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本気のアニメーション制作をした立派な大人たちのなかで、主犯格ともいえるのが神風動画とAC部だ。同作のアニメーション制作を担当した神風動画の代表取締役の水崎淳平さん、そして本編に挿入される謎のコーナー『ボブネミミッミ』を手がけたクリエイター集団AC部の安達亨さんと板倉俊介さんに、この前代未聞の作品で試みたことは一体何だったのかを振り返ってもらった。
――神風動画とAC部はいつ頃からのつきあいになるんですか?
水崎淳平さん(以下、水崎):いろんなクリエイターたちが架空のスポーツ競技の短編動画をつくって劇場公開した、『東京オンリーピック』(2008年)に呼ばれたのが最初かな。その前に、共通の知人であるギークピクチュアズの木村大助さんの結婚式でAC部さんがVJをしていたのを見かけました。勝手に気取っている人だと思っていたんですが、物腰が柔らかそうで急に大好きになっちゃいました(笑)。『ポプテピピック』のヘルシェイク矢野の回にAC部さんの姿がテレビに出たんですが、視聴者にはギャップはあったようで本人だと思ってない人もいましたね。
安達:作品と中身が違うとよく言われるんです。
板倉:やっぱり、変だと思われる作品を出しているからこそ、丁寧にしようと気をつけていますね(笑)。
――お互いの作品にはどういう印象がありましたか?
板倉:僕は『ナンバー吾』で衝撃受けましたね。当時3Dアニメーションはグラデーションがかかったモデリングが普通だったので。
水崎:『ナンバー吾』は『IKKI』の月刊化に合わせての創刊1周年プロモーション映像として作成したもので、松本大洋さんのタッチを忠実に再現したフル3DCGアニメですが、当時はそういう試みをしてるスタジオはなかったですね。僕からのAC部さんの印象は、つくる作品がいちいちおもしろくて、僕は笑いを呼び起こす映像を本当はやりたかったので悔しかった(笑)。「神風動画かっこいい!」って言われるようになってからギャグ作品は頼まれなくなって……。スタッフは知っているんですけど、もともと僕は『ミスタービーン』のようなシュールな笑いが好きなんですよ。
安達:へーちょっと意外。
――AC部のおふたりの中でも違いはありますか?
安達:けっこうありますね。でも麻痺しているので、それで明らかにしようと最近しました。若い時は勢いでとにかく作品をつくっていましたが、いまはもう無理がきかないので(笑)。
水崎:おふたりを見ていて感じるのは、最終的に出てくる絵やタイミングは極めて近いんだけれど、元のマインドが違うんです。違うところからスタートしてるのに同じところへゴールしようとしてるから、アプローチの途中のズレがおもしろいのかなと勝手にみなしています。
安達:途中でAC部を通らないといけないので、まとまらざる得ないんです(笑)。
――そもそも『ポプテピピック』は原作からして、過剰な表現の作品と言っていいと思うのですが、既存のアニメの構造を解体するようなカタチでアニメ化された経緯は?
水崎:声優の上坂すみれさんの『革命的ブロードウェイ主義者同盟』(2013年)のミュージックビデオをAC部さんと制作したときにキングレコードさんとご一緒したことがあったので、アニメ化の企画が3~4年前に神風動画に持ち込まれました。最初はオーソドックスな作画からスタートして、途中でおもちゃのようなCGが挟まって、後半はAC部で突き放して終わらせるのがいいと思って構成しました。
それと、ゲームのムービーのようにブロックやシーンごとにディレクターが変わってもいいかなと思って。こことここのシーンはAC部さんに任せてみたいな。なので、上坂さんのMVやゲームのムービー制作の構造がポプテピピックに近いかもしれないですね。AC部さんと一緒なんだけど作品内で混ぜないというのも、『ポプテピピック』で初めて取り組んだわけではなく、いままで試みていてウケがよかったものなので、今回は地上波で挑戦しました。
――こういった手法はアニメーションではポピュラーなわけではないですよね?
水崎:みんな避けますよね。もしかしたら、真島理一郎さんが企画して我々が参加した『東京オンリーピック』が初だったんじゃないかな?
