アレキサンダー・ティネイは1967年、モルドバで生まれる。身体にタトゥーのような青い線が描かれた若者たちの肖像画で知られるアレキサンダー・ティネイ。彼の絵画に登場する人物は、雑誌やインターネット上のソーシャル・ネットワークから抽出した画像などをもとに描かれている。人物を元の世界から切り離し、現実と虚構の狭間のような世界に配置し直して、そこから新たな物語をつくり出す。

「私は誰なのか？」という哲学的な問いについて、ティネイはこれまで繰り返し考えてきた。彼が生まれ育ったモルドバは、ソビエト連邦の一部であった当時、ロシア語を話し、ロシアの英雄たちを受け入れ、強制的に他国の文化を押しつけられてきた。ティネイは過去を振り返り、モルドバの人々はその不当な要求を何の疑問もなく受け入れていたのではないかと感じている。

ティネイ特有の皮膚に描かれたタトゥーのような青い線は、現代のファッションであると同時に、人間の内面を表している。1人1人に刻まれた記憶、あるいは恐れや痛みなど、そこには唯一無二であるべき人間の個性が宿っているのだ。そして今、ティネイの関心は、その人間が置かれた環境、社会的背景へと向かっている。

日本で2回目の個展となる本展では、キャンバスに油彩で描かれた新作絵画10点あまりが展示される。孤独、寂しさ、他者との関係性などを表現した作品群は、過去のドローイング作品「I collect all my tears」のシリーズとも関連している。自身の作品が穏やかになることを許さないように、常に挑戦を続けるアレキサンダー・ティネイの待望の新作をぜひご覧いただきたい。