第10回:ショウエイの印刷見本帳

第10回:ショウエイの印刷見本帳

前回は紙見本帳をご紹介しましたが、今回はちょっと変わった印刷見本帳をご紹介します。UVインクジェットプリント(※)を中心に、さまざまな印刷加工技術に挑戦する株式会社ショウエイの印刷見本帳「PRINT TRIAL vol.1」です。2015年に会社のCIを一新した際、新しい見本帳の作成にとりかかり、約2年がかりで完成。同社のロゴデザインを担当した池澤樹さんが見本帳のアートディレクションを担当。世界三大広告賞のひとつ「CLIO AWARD」ブロンズ賞と、「One Show」シルバー賞を受賞したそうです。

※UVインクジェットとは、紫外線をあててUVインクを硬化させることにより、インクを盛り上げたり、光沢を出したりなどの特殊加工ができる印刷方法のこと。加工用の版や型をつくらずに、データからそのままワンストップで完成品ができるのが利点で、小ロットの印刷やサンプル制作などに効果的。特に、オフセット印刷では不可能な盛り上げ加工などで効果を発揮。

写真提供:ショウエイ(以下同様)

写真提供:ショウエイ(以下同様)

こちらがその見本帳。A4サイズのケースに13枚の印刷サンプルが封入されています。さまざまな紙にオフセット印刷、UVインクジェット、レーザーカットなどの印刷加工技術が施され、それぞれの印刷の特徴がわかるような構成になっています。

13種類の印刷については、ショウエイのWebサイトに掲載されているので、ここではいくつかピックアップしてご紹介します。

まず、見本帳の最初に封入されているこちら。この紙、何だかわかりますか?実はこれ、オフセット印刷で使われる刷版(印刷の版となる金属のプレート)を包んでいる包装紙なのだとか。表面がクラフト、裏面が銀色なので、表面のクラフト部分をレーザーで削ると、裏面の銀が出てくるという仕組み。オフセット印刷をしている印刷所ならどこにでもあり、通常は捨てられる紙を再利用しているのがおもしろいと思いました。

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2枚目はこちら。「まんだら じゅうばく」という紙にUVインクジェットでクリアインクを印刷すると、クリアインクの部分だけ油が浸透したような質感になります。ロウ引き(紙にロウソクのロウをしみ込ませる加工)に近い質感がインクジェットでできるというサンプルです。紙とインキの組み合わせで、こんな意外な仕上がりになるのですね。

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3枚目はこちら。「アイベストW」という紙にUVインクジェットで、カラー+ホワイト厚盛り+クリアインキを重ね、石のタイルのような質感を表現。広い面積だと盛り上げづらいですが、写真のような細かい模様ならば、ぽこっと盛り上げることが可能です。

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盛り上げの別バージョン。ストライプ状にインクを盛り上げ、おもしろい質感を表現しています。最も厚い部分には7回ほどインクを重ねたのだとか。「ハイメノウパール」という紙にUVインクジェットでホワイト厚盛り。ホワイト1色でもおもしろい加工ができる好例です。

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紙のおもしろい使い方の例。「強性紙」という和紙を湿らせてからエンボスをかけています。何種類かの紙で試したところ、この紙が一番よく凹凸が出たのだとか。空押しした後も元に戻らず、しっかり凹凸がついています。

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最後は紙ではなく、木に加工した例。MDF板の表面をレーザーで薄く削ったもの。レーザーを当てたところが茶色く焦げて、模様のようになっています。印刷というより、もはや彫刻に近い作品です。

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何回も重ね刷りしたサンプルもあり、かなり手間がかかっているこちらの見本帳、お値段は1冊3万円(税抜)。こちらのWebストアから購入可能だそうです。

通常の印刷見本帳は同じ紙に違う印刷をして比較することが多いのですが、この見本帳では印刷加工の効果をより伝えるために、ひとつひとつ紙を吟味して選んでいらっしゃる印象を受けました。紙と印刷をいろいろ組み合わせることによって、見たことのない表現がまだまだできそうですね。

株式会社ショウエイ
https://www.shoei-site.com/

宮後優子(グラフィック社)

宮後優子(編集者/Book&Designディレクター)

宮後優子(みやご・ゆうこ)
編集者/Book&Designディレクター。東京藝術大学で美学美術史を学んだ後、出版社の編集者に。デザイン専門誌『デザインの現場』編集長を経て、文字デザイン専門誌『Typography』を創刊。デザイン書編集者として20年近く活動。デザイン関係の雑誌・書籍・ウェブサイトの編集のほか、イベントやワークショップなどの企画・運営を行う。
http://typography-mag.jp
http://book-design.jp