非日常を踊る 第6回:yamadori

非日常を踊る 第6回:yamadori

2020年春、新型コロナウイルス感染症の影響で1回目の緊急事態宣言が発令され、文化芸術活動にかかわる人たちは大幅な自粛を余儀なくされた。フォトグラファーの南しずかさん、宮川舞子さん、葛西亜理沙さんの3名が、撮ることを止めないために何かできることはないか?と考えてはじまったのが、表現者18組のいまを切り撮るプロジェクト「非日常を踊る」だ。

コンセプトとして掲げられたのは「コロナ禍のいまを切り撮ること」と「アートとドキュメンタリーの融合写真」という2つ。プロジェクトは、タップダンサーやドラァグクイーン、社交ダンサー、日本舞踊家などさまざまなジャンルのダンサーがそれぞれの自宅や稽古場という「裏舞台で踊る姿」を撮影した、2020年を反映するパフォーマンスの記録となった。

本コラムでは、フォトグラファー3名が想いを込めてシャッターを切った写真と、南さんが各表現者にインタビューした内容を一緒に紹介していく。第6回目となる今回は、2021年1月に撮影を行った、ポールダンサー・yamadoriさんの写真とインタビューを紹介する。

yamadori/ポールダンサー(撮影:葛西亜理沙)

国内外のポールスポーツ大会やショーで活躍する、ポールダンサーのyamadoriさん。同じくポールダンサーのkeikoさんと「曼珠沙華」というペアを組み、2016~2018年の「全日本ポール・スポーツ選手権大会 ダブルス部門優勝」、「WORLD POLE CHAMPIONSHIPS 2018 アーティスティック部門 優勝」など多数の優勝歴を誇る。現在は「Pole & Fitness Studio Lycoris」の代表を務め、はんこを彫るアーティストでもある。

初めて自宅にポールを設置したというyamadoriさん。衣装や照明、ポーズが相まって独特の世界観をつくり出している。

みなさんはポールダンスについてどこまでご存知だろうか?

実は、シルク・ドゥ・ソレイユのようなアクロバティックなエンタメ系、ストリップクラブのお姉さんが踊るエロい系、フィットネスも含めたスポーツ系など、ポールダンスにはさまざまな側面がある。中でもスポーツ系の「ポール・スポーツ」は、ポールダンスを競技化したもので、五輪正式種目入りを目指している。

国内外の大会で優勝を重ね、2015年にはkeikoさんと組んだダブルスで世界大会を制したyamadoriさんだが、その実力については謙遜した態度を示した。

yamadori:大会では衣装や技の採点などいろいろな規定があって、そういう制限の中で面白く魅せる演技ができているかというと、まだ私の力不足を感じます。

だが、yamadoriさんはスポーツの頂点を目指しているわけではない。

yamadori:面白いと思ったことは全部やりたいです。エンタメ系のパフォーマンスでは、びっくりするような仕掛けをつくったり、ポールに何かを組み合わせたり、凝った衣装を着たり、スポーツ的なポールとは別の表現ができることが面白いです。ダブルスだと、1人だけではできない技が、相方のサポートで新たな技としてできるようになったり、オリジナルの技を生み出せることが嬉しいですね。

飽きっぽい性格と自認するものの、ダイエット目的でポールダンスはじめて以来、10年近く続いている。奥が深く、楽しみが尽きないからだ。今回の撮影では、新作の衣装である“河童”を身に纏った。

yamadori

yamadori:「人間ではない何か」になりたくて妖怪についていろいろ調べて考えた結果、河童だったら表現しやすいかなと。ちょうどブレイクダンスを習っていた時期と重なったので、ヘッドスピンやバックスピンを演目で入れたいなとも思っていて。河童なら頭も背中も付けられるから、衣装的にもちょうど良かったです(笑)。

yamadoriさんのパフォーマンスは、王道なポールダンスとは一線を画す。そのユニークさの根底には「これをやったら面白そう」という世界観がある。

yamadori:ダブルスの時も、謎の深海生物や謎の宇宙生物とかよく分からないものをテーマにすることも多く、衣装にも力を入れて私たちだからできる表現を目指しています。

今後、挑戦したいモチーフを聞くと「ウミウシ!」と、即答した。

yamadori:アオミノウミウシという可愛い生物がいまして、ググると画像がたくさん出てくるんですよ。その衣装をつくってもらっているので、衣装が完成したら演目をやりたいなと思っています(笑)。

よく笑うyamadoriさんからは、ウキウキ感が伝わってきた。インタビューを終えて撮影に取りかかると、“yamadori河童”はまるで川を泳ぐかのように、スルッとステンレス製のポールに上った。くるんと体ごとひっくり返ったり、床と身体が平行になったり、次々とポーズを変える動作からはまったく重力を感じさせない。

yamadori:ブリッジやストレッチを強化したので、前より柔らかくなったのはありますね。昨年4月に緊急事態宣言が出た際はスタジオを休業し、パフォーマンスの仕事もなくなってしまったんですが、その反面、自由時間ができたんです。「1人でスタジオ使いたい放題だ!」と、ガッツリ練習しました。スタジオは自宅から徒歩圏内なので、自粛期間中によく通いましたね。

基礎トレーニングや苦手意識のあった技や動きも繰り返し練習。もともとなんでもできるオールラウンダーだった彼女の技に、さらに磨きがかかった。

“yamadori河童”が技を変えるたびに、キュ、キュと肌とポールが摩擦で擦れる音がする。撮影日は1月上旬で空気が乾燥するピーク時だが、ポールで滑る様子は一切ない。実はそこにも、ポールダンスの面白さを感じるという。

yamadori:つるつるしたポールに肌との摩擦でとどまるので、肌の調子を整えるのも大事です。昨日の肌質だとちょっと滑ったから、保湿クリームを塗るタイミングや量を変えてみようかなと実験したりするんです。技にしても、できない技の練習を一旦保留して別の技に取り組んでるうちに、できなかった技もできるようになったり。そんな小さな変化や達成感がちょこちょことあります。

進化し続けるyamadoriさんの目指すところは「この先も健康的に、ずっと動いていられたらいいな」ということ。大袈裟ではなく、地に足がついた目標である。

yamadori:ポールダンスで「こういう表現をしたい」というのはいろいろあるんですが、けっこう一時的な欲でして、「ポールダンサーとして将来こうなりたい」というのはあまり考えられないです。ただ、飽き性の私には珍しく続いているものなので、ポールダンスができるぐらいの身体を維持できたらいいなと思います。

カットを確認するフォトグラファーの葛西亜理沙さんとyamadoriさん。

ちなみに“yamadori”というダンサー名は、もう一つの職業のスタンピスト(ハンコを彫る作家)としてのアーティスト名でもある。

yamadori:名字の森嶋の“嶋”を説明するときに「“山鳥”(ヤマドリ)の嶋です」と説明するんですが、その説明のフレーズが好きで、スタンピストとして個展をするときに”ヤマドリ”を使い始めました。ポールダンサーをはじめてからダンサーネームをつけなければいけないんだと知って、じゃあ、スタンピストとしての名前と同じでいいかなと。漢字は見かけないから、アルファベットにしたんです。

日々のちょっとした変化を楽しみつつ、yamadoriさんは飄々と、心地良い方へ飛んでいく。

ダンススタジオで宣材写真用のカットを撮影している様子。

取材・執筆:南しずか 写真1~2枚目:葛西亜理沙 タイトルイラスト:小林一毅 編集:石田織座(JDN)