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デザインのチカラ : デザインの現場に取材し、ディレクションの考え方、製品デザイン等に迫る


INTERVIEW 10


INTERVIEW 10:日産自動車 グローバルデザイン本部 プロダクトデザイン部 プロダクトチーフデザイナー 井上眞人氏



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キーワードは「EVアイコニック」と「リアルカー」


日産自動車が初めて本格的に取り組んだ電気自動車「リーフ」。具体的にデザインを落とし込む際に重要視したキーワードは2つある、とチーフデザイナーの井上眞人氏は語る。




井上氏  「まず一つ目のキーワードは電気自動車であることを主張するデザインで『EVアイコニック』と表現しました。これまでになかった新しい自動車と印象付ける外観的特徴がこの電気自動車という新ジャンルを選ぶ方々にとって絶対に必要だと考えたからです。そしてもうひとつのキーワードが『リアルカー』です。リーフは世界初の大規模量産電気自動車として北米と欧州にも同時期に発売するという非常に野心的な取り組みでした。そのために、世界で広く知られ、実際に使ってもらえる車であると一目でわかることを重視したのです。」

開発当時の電気自動車に対する世の中のイメージは、ともすればゴルフ場のカートのように、ゆっくり走ることしかできないというものだった。しかし日産自動車が目指したのは「本当に使える車=リアルカー」だ。掲げた2つのキーワードを成立させるには、既存のガソリン車の動力機構を単に電気に変えるのではなく、ゼロから電気自動車のメリットを結集したEV専用ボディーをデザインする必要があった。さらに具体的なデザインの方向性として、フレンドリーな印象を抱いてもらえる「親しみやすさ」が新しい電気自動車には不可欠だった。集められたデザインチームは、井上氏が先行開発で組んだことのある、気心の知れたメンバーが中心となった。

「リーフのオリジナルデザインを担当したデザイナーは、2003年発表の『エフィス』という燃料電池車を私と共にデザインした経験がありましたし、デザイン決定最終段階での対抗案を担当したデザイナーは2007年発表の『ミクシム』を手がけたデザイナーでした。そういう点では電気自動車開発にどっぷりつかったことがあるメンバーだったとも言えます。
電気自動車を選ぶユーザーは進歩的なマインドを持っているけれど、あまりエキセントリックなデザインに持って行きすぎると返って受け入れてもらえなくなる。それよりも日々の電気自動車のある生活の中で新しく見えてくる親しみやすいデザインは何かと考えていました。新しいけれども親しみやすさもある、それが最終案の決め手のひとつになりました。」

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電気自動車としての個性


リーフの外観的特徴はなんといっても、充電口だろう。ガソリンスタンドの感覚を思い出すと、側面に充電口があるイメージを持ってしまうが、EVアイコニックを貫くデザインでは、特徴を“顔”の真ん中で示したのである。



井上氏自身、毎日の通勤でリーフに乗り、帰宅後の充電までが一連の習慣になっていると言う。


「箱根にある自宅から厚木の会社まで、毎日リーフで往復していますが、ガソリンスタンドに行かなくていいのは驚くほど負担が少ないと感じますね。1年で2万8千キロほど走っていますが、燃費(電費)はガソリン車の1/10程度。これまでのガソリン代は月5〜6万かかっていたのが、リーフでは5千円程度になるわけです。通勤で長い距離を走る人に会うと必ず薦めてしまいます(笑)。
帰宅後は分電盤から車庫に引いたコンセントと充電口をつなぐだけ。普通充電では8時間でフル充電できるので1晩置いておけば、翌朝そのまま出かけられます。最もEVアイコニックな部分である充電口にプラグを差す時に『今日もご苦労さん』といった対話が毎日の習慣となる、というのも電気自動車が新しい乗り物だなあと感じられる瞬間です。」

また、ブルーのヘッドランプも特徴的だ。コンパクトに削ぎ落とされたフロントフード両側に大きく突出した「ブルーの目」が新鮮だ。ここには世界で初めて、LED片側2灯式が採用されている。



