなさんのことを知ったのが、2025年の大阪・関西万博のロゴデザイン公募の際に最終候補案だったんですが、当時のことについてお聞かせいただけますか?。

山田:2025年の大阪・関西万博開催に向けたロゴデザイン案のコンペだったのですが、4人がそれぞれ出した案を共有しながら、ブラッシュアップして制作していきました。結果的に坂本の案が、約6,500点のうちの最終候補の5案にまで残ることができて、とても貴重な体験ができたと思っています。コンセプトは“宇宙船地球号”だったよね。

坂本:そうです。僕は大阪の吹田市出身なのですが、「太陽の塔」が見えるマンションに子どもの頃から住んでいて、その頃の熱量がいかにすごかったかを、周りの大人たちからいつも聞かされて育ってきました。だから、僕もそうした可能性や期待、生命力などをグラフィックで表現できたらと考えていて、ふとした時に煙がふにゃふにゃっと上がっているのを見て、「人と人とが行き交い、混じり合っていく感じをこれで表現できるかも」と思ったんです。

坂本さんのロゴデザイン案

坂本さんのロゴデザイン案

坂本さんのロゴデザイン案

――ロゴの展開イメージの提案もされていますが、このマーブル模様はいくつかのパターンとして固定されるイメージなんでしょうか?

坂本:もしこの案が採用されていたとしても、かっちりレギュレーションを決めることはなかったと思います。万博などの規模になると、さまざまな場所で目にすることになると思いますし、抽象度の高い模様でもビジュアルアイデンティティとして成立するんじゃないかと考えました。マーブル模様がさまざまななところをハックして、それを見た人たちが自然に万博を思い浮かべるような体験が実現できればいいなと。

坂本さんのロゴデザイン案

ロゴデザインとあわせて万博会場をはじめとする展開イメージも提案された。

ロゴデザインとあわせて万博会場をはじめとする展開イメージも提案された。

山田:坂本の案で僕が賢いなと思ったのは、オリンピックの一件もあり、幾何学的なデザインのオリジナリティについて問題視されることがある中で、「もっと抽象度が高いものならいいんじゃないか」と言っていたことで。結果、最終的に残った5案の中には幾何学的なデザインがひとつもなかったんですよね。

–−今回のように、坂本さんの案をもとに応募される場合でも、チームによる作品ではなく、あくまで個人名で応募されるんですね。

山田:そうですね。やっぱり若干のライバル意識もあるので、みんなでそれぞれの案を共有して意見を出し合いながらも、お互い競い合うという感じですね。それに、NEWのうち誰か一人でもスターが生まれれば、チームとしての求心力にもなるのではと思っています。

――ほかにも、最近手がけられた事例について教えてください。

山田:コロナ禍で延期になっていたんですが、昨年の2021年10月から2022年の3月末まで開催中のドバイ万博で、日本館のアートディレクションを担当させていただいています。以前僕が働いていたCEKAIの井口皓太さんがドバイ万博のクリエイティブディレクターを務めていて、僕らに声をかけてもらい参加しました。大阪万博の悔しさもあるので、モチベーション高くやってくれるのではという意図もあったようです。

山田:ドバイ万博の展示は6つの部屋に分かれていて、僕たちはその中でも5つ目の部屋のアートディレクションを担当しました。360度の円形スクリーンがあって、観客のスマートフォンから位置情報を取得することで、インタラクティブに自分のアバターがグラフィックアートとして現れる展示を設計しています。さまざまなクリエイターによるグラフィックの要素を集め、ひとつのビジュアルを生成する体験にしていて、国内の16名のクリエイターの方に依頼して、こちらが用意したフレームの中にそれぞれ絵を描いてもらい、16種類の作品を僕たちで最終的なかたちに組み立てていきました。

ドバイ万博日本館 展示イメージ

ドバイ万博日本館 展示イメージ

山田:展示を回ることでスタンプラリーのようになっていて、クリエイターがつくったいろいろなパーツをお客さんが集めることで、最終的に自分のアバターができ上がる仕組みになっています。

藤谷:来場者が日本館のなかで気になったもの次第で、最終的にでき上がるアバターが変わってきます。

――アートディレクションの仕事としては、アーティストの選定から行っているのでしょうか?

山田:そうですね。井口さんと相談しながら、若手のクリエイターに頼みたいという方向性が決まり、僕らで20代のクリエイターを中心にセレクトしています。イラストレーターやアーティスト、3Dクリエイターなどバラエティ豊かなジャンルの方々に声をかけました。ちなみに16人の中にNEWの沖田も参加しています。

沖田さんが手がけたエレメント

沖田さんが手がけたエレメント

山田:コンセプト自体はダイバーシティなのですが、単なるカオスになってしまわないように気をつけました。スタンプラリーからアバターになるという大筋はもともとあって、16種類のフレーム全体を僕らがアートディレクションすることで統一感を図りながらも、それぞれの作家性もきちんと発揮してもらいたかったので、その構造を考えるところがいちばんの鍵だと考えました。

クリエイターが制作したエレメントが各展示にひとつずつ紐づいており、来場者がその展示を鑑賞すると獲得できる。

クリエイターが制作したエレメントが各展示にひとつずつ紐づいており、来場者がその展示を鑑賞すると獲得できる。

アバターの展開例。各クリエイターによるパーツが組み上がり、来場者ごとに異なるアバターが完成される。

アバターの展開例。各クリエイターによるパーツが組み上がり、来場者ごとに異なるアバターが完成される。

――大阪万博にドバイ万博と、規模の大きな仕事に取り組まれていますが、そういった仕事に積極的な意識はありますか?

山田:いまのクリエイターの多くは、国が関わるような規模の仕事にあまり魅力を感じていない一面があると思うんですが、井口さんはオリンピックのモーションデザインを手がけていますし、上の世代のクリエイターはそうした仕事をたくさん手がけてきていて、井口さん中でもいまの若手クリエイターにも活躍してもらいたいという気持ちがあるんじゃないかなと思います。

僕としては大きな仕事に関われるのはうれしいですし、やりたいですね。目立ちたがり屋なのかな(笑)。みんなはどう?

藤谷:特に考えてなかったけど、わりと手が届く範囲でしっかりものづくりをしたい派かも。

沖田:私も同じで、自分の得意分野の範囲で仕事をしていきたい気持ちがあります。でも山田がそういう仕事をもってきてくれたりすると、やっぱり刺激になりますね。自分一人ではできないし、巡り合わないジャンルの仕事だったりするので。

坂本:僕はあんまり気にしていなくて、仕事を選んでいる場合じゃないみたいな感覚の方が強いかもしれない(笑)。でも、山田のいい意味でミーハーなところはNEWの強みでもあると思います。デザイナーはどうしてもマニアックになりがちだと思うので。

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