ガラスの「構造そのもの」を提示することで、AGC旭硝子の技術力を見せつけた圧巻のプレゼンテーション(1)

ガラスの「構造そのもの」を提示することで、AGC旭硝子の技術力を見せつけた圧巻のプレゼンテーション(1)
建築用ガラス、自動車用ガラス、ディスプレイ用ガラスなどの分野をリードしてきた、世界最大手のガラスメーカーAGC旭硝子。昨年に引き続き、今年4月にイタリアのミラノで開催される世界最大規模のデザインの祭典「ミラノサローネ」に出展を果たした。今回のテーマは「Amorphous(アモルファス)」。氷や金属のように原子が規則正しく並んだ結晶に対して、ガラスは原子が不規則に配列されたアモルファス(非晶質)構造であることから設定されたものだ。

最先端の技術によって生まれた、「Dragontrail®(ドラゴントレイル)」をはじめとする、同社の薄板化学強化ガラス約5200枚を用いて、10億倍にまで拡大したガラスの分子構造「Amorphous」が出現する空間をつくりだした。つまり「ガラスそのもの」を見せた展示だといえる。空間デザインを太刀川瑛弼さん率いるNOSIGNER、ライティングデザインを岡安泉さん(岡安泉照明設計事務所)がそれぞれ担当。

“軽やかで、自由で、表情豊か”…このインスタレーションはガラスの概念を覆すものであり、これからのガラス技術の可能性を示唆するショーケースだ。「Amorphous」はどのようにしてつくられたのか?太刀川瑛弼さんとAGC旭硝子の主席研究員である小西順子さん、そして岡安泉さんにお話をうかがった。

AGC旭硝子がミラノサローネで見せた
ガラスの根源的な魅力と可能性

太刀川瑛弼(以下、太刀川):序盤戦は色々な提案をしながら、AGCさんがやりたいことと、ミラノサローネに来る人たちが体験したいこと、どういうアイデアだと腹落ちするだろうか考えました。最初はガラスを素材としてどう使うかを提案していたんですけど、「そもそもガラスってなんだ?」ということに向き合わないと答えが出ないぞと思うようになりました。

太刀川瑛弼さん(NOSIGNER)

太刀川瑛弼さん(NOSIGNER)

ガラスは紀元前5000年ぐらいからある素材なんですけど、ある種の科学や錬金術の象徴でもあると思うんですよね、濁った石を溶かすとガラスに変わるという話ですから。そういう奥にあるストーリーが紐解けるものをどのように表現するかを考え、ガラスの持っている構造そのものをテーマに置いたあたりから、色々なことが自分の中でスッキリしてきて。ガラスがどういう組成でできていて、どうやってつくられ、そして強化されてきたかは、僕の提案とは関係なくガラスという素材の歴史にはすでにあることなので。

最終的には「ガラスの分子構造」というアイデアに決まり、僕も岡安さんも「コレはイケる!」と思っていましたが、スタート時点ではまだ完成形がぼんやりしているわけですよ。僕はプロダクトデザイナーであり建築家だから、当然いろんな形でガラスを使ったことはあるけれど、改めて向きあわないといけないことが沢山あって。そういうことは学びでしたね。その学びは苦しかったけど楽しかったですね。

「Amorphous」展示風景

「Amorphous」展示風景

結果的には、分子中の原子の形状をした5200枚のガラスを組み合わせて、十億倍に拡大したガラスの分子構造模型をつくりました。ガラスの分子構造模型としては世界最大でしょう。

小西順子(以下、小西):AGCはこれまで技術展には多く出展してきました。その中でマーケティングやPRをしてきたんですけども、いまの時代はデザイナーの方が商品設計を決めるところがありますので、デザイナーと直接会話をしたいと思いミラノサローネに出展しました。

小西順子さん(AGC旭硝子)

小西順子さん(AGC旭硝子)

今回使ったガラスは今までにない特殊なもので、軽やかで自由で表現豊かなガラスなんですね。それってガラスの概念を覆すものなので、逆を言えばガラスの良さが失われる危険性もあります。プラスチックみたいにチープに見える恐れもあったんですけど、結果的にはそういった事はまったくなく、ガラスの持っている輝きとかシャープさが表現された展示になっていました。期待していたとおりガラスの美しさと、私たちの持っているテクノロジーを上手く表現していただけたと思っています。

太刀川:見たことのないものをつくりたいと思っていました。ミラノサローネはそういうものが求められる場所でもあるから。でもそれは、AGCさんにとって意義のあるものじゃないといけなくて。僕は初めてミラノサローネに参加するのですが、なんでみんなが出展するのか不思議だったんですよ。そのデザインは出した後にメディアの中で消費されるだけなのか?という疑問があったので。単純にかっこいい表現をやるっていうのは簡単ですよね。もちろん「綺麗だった」ということだけで良いのかも知れないですけど、それを超えた意義を持ちたいという気持ちがありました。

だから「なんのために?」というところを、絶対に設計しなきゃいけないと思っていて。だからエネルギーのためだったり、自然と人間のためだったり、社会とガラスの間にあるテーマに立脚するような提案を最初は出していました。最終的には「ガラスの科学」をテーマにしました。どこまでできたかは分からないですけど、分子構造という見えないものを目の当たりにして、もっと深い理解に導くことができたのであれば、それはやった甲斐があったのではないかな。

ガラスの進化過程を凝縮したストーリー
ガラスでしか表現できない圧倒的な美しさ

太刀川:自分でいうのもなんですが、でき上がったものは圧倒的に綺麗です。写真に撮るとCGなんじゃないかと疑ってしまうぐらい。光の当て方や反射のさせ方で、色々な表情ができるんですよね。岡安さんが光を丁寧に見つける時間を取ってくれて、それを3分40秒ぐらいのストーリーに編み上げていただきました。マグマから化学変化が起こり、だんだんガラスのようなものになり、それが色々な表情を持ち、最終的には「ドラゴントレイル」みたいなすごいガラスになるという、コンセプトに合ったストーリーが最終的には出来ました。

一週間ぐらい展示会場にいたんですけど、綺麗だからやっぱり自然と目で追ってしまう。接客しながらも1日2~3時間は見てるので、合計すると20時間ぐらい、施工からも含めると100時間ぐらい見ていたことになるんですけど、まったく飽きないんですよね。これは凄いことだなと、色々な表情を見つけていただいたおかげだなと思いました。

小西:照明と音楽がストーリーになっているのは、最初は知らずに初日を迎えてしまって(笑)。ストーリーを聞いてすごく盛り上がりましたね。今回の展示では8種類のガラスを使ったんですけど、それぞれの良さが分かるような照明方法にしてくださっていて。例えば、最初の方はミラーが生きるような照明とか、ダイクロイックミラーが生きる照明の当て方みたいな。「ガラスってこんな風に見えるんだ!」というのは、私たちガラスを扱っている人間側からしても、すごく勉強になりました。

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