「通常のヘッドランプは消費電力がかなり大きいのですが、LEDを使用することで消費電力が1/2以下になっています。先行開発時にヘッドランプの下側に収めたLEDが2度リフレクターに反射して光る新しい仕組みになっているのを見て、この反射を使って新しい『電気自動車の目』ができるのではと直感しました。ランプ内部にブルーの板を入れ、それが内部で反射することでブルーに光る目に見える。それをEVアイコニックな要素のひとつとしたかったのです。」

電気自動車ならではの新しい空力のあり方もこのヘッドランプは実現している。

「ガソリン車はまず、エンジン音が聞こえ、運転中にも風切り音が混ざって聞こえますね。一方電気自動車はエンジンではなくモーター音しか聞こえません。振動もなくなるので非常に静かですし、耳に入るのはロードノイズと風切り音だけ。ロードノイズは装備のタイヤで異なるため、デザインで解決できるのは風切り音でした。突出したヘッドライトの位置や形状を微妙に変えて、最大の風切り音発生源であるドアミラーへの気流の直撃を避けることにより風切り音が車内では1デシベルも違うという測定結果が出たのです。結果として風切り音レベルは日産車中最も静かになっています。リーフのヘッドランプ周りはEVアイコニックであると同時に、電気自動車が必要とする空力デザインを突き詰められたと思っています。」

一方、インテリアでは、電気自動車としてのアイコニックさを強調しつつ、室内空間が世界標準で狭いと言われないようにしよう、と狙いを定めた。


EVアイコニックブルー(インテリア)

「室内の広さは、リアルカーの要件のひとつであると考えました。電気自動車は小さくて狭い乗り物だというような先入観を払拭したかったから。デザイン的には非常にコンフォタブルで自然な流れのある明るい空間の中に、ツインデジタルメーター、フローティングセンタークラスター、電制シフトといった最新の電子デバイスを配した、『コントラスト感』を大切にしながら未来的な空間を追求しました。カラーリングも室内全体を日産自動車の中では一番明るい『エアリーグレー』を基調とし、アクセントとして電気自動車を象徴する『EVアイコニックブルー』を要所に配置しています。」



室内空間を犠牲にせず、電気自動車のネックである航続距離を伸ばすためには、ガソリン車に求められる以上にシビアな空力的対応を求められた。

「時速100Km/hでは走行抵抗の60%が空気抵抗と言われますが、これを低減することは電気自動車デザインの大きなポイントです。リーフの場合は、超大型のリアスポイラーでルーフの気流を最適化し、テールランプもスポイラーの役割をしています。車体横を流れた空気を巻き込むのではなく、カットするためのスポイラーです。これらと連動してボディー下の気流をコントロールする為に、車両下面までデザイナーが関わっています。ガソリン車はマフラーなどで空気の流れが一定ではありませんが、このリーフでは車体の前から後ろまでフィンが通っていて、そこを空気が全く乱れずに流れるのが大きな特徴です。車体の下の流れと対抗できるよう上の大きなスポイラーと、エッジ感を意識したリヤフェンダーで工夫し、全方向の風を内側に巻き込まないようにすることで、空力抵抗を少なくしています。一般に後席の頭部空間を犠牲にすることが空力改善の近道なのですが、リーフの場合はこれらの合わせ技で良好な空力特性を得ています。リアルカーとして世界中で受け入れられる広々とした室内空間の誕生です。」

様々な工夫の積み重ねで快適な車内空間と個性的な外観が両立できた。そして、さらに追求すべき課題点として持ち上がったのは“サウンド”の問題である。

>>次回は6月末に追加予定です





プロフィール

日産自動車株式会社 グローバルデザイン本部 プロダクトデザイン部 プロダクトチーフデザイナー
井上 眞人

'79年千葉大学工業意匠科卒業。
'84年Art Ceter Collage of Design修了。
入社後、インテリアデザイナー、エクステリアデザイナーを経て、
'89年にシニアデザイナーに就任、初代ステージアや8代目ブルーバードなどの量産車のデザインを手掛ける。
'01年に先行デザイン部のチーフデザイナーに就任後は、PIVOシリーズなどコンセプトカーのデザイン開発を担当する。
また、'07にプロダクトチーフデザイナーに就任後は、量産型電気自動車の日産リーフのデザイン開発を担当した。


リンク

日産| リーフ [ LEAF ] Webカタログ

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