クリエイターズクラブ「NEW」が考える、新しいデザイナー像と働き方の新基準

クリエイターズクラブ「NEW」が考える、新しいデザイナー像と働き方の新基準

新たなブランド体験となる「箱」を再定義する

UNBOX

山田:これは印刷加工会社の福永紙工と企画・制作している「UNBOX(アンボックス)」プロジェクトです。同社ではさまざまな企業の構造設計を手がけているのですが、これまで蓄積した技術を自社発のプロジェクトとして発信していくような、福永紙工の技術を世の中に可視化する取り組みとして、去年の10月に立ち上げました。「『箱」を再発明する』というテーマのもとに、「◯◯のためのUNBOX」という切り口で、第一弾としては4種類展開しています。

たとえば、パン屋さんのためのUNBOXでは、パンをのせるトレイ自体が箱でできていて、トレイから袋に移し変えることなく、そのまま閉じて持って帰ることができます。花屋さんのUNBOXの場合は、花を買っても家に花瓶がない方も多いと思うので、持ち帰った箱をそのままコップに入れることで花瓶になるような仕組みになっています。

(左から)パン屋のためのUNBOX、花屋のためのUNBOX

(左から)パン屋のためのUNBOX、花屋のためのUNBOX

山田:スニーカーのためのUNBOXは、スニーカーの箱自体にコレクション性が与えられないかなと考えて、正方形や四角形になる展開図を開発して、たとえばスニーカーブランドとラッパーがコラボレーションスニーカーを発売する場合も、グラフィックを入れることで箱をポスターとして使うことができる構造を考えています。食器のためのUNBOXについては、一つの展開図でいろんな高さの可変性を持つ箱をつくれないかと考えて、折り目ごとにいろんな高さの器になる構造にしています。

(左から)スニーカー専門店のためのUNBOX、食器店のためのUNBOX

(左から)スニーカー専門店のためのUNBOX、食器店のためのUNBOX

山田:おかげさまで反響を結構いただいていて、立川のグリーンスプリングスで展示会も開催したのですが、イッセイ ミヤケさんに「スニーカーのためのUNBOX」を採用していただきました。紙を専門につくっている企業からも声をかけていただいたので、一緒に業界を盛り上げていければいいですね。

坂本:このアイデアを考えているときに思ったのが、たとえばUber Eatsでハンバーガーを買った時に、箱がちゃんとしてるだけで記憶に残るなぁということでした。特にいまは実店舗ではなくオンラインで店をはじめる人もいますし、そういったお店にとっては、むしろこれまで店舗が担ってきたブランド体験を箱が代替することにもなると思うので、それだけ深い体験も重要になっていく気がしています。

山田:第2弾も今年の夏頃を目指して考えていて、今後もっと増やしていきたいですね。また、“箱のウィキペディア“のような存在になることも目指していて、Webサイトのライブラリに構造や紙の説明などを蓄積して、タグで検索できるようしたいと考えています。箱単体というよりも「構造」の部分に注力しているプロジェクトなので、箱づくりで困った方がとりあえずUNBOXをみてくれるような、そんな世界観まで築ければと思います。

理想のデザイナー像と働き方の変化

――NEWのプロジェクトは普段どのように進めているのでしょうか?

山田:基本的には僕が仕事を引っ張ってくることが多いのですが、コンペ以外は4人で動くことはほぼなくて、2人1組で動いています。仕事のジャンルによって相性を考えて、自然と担当が決まっていく感じですね。

――インハウスデザイナーとNEWの仕事としては、それぞれアウトプットの感覚としては違いますか?