安達:自分も思い浮かべましたね。やっぱり真島さんの先見性がすごいと思った。
板倉:でも、原作がある作品でやる発想にはなかなかいかないですよね。
――原作者や原作のファンに気を使うと、大胆なことはしにくいと思いますが……。
板倉:そうですね。作者の大川ぶくぶさんが許してくれたのはけっこう大きい。
水崎:ホワイトボードにタイムラインと構成を書いて、僕たちにバラエティとしてのプランがあることを大川ぶくぶさんに直接伝えました。AC部さんが参加する件に関しては、大川ぶくぶさんがファンだったので、むしろ嬉しがっていましたね。AC部さんの高速紙芝居を見せたら、「こういうのもやりたい」って(笑)。キングレコードのプロデューサーの須藤(孝太郎)さんは、上坂すみれさんの前例がすごく良い記憶だったようで、たぶん神風動画に声をかければAC部さんも来るだろうと思われていたみたいです(笑)。
――もともと3人は原作を読まれていたんですか?
安達:ネット上で煽り画像がよく貼られていたのは見ていました。
水崎:SNSを見てると貼られますもんね。僕は初見だったんですけど、須藤さんが単行本を持ってきて、斜に構えて「ふーん、おもしろいな」みたいな(笑)。
板倉:存在自体は知っていて、頭の隅にずっと残ってたんですよ。それで神風動画さんからお話をいただいたいた時に引き当てた感じがありました。
水崎:ほかの作品にはどのくらいアンテナを張られてるんですか? 僕はマンガは『カイジ』の福本先生の作品と『闇金ウシジマくん』しか読んでない(笑)。
安達:ネットフリックスなどで作品が充実するようになってから、見る機会が増えました。テレビと違ってネット配信はいつでも見られるし。それと作業しながら見るのがけっこういいんですよー。単純作業に飽きて眠くなっても、興味のあるものが映っていると持続できる(笑)。
水崎:よく集中できますね(笑)。でも、うちのスタッフもサブモニターでYouTubeを流し見してますね。確かにいろんな作品が見やすくなりましたよね。以前は深夜アニメを録画してわざわざ朝に見ていたけれど、いまはネットでパッと見られる。がっつりは見ないんですよね。
――ポプテピピック自体もネットで配信されてますよね。
安達:もうありとあらゆるところでやっていて。
水崎:ネットフリックスで出てくるとドキッとします。どこへ行っても奴らが立ちふさがる感じはなんかいいですよね。ポプテピピックがいろんなサイトで見られる状況になっていたので、あちこちでの配信は当たり前なのかと思っていましたが、ほかの新作アニメが始まった時に配信があまり見つからなかったですね。
――番組内のいちコーナー的存在の『ボブネミミッミ』ですが、AC部にはどのようなオーダーをされたんですか?
安達:作品の内容を知っていくと、キャラクターが毒を吐いたり煽ったり挑発することがわかって。可愛い見た目とのギャップで見せるという、高度な技術を用いた作品なので咀嚼して表現しようとしましたが、すごい滑るか叩かれるかになりかねない予感がして。だから思いっきり原作から外して、「これはポプテピピックではありませんよ。間違ったコーナーがアニメの中に入っちゃいました」というスタンスで企画しました。
板倉:自分たちは「作品を公開してどれだけ反響があるか」を意識してつくっているので、「絵を描いて楽しい」のは二の次なんですよね。滑ることは大失敗なので最初は正直怖かったですね。
水崎:過去にギャグマンガをアニメ化した時、僕は滑っている作品が多い印象がしていて。だから滑ることは我々にも降りかかるかもしれないと思い、予防線をめっちゃ張った結果でこういう構成になったという(笑)。ギャグアニメをつくるのは本当に難しく、マンガを読むテンポは人それぞれなので、正解のテンポは存在しないんです。声も正解の声はないので。具体的な作品名は伏せますが、小中学校の時に僕の大好きなマンガがアニメ化されて、何もかもハズレだった。それで原作のマンガにまで興味がなくなってしまいました……。
安達:アニメはありますよねー。想像していた色が違うとか。
水崎:ただ、自分はハズレと思っていても納得して見ていた人もいるかもしれない。『ポプテピピック』を原作ファンの方はどう読んでるのか考えて、「よしこれはリスクを分散しよう(笑)」と。神風動画はちゃんとやる役目に徹しました。そこから遊びの幅を出すために、何をするかわからないAC部さんを境界線にして、ほかのクリエイターさんには「ここより向こうに行かないで」って伝えて(笑)。
板倉:僕らのパートは原作の絵ではない自分たちの絵なので、反応がわからなくて怖かったんですけれど、神風動画さんがちゃんとしたパートをつくると思っていたから、そこを隠れ蓑にできるかなって(笑)。でも、作品にAC部のクレジットが入ることを後から知って、その時に僕はハシゴを外されたと思ったんですよ。「自己責任か〜!」と思いました(笑)。
水崎:ははは(笑)。でも、おもしろかった人をはっきりさせたいというのがあったので。それが活力になると思ったんですよね。あと、シリーズ構成を担当した青木純さんの功績だと思っているのですが、実は納品された順番通りに放送したわけではなく、12話分の要素を山にした状態から並べて組み合わせていったんですよね。カラーを統一するセンスが素晴らしかったです。
板倉:わかってる人がいた感じですね。
安達:それがうまい具合にことごとく刺さっていましたね。
――普段はどのようなツールを使って制作されているんですか?
