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デザインのチカラ : デザインの現場に取材し、ディレクションの考え方、製品デザイン等に迫る


INTERVIEW 10
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2012/04/25 UPDATE
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電気自動車の開発

ARTICLE 3
2012/06/27 UPDATE
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電気自動車ならではの、「音のデザイン」


INTERVIEW 10:日産自動車 グローバルデザイン本部 プロダクトデザイン部 プロダクトチーフデザイナー 井上眞人氏



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ARTICLE 10

電気自動車ならではの、「音のデザイン」


「リーフ」の開発にあたり、従来の内燃機関(エンジン)の車では考えられなかった新しい課題も持ち上がった。そのひとつが音だ。ドライバー用と歩行者用に、エンジン音の代わりとなる音をデザインしていった。



井上氏  「いままでのエンジン車は、キーを回すとエンジンが始動して、エンジン音が聞こえます。そして、これからアクセルを踏むと車が動くぞ、という実感がわきます。つまりドライバーにとって、エンジン音は『さあ、これから運転するぞ』という気持ちになる一つのトリガーとしての役目を果たしていたことに気づきました。しかし、電気自動車はスイッチを押し、システムを起動しても無音のままです。無音のままでは、まだ起動していないのではないか?アクセルを踏んでも動かないんじゃないか?と感じてしまう。そうした心の状態とは裏腹に、車が急に動き始めたら、それは驚くし、危険だと思います。
だからこそ、“トリガー音”がなければならないと考えたのです。そこで、スイッチを押すと、EVシステムが起動したことを知らせる“スタートアップサウンド”を作ろうよ、とインテリアデザインに取りかかるのと同タイミングで提案しました。そして、この提案は社内でも賛同を得ることができ、早速着手することになりました」

スタートアップサウンドの検討をするため、100種類以上ものサウンドを作った。実は井上氏も、そしてデザイン部門を担当する常務執行役員チーフ・クリエイティブ・オフィサーである中村史郎氏も、プライベートでは音楽活動を趣味とする共通点があり、サウンドについては深い見識がある。リーフの「スタートアップサウンド」を決めるためのミーティングが、デザインを決定するためのミーティングと同様に行われた。

「最終的には3つの音をつくり、新車購入時にデフォルトでセットされている音に加え、好みに応じてさらに2つの音を選べるようにしました。
まず、車のデザインと同様に、キーワードとコンセプトを決め、サウンドの方向性を確立していきました。その過程で強く意識したのが、“日本的な音”。リーフは世界中で販売される電気自動車なので、この車は日本製なのだと認識されるように、“日本の音”を追求しました。新車起動時にまず聞こえるデフォルト音は日本の伝統建築に見られる『水琴窟』(*註1)をヒントに開発しました。
他の2つの音は、コミカルな音、民族調の音と遊び心がたっぷりで、リーフのオーナーは、好みや気分に応じて自由に選ぶことができます。」

車内にいるドライバー用の音だけでなく、車外にいる歩行者向けの音も課題だった。電気自動車はあまりにも静かに走行するため、歩行者は車両が接近していることに気がつかない場合がある。実はエンジン音は歩行者にとっても必要な情報だったのだ。しかし、音が静かなことは電気自動車の大きな魅力。歩行者向けに音を出すことが、新たな騒音とならないように配慮し、かつ歩行者に静かな電気自動車の存在を知らせるための“サウンド”をつくっていった。



「私自身も実際にモーター走行時のハイブリッド車を運転していて、ヒヤリとした経験がありました。また、歩行者向けに音を外に出す必要性は、開発に関わっていた全員が考えていました。法規などに抵触しないよう、関係する各方面の方々と綿密な話し合いを重ね、国内だけでなく、海外のお客さまの意見も参考にさせていただきました。
そもそも電気自動車は静かに走行できる点が優れているのですから、うるさくなっては意味がありません。遠くからでも聞こえるけれど耳障りではなく、車両の存在を知らせることができる上に、ドライバーの気にも障らず、必要にして十分な音。それは一体どのような音か?試行錯誤の上にたどりついたのが、やや金属的に感じる高音中心で、かつ耳ざわりの良い音です」

(*註1)水琴窟:庭や茶室の外に仕組み、水滴が落下して発する、かすかな水音を楽しむ装置

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電気自動車の未来を切り拓く、リーフ


リーフでは、電気自動車ならではの、そしてこれからの電気自動車のベンチマークとなる要素が、さまざまなデザインによって具現化されている。車内で様々な情報を直感的に把握できるデジタルメーターやインジケーター、専用に開発されたナビゲーションシステムなど、動力源がガソリンから電気に切り替わったために得られる運転経験を、より豊かで楽しいものにできる工夫が満載だ。
そして、それを表現するエクステリアは、新技術を殊更アピールするような先端的なデザインではなく、懐の深いフレンドリーなデザインが選ばれた。




「エクステリアデザインでは、最終的に3つの案を検討しました。1つ目が、いわゆる白物家電風なクリーンで無機質なデザイン。2つ目が、コンセプトカー『ミクシム』を原型にした、ちょっと人を驚かせるようなデザイン。そして3つ目が、幅広い需要に応えるバランスをもった空力的デザインです。
そして、後者の2案をフルサイズモデルで検討した結果、世界中のお客さまに受け入れてもらえて、量産、量販する電気自動車として成功するモデルとは、エキセントリックすぎるものではなく、バランス感覚を持ったものでなければならないと考えました。我々は『smart fluidity』と呼んでいますが、リーフのデザインは、スマートな流動体をイメージしています。電気自動車がもたらすスマートな生活に向かって、風が磨き上げたような車体デザインを想定しました」

リーフが切り拓いた電気自動車の未来は、これからどうなっていくのだろうか。まだまだ改善していくべきことはあるが、と前置きしつつ、井上氏はリーフが持つ大いなる可能性を確信していると語ってくれた。




「さらなる技術発展をともなって、今後も電気自動車は増えていくでしょう。バッテリーの性能も向上するでしょうし、そのバッテリーを家庭用の非常電源として活用したり、車としての役目を終えた後にバッテリーをとりだし、二次利用するという提案も、私たちと電気の付き合い方を変えるきっかけになるでしょう。この先、電気自動車は更に、普及していくと思います。
そして、普及すればデザインの幅も広がります。今は電気自動車の先駆者として、リーフには道なき道を切り拓いていく使命が与えられていますが、今後は電気自動車のスポーツカーやミニバン、商用車などが登場してくるでしょう。様々なジャンルで、新しいスタンダードを電気自動車がつくり出していくのではないでしょうか」

エネルギーとの新しい付き合い方が模索される今こそ、効率の良いエネルギー利用のあり方を提案する電気自動車の未来は、明るいに違いない。さらなる進化を見せてくれるであろう、リーフへの期待も、高まってくる。






プロフィール

日産自動車株式会社 グローバルデザイン本部 プロダクトデザイン部 プロダクトチーフデザイナー
井上 眞人

'79年千葉大学工業意匠科卒業。
'84年Art Ceter Collage of Design修了。
入社後、インテリアデザイナー、エクステリアデザイナーを経て、
'89年にシニアデザイナーに就任、初代ステージアや8代目ブルーバードなどの量産車のデザインを手掛ける。
'01年に先行デザイン部のチーフデザイナーに就任後は、PIVOシリーズなどコンセプトカーのデザイン開発を担当する。
また、'07にプロダクトチーフデザイナーに就任後は、量産型電気自動車の日産LEAFのデザイン開発を担当した。


リンク

日産| リーフ [ LEAF ] Webカタログ

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