坂本:僕は結構違いますね。NEWの仕事はクライアントとの距離も近いですし、少人数でクリエイティブにおける責任を負わなければいけないので、だからこそ裁量も大きいです。

藤谷:僕も同じですね。NEWの場合はうまくいくかいかないかの責任がすべて僕らにあるというのが大きいな違いですね。

沖田:私は普段デザイナーに発注するクライアント側でもあるので、相手が心配していることであったり、提示してほしいだろうなというのがなんとなく感覚としてわかるというのはありますね。それが普段の仕事の中でも、提案していただいた内容に対して「こういうプロセスを踏んだんだな」と想像できるので、両方経験できていることで提案の質も上がっているという手応えも感じています。

藤谷:みんなそれぞれ本業が、代理店・アートディレクター・クライアント側・発注を受けるデザイナーと、きれいにばらばらなんですよね。

沖田:そう、チームとしてバランスはいいと思いますね。

––NEW結成の際に、思い描いていたデザイナー像とのギャップについてのお話がありましたが、学生時代とNEWをはじめるまでの会社員時代、そしてNEWとして活動しながら会社員としても働く現在と、それぞれ変化があるのかなと思います。あらためて、デザイナーの理想像についてどう感じていますか?

坂本:僕が感じているのは、デザイナーとしての幸福度と経済活動をうまく両立させているロールモデルみたいなものって、まだないんじゃないかなということです。僕は、社会人になって就職すれば、所属する環境の中で下積み期間を過ごすことになるので、そのこと自体には想像とのギャップはなかったですが、思ったよりはその期間が長いなと感じています。

藤谷:たしかに、組織の中でデザイナーとして働く上での下積みの期間はありますが、最近は「上司の下についている」という言い方をしなくなっていて、一緒に仕事を進めていくという感覚に変わってきているように思います。

坂本:僕もそれは感じていて、会社ではじめて仕事を一緒にしたアートディレクターの方には、「アートディレクターの後ろにデザイナーがいるんじゃなくて、デザイナーが前を走らないといけない」と言われたことがあって。その時はあまりわからなかったのですが、役職が違うだけでフラットな関係なんだとその先輩は言いたかったのかなといまは思います。下積みと捉えてしまうと、やはり本人も能動的じゃなくなりますよね。

沖田: NEWのメンバーの中では、私がいちばん思い描いていたデザイナー像とのギャップを感じているかもしれないですね。職種によるのかもしれませんが、私はデザイナーとはいえ会社員なので、前提として会社の商品として成立していなければならないです。言葉にならないふんわりとした枠組みを習得して体にしみこませるまで苦戦していた時期はありました。

ただ、それでも自分自身で「こっちの方が得意です」と伝えるようにはしていて、会社の中で楽しめる道を選ぶようにして、苦手なことよりも得意なことを伸ばせる環境なのはありがたいですね。私のまわりや社内の若手の中にも、そういう人たちが多いと思います。

山田:同世代のクリエイターの中にも、会社やデザイン事務所に勤めながら個人でも活動している人はとても多いです。安定した環境がありながら、ほかのチャンネルでも個性を伸ばす働き方というのは昔はなかったと思いますし、いまの時代に合っていると感じます。

あと、多分ちょうど僕たちが社会に出たタイミングに転換期があった気がしていて。僕らが学生時代の時は、グラフィックデザイナーとしてはJAGDAやADCで賞をとることが目標、みたいな雰囲気があったんですが、卒業する頃には「本当にそうなのかな?」っていう感覚はあったと思います。賞に対して僕自身は肯定も否定もないんですが、賞をとることや理想のデザイナー像についての考え方には大きな変化があるのかなと。

――賞をとることで、デザイナーとしての「個」を確立することだけが理想ではないという考え方に変化しているのかもしれないですね。NEW結成時に、個人での活動もしていきたいというのが4人ともあったということでしたが、みなさんは、いちデザイナーとしての「個」のあり方についてはどう思いますか?