板倉:PhotoshopとAfter Effectsです。身近すぎてもはや当たり前になっているのですが、改めてすごいと思うのはラフの状態から時間を短縮してつくれることで、特にPhotoshopはある程度完成が見えるところまでパパッとつくれるところですね。
水崎:あのアニメーションはPhotoshopのタイムラインで描かれてるんですか?
板倉:タイムラインはAfter Effectsです。
安達:レイヤーを重ねていって、「表示/非表示」のボタンをパパパっと切り替えています(笑)。
――タイムラインの「表示/非表示」は使わないんですか?
安達:そこをあまり学んでないんですけど、タイムラインではなくステムをたまに使います。ある程度枚数が描けたら、並べて確認して消して、また描いて。
水崎:でもすぐに再生できないと、なめらかさをチェックできないのでAC部さんにとっては都合がよいかもしれない(笑)。
安達:それはあるかも。想像して積み重ねて描いて、それを見直しみたり。
水崎:僕もPhotoshopとAfter Effectsは必須で、Photoshopはレイヤーができる前のバージョン2.0から使っていますね。コピーペースト機能だけで、手書きの絵よりも新鮮で。けっこうオールドユーザーかもしれませんね。
――先程もネットで視聴することが話題に出ましたが、最近気になっている事柄はありますか?
板倉:最近はスマホ用に縦型の動画をつくる仕事が発生しているんですけれど、それは大きく変わってきている点だと感じます。僕はまだ違和感あるんですけれど、ユーザーに合わせていかないとなと。スマホを握りながら見るので、なんというか小さいものをつくっている感じがありますね。
水崎:縦で遊ぶスマホのゲームのオフィシャルムービーは縦型でつくるんですよ。縦で納品はしているんですけれど、公式のサイトでは横が必要になるんですよね。ただ、縦の映像と横の映像はそれぞれ別の用途で使われていくだけなのがもったいなく感じたので、縦の映像と横の映像をデバイスのセンサーで表示を切り替える仕組みを考えてみました。スマホを立てたときは縦型の動画、スマホを寝かせた時は横の動画が映る仕様にしています。この方法は今後求められていくなと思い、『タテヨコ』という技術として特許を取ったんです。
『ポプテピピック』では縦と横で声優の音声だけが切り替わったり(現時点では体験版アプリの配信は終了)、ほかの作品ではアニメ映像と声優さんのアフレコの様子に入れ替わったり。これは2種類のムービーをデバイスのセンサーで画面を切り替えるという仕組みです。今後いろんな見せ方が出てくると思うんですよね。まだまだ駆け出しなので、みなさんに届くインフラになるまではもう少し先かと。オリンピックまでには間に合うようにしたいですね!
取材・文:高岡謙太郎 撮影:中川良輔 編集:瀬尾陽(JDN)
タイトルデザイン:有馬トモユキ(TATSDESIGN)
制作協力:アドビ
TVアニメ「ポプテピピック」公式サイト
http://hoshiiro.jp/
神風動画
http://www.kamikazedouga.co.jp/
タテヨコ
https://tate-yoko.jp
AC部コミュサイト
http://www.ac-bu.info/
「世界を動かすデジタル体験を」をミッションに掲げ、Adobe Creative Cloud、Adobe Document Cloud、Adobe Experience Cloudの3つのクラウドサービスで優れた顧客体験の提供を支援。
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