この連載では、紙を使ったおもしろい加工例を紹介していますが、今回は今までになかった描き方によって紙の上に生まれた新たな表現を紹介します。
こちらがその作品、「Plotter Drawing」。カッティングプロッター(データに沿って刃先が動き、紙などをカットできる機械)の刃の部分に筆記具をとりつけ、紙に描くことでデジタルデータにはない、濃淡や揺らぎのある線が生まれます。デジタルとアナログの融合により、見たことのない不思議な表現が出現するのです。

「Plotter Drawing」の部分拡大図。

制作に使用されているカッティングプロッター。刃のかわりに取り付けられた筆記具が紙の上を動いて描画する。
この作品を制作したのは、デザイナーの深地宏昌さん。大学院の修了制作でこの手法を使った作品を発表、デジタルファブリケーション分野のグローバルアワードである「YouFab Global Creative Awards 2015」ではファイナリストの一人に。2017年に展覧会「UNCONTROLLED TYPES by Plotter Drawing」をSHA inc.と開催し、その作品が世界的に有名な広告賞である「One Show 2018」のGOLD、「NY ADC 2018」のSILVERを受賞しました。

京都工芸繊維大学大学院デザイン科学専攻 修了制作展2015

「YouFab Global Creative Awards 2015」入選作品

作品がYouFab 2016年のポスターに採用された

YouFab 2016年のポスターの拡大画像

展覧会「UNCONTROLLED TYPES by Plotter Drawing」のビジュアル(AD:竹林一茂)
機械がアートをつくりだす可能性を示したPlotter Drawingをはじめとして、FABツールでできることについて、デザイナーの視点から研究、提案をしている深地さん。手で描くさまざまな画法を試みたのち、プロッターを使って描くことを思いついたそう。プロッターに筆記具を取り付ける治具を自作し、いろいろな紙や筆記具を試してみたとか。紙や筆記具の種類、筆圧、描写速度を変えると、描線がどのように変化するかを検証。紙と筆記具のベストな組み合わせを模索していったそうです。
Plotter Drawingでよく使う筆記具は、筆ペン、ボールペン、鉛筆の3種類。筆ペンには上質紙、ボールペンにはケント紙や水彩紙、鉛筆にはマーメイドなどの紙をよく使うそう。和紙は筆記具がひっかかりやすいので、プロッターとの相性がよくないのだとか。紙の風合いは残しつつ、平滑性のある紙が向いているとのこと。こちらは、さまざまな紙にプロッターでドローイングして検証した質感見本帳。

左から「新だん紙、メガ、かぐや」の各紙に描写したサンプル。描画データはすべて同じだが、紙によってこれだけ違う表現になる。
Plotter Drawingで描かれた作品は、グラフィックデザインとしてポスターなどに展開されるほか、アートや工芸、プロダクトにも発展する可能性を秘めています。いままさにそうしたプロジェクトも進行中とのこと。デジタルとフィジカルを行き来することによって、「人の手では描けない表現領域」を追求する試みは今後も続きそうです。
深地宏昌
https://www.hiromasa-fukaji.com/
Plotter Drawingについてのインタビュー
https://fabcafe.com/tokyo/blog/plotterdrawing