山田:僕は以前の会社の社長から、世の中で必要とされるためには「個」を大切にしなくちゃならないことを学んだので、みんなが抱えているような葛藤はもともとなかったですね。

藤谷:僕は、僕自身が個を出すというよりも、デザイナーである僕たちに仕事を依頼してくれるさまざまな立場の方の「個」に対して、きちんと応えていけるようなデザイナーになりたいと思っています。それは会社の仕事でも、NEWのプロジェクトでも同じですね。

坂本:もともと僕はあまり個性がない人間だと思っていて、その都度どうすればいいいのかを考えながらデザインすることを、会社でもNEWでも分け隔てなくやってきている感覚があります。でも、いまはデザインも簡単にできるようになってきているので、なんでもできることは逆によくないのかなと思っていて、それが僕の課題でもあります。

沖田:私はどちらかというと「個」をすごく大切にするタイプかもしれません。坂本の言うように、すべてに対して優等生的なデザイナーはこれからの時代、生き残っていけないように感じていて……。

たとえば、作品を見たときに「この人のデザインだ」とわかることがデザイナーとしていいかどうかは時と場合によると思いますが、私はそういうデザイナーがいてもいいんじゃないかなと思うようになりました。自分ができることと自分にしかできないことを足し引きしながらバランスが取れるいまの環境に身を置けているのは、本当によかったと思います。

消費されないための新しい価値を目指して

――あらためて、会社ならではの仕事とNEWでしかできないプロジェクト、それぞれのバランスについて、今後デザイナーとしてどのように向き合っていきたいと考えていますか?

坂本: NEWの方が裁量も大きくて、ある程度好きなことができるという点では、デザイナーとしての幸福度は大きいと感じています。案件の規模でいうと、会社の仕事の方が予算がつく分大きくて、そういう意味ではできることの自由度はそちらの方が高かったりもしますが、自分の実力次第だと考えて仕事ができるNEWでは、あとは自分が頑張るだけだなと考えて取り組んでいきたいなと思います。

藤谷:僕も本業の方が仕事の規模が大きい分、実験的な表現などやりたいことをやれない場合ももちろんあります。でも本業での気づきや、こんなことやってみたいといことをNEWの場でうまく消化して、それをまた本業の仕事にも還元することができているので、これからも両方でバランスを取りながら楽しみたいですね。

藤谷さん

沖田:私は普段自社のブランドを育てていく立場なので、ずっとブランドの人格を持たなければいけないのですが、そうなるとクリエイターとしての自分を保つことが難しくなることがあるんです。学生の時には自分の好きなことやテーマに対して全力でアプローチしていける環境があったんですが、社会に出ると責任や目指さなきゃいけないこともあるので、それを混ぜ合わせながら一つの答えを出していくことが大事だなと思っています。

一方で、NEWは自分の中のクリエイターとしての部分を維持できる、自分をクリエイターに戻してくれる場所なので、バランスを取る意味でどちらも不可欠だと感じています。NEWのようにさまざまなジャンルの仕事があると、いろんな人格になって仕事ができるので楽しいですね。

――最後に、NEWとして今後について目指すことを教えてください。

山田:「新しさとは何か」というのは自分たちでも手探りな部分があるのですが、みんなで探りながら目の前の仕事にひとつひとつ丁寧に応えていくことで、NEWとしてのモノゴトの新しい基準をつくれたらと思っています。それがいま僕が言える一番大きな目標ですね。なので、デザイン業界にこだわっているわけではなくて、世の中に新しい基準をつくっていけたらと考えています。

ただ、新しいものが生まれる過程にはキャンペーンやプロモーションといった企業活動もやはりセットで、その結果消費されてしまうデザインも多くあると思うんです。経済の枠組みのなかに付随するデザインではなく、世の中に新しい価値基準を生み出していけるものづくりを目指したいと思っています。そんなデザイナー像を育てるためにも、これからは組織づくりの面にも力を入れていきたいですね。

もともと僕らが集まったきっかけでもある理想のデザイナー像というものが育てることができるような、そんな環境をNEWとしてつくれたらと思いますね。NEWを法人化したのは、人生で一度は会社を立ち上げる経験をしておきたかったというのもありますが、組織としてそれを実践したいからでもあります。なので、これからはほかのメンバーも入れてさらに会社らしくデザインをしていきたいと考えています。

クリエイターズクラブ「NEW」
http://neeeew.jp/

文:開洋美 写真:寺島由里佳 取材・編集:堀合俊博(JDN)

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