デザインの立ち話-ものづくりから新たなバリューチェーン構築へ

デザインの立ち話-ものづくりから新たなバリューチェーン構築へ

こんにちは、JDNの山崎です。前回のコラム「サローネ・サテリテで出会ったデザイン」はいかがだったでしょうか?まだの方はぜひご覧ください。

今回はデザインを発注する側、事業に活用する立場からのお話も聞きたいなと考え、株式会社TRINUS(トリナス)代表の佐藤真矢さんを訪ねました。佐藤さんとはじめてお会いしたのは10年以上前。佐藤さんがアクセンチュアに在籍されていた時、プロボノで手がけられたデザインコンペがあり、当社でその実施をお手伝いさせていただいたのがご縁のはじまりです。

その後、独立された佐藤さんは2014年にTRINUSを設立。日本各地の企業や地域の課題に外部の知見を取り入れて解決を目指す―とりなす―ものづくりコミュニティ事業をスタートしました。初期の代表的な商品である「花色鉛筆」を見たことがある人も多いのではないでしょうか?JDNでも2016年の記事でご紹介しています。

先日、佐藤さんに久しぶりにお会いしたところ、コロナ禍を経てD2C(Direct to Consumer)事業を軸にした企業に変身されていて驚きました。秋口には幕張にカフェまでオープンするそう。ここ数年の変化についてお聞きしました。

■“枝もの”専用の花器「EDA VASE」

EDA VASEに枝を生けるTRINUSの佐藤真矢さん

TRINUSがD2Cに大きく舵を切るきっかけとなった製品が、「EDA VASE(エダベース)」という“枝もの”専用の花器だそうです。青山フラワーマーケットとの共同開発で、プロジェクト自体はコロナ前からはじまっていましたが、完成形にいたる道のりは簡単ではなく、発売開始は2021年12月とコロナ渦真っただ中。

枝ものの花器の特徴は、枝を受け止めるための高さと重さにあります。場所を取り、重たいので水替えが大変なのが課題でした。枝ものの花器に求められる機能を分解し、再構成したのが「EDA VASE」です。台座はコンクリート、支えはスチールロッド、花瓶そのものはポリカーボネート製、支えはボルトによって外すことができます。2022年のRed Dot Awardを受賞、意匠登録もされています。

製品名と青山フラワーマーケットとのコラボの証が刻まれた台座

■「EDA VASE」からはじまる新たなバリューチェーンの構築

「EDA VASE」の開発・販売を通し、枝を買うことの難しさに気づいた佐藤さん。枝は店頭で場所を取るので小売り現場では敬遠されがち、安定した供給体制もない、たとえ売っていたとしても大きな枝を電車に乗って持って帰ることが難しい。そこに、コロナ禍でお家時間が増えて、インテリアへの関心も高まった時期が重なりました。

こうした背景からスタートしたのが、枝ものを配送する「枝もの定期便」。月に一度、枝ものが届くサブスクリプションサービスです。

「枝もの定期便」公式サイト

「枝もの定期便」公式サイト

枝ものを安定して仕入れるために森林組合と提携。これまでは杉林の下草狩りで雑草として扱われ、捨てられていた小さな木をまとめて仕入れることにしました。もともと捨てていたものを経済活動の中に位置づけ、地元経済の活性化や森林保全にも役立たせるという仕組みです。

林業の問題については、私も国産材家具サミット(※)を通して学び、問題認識は持っているものの、実際に動いてビジネスモデルにまとめあげる佐藤さんの発想と行動力は本当に素晴らしいと思いました。

創業の事業であるものづくりから生まれた「EDA VASE」、それを起点に流通だけでなく生産まで手がける新しいビジネスモデルを構築されたTRINUS。「枝ものがある空間に接してほしい」という考えでカフェを展開する、という話もここまで説明を聞くと納得です。

※積極的に国産材を利用する国産家具メーカー5社(カリモク家具、カンディハウス、天童木工、飛驒産業、ワイス・ワイス)が一堂に会するトークイベント。2016年から2019年にかけて旭川と高山、東京で9回開催。山崎は世話人・進行役です。

枝が出し入れしやすいように輪の一部を開けています

■デザインとの出会い、これからの期待

佐藤さんとデザインとの出会いは、私がご一緒したデザインコンペだったそうです。ある日、佐藤さんから一通のメールが来て、アメリカ大使館の隣にあるアクセンチュアを訪問したことをよく覚えています。ネットでコンテストの実施の外部委託先について調べ、当社にお声かけいただいたそうで、とても光栄なことでした。二人で久しぶりに当時のことなども話しました(そういえば審査会の進行役を、当日いきなりふられたのですが、あれは大変だったなぁ……)。

これからの展開について聞くと、「EDA VASE」と枝もの定期便を組み合わせて成功したビジネスモデルを参考に新たな事業をつくりたい、とのこと。

2023年6月末から「SiKiTO(シキト)」としてリブランディングしたD2C事業。いまではサイトの会員数は2万人を超え、枝もの定期便のユーザー数は1年で倍増、出荷本数は累計20万本を超えています。SiKiTOを進化させるパートナーとして外部デザイナーも探しているそうですよ。

SiKiTOの世界観を伝える冊子、サイトでの情報発信も充実。SiKiTOのロゴマークをデザインしたのはTAKAIYAMA inc.

立ち話にしては長くなってしまいましたが、とても楽しい時間でした。佐藤さんありがとうございます。次回も私が出会ったデザインにまつわるエピソードを共有します。ではまた!