非日常を踊る 第16回:ARISA

非日常を踊る 第16回:ARISA

2020年春、新型コロナウイルス感染症の影響で1回目の緊急事態宣言が発令され、文化芸術活動にかかわる人たちは大幅な自粛を余儀なくされた。フォトグラファーの南しずかさん、宮川舞子さん、葛西亜理沙さんの3名が、撮ることを止めないために何かできることはないか?と考えてはじまったのが、表現者18組のいまを切り撮るプロジェクト「非日常を踊る」だ。

コンセプトとして掲げられたのは「コロナ禍のいまを切り撮ること」と「アートとドキュメンタリーの融合写真」という2つ。プロジェクトは、タップダンサーやドラァグクイーン、社交ダンサー、日本舞踊家などさまざまなジャンルのダンサーがそれぞれの自宅や稽古場という「裏舞台で踊る姿」を撮影した、2020年を反映するパフォーマンスの記録となった。

本コラムでは、フォトグラファー3名が想いを込めてシャッターを切った写真と、南さんが各表現者にインタビューした内容を一緒に紹介していく。今回は、2020年7月に撮影を行った、ARISAさんの写真とインタビューを紹介する。

ARISA/アフロダンサー(撮影:南しずか)

3歳からバレエを始め、ヒップホップやアフリカンダンスを学んだARISAさん。カリブやアフリカ、ヨーロッパ修行を経て、アフリカのストリートカルチャー系のダンスである「アフロダンス」を専門として活動している。週6日、ダンスレッスンのインストラクターとして、園児から芸能人まで幅広く指導を行っている。

ARISAさんのご自宅で行われた撮影。アフリカ柄の洋服などが背景に並ぶ。

ARISAさんは、日本でダンスするために来日した、友人のインカさんと2人でダンスチームを組んでいる。チーム名は「ワハラ」。約3年半前、新宿のアフロダンスのワークショップを受けに行った際に、同じく受講していたのが2人の出会いだ。

ARISA:ワークショップの後日、私がDJしていたイベントにもインカが来ていて、「めちゃくちゃ楽しそうに踊ってる子がいるな~」と、すごく目を惹かれて、ずっと見ていたら「あっ、ワークショップにいた子だ」とわかり、私から声をかけました。

同い年ということもあり、2人は意気投合。すぐに一緒に練習をするようになり、チームを組んでイベントなどに出演するようになった。

ワハラは、アフリカのヨルバ語で「トラブル」を意味するという。読んで字のごとく、2人の間では、ちょくちょくトラブルがあるそうだ。

ARISA:揉める原因は文化の違いですね。私は日本で育った日本人で、インカはナイジェリア人とガーナ人のミックスで、イギリス育ちなんですよね。アフリカやヨーロッパへ行ったことで、インカのバックグラウンドを多少理解してるつもりでも、知らなかったことがたくさんあります。

もれなくワハラは自粛期間中にも揉めることがあった。新型コロナウイルス感染症の影響で、一時期、東京の店頭からマスクが消えた頃、マスクを手に入れることができなかったARISAさんは、大好きなアフリカの布でマスクをつくった。自作のマスクをSNSにアップすると、「私にもつくってくれる?」と友人からリクエストが入った。そこで、自粛期間中にダンスの仕事が完全にストップしていたこともあり、マスクづくりを副業とした。そのマスクで、大金を稼いでいると勘違いしたインカさんが「文化の盗用じゃないか」と息巻いた。

ARISA:インカのお母さんがアフリカ柄のマスクをつくっていて、それを私が真似して稼いだとインカは思ったらしいんです。

ARISAさんからすると完全な言いがかりだった。ゆっくり優しく語る声が心なしか小さくなった。

ARISA:アフロダンスを踊る日本人として、異文化に敬意を払っているつもりだったから、たとえ事実じゃないとしてもすごくショックを受けました。

ARISAさんは「勉強家だ」と自負している。たとえば、南アフリカのパンツーラダンスは、旧黒人居住区に追いやられた人々が生活する中で生み出されたダンスである。彼女は踊るにあたり、アパルトヘイト制度を勉強し、南アフリカに飛び、その文化を肌で感じた上でダンスを習った。フランスにストリートアフリカンダンスのワークショップがあるという情報をFacebookで見つけたらフランスへ行き、尊敬するイギリス人ダンサーのレッスンがあると知ればイギリスへ飛ぶ。どんどん新しいダンスを学ぶことに惹かれるのだそうだ。

ARISA:各地でダンスのジャンルがあって、コンゴにはドンボロというジャンルのダンスがあって、アンゴラにはアフロハウス、ナイジェリアにはアフロビーツ、アイボリーコーストにはクペデカレがあります。それぞれのダンスの違いがわかった上で踊れるようになると、とっても楽しいんですよ!

特に、コンゴのドンボロが好きなんですが、生バンドの演奏に合わせて腰を回すワインダンスが多く、カリブダンスに精通する部分があります。ドンボロは、コンゴからカリブ方面に渡って、それがまたアフリカへ戻って発展したという歴史があるらしいんです。そういう歴史もちょっと惹かれる要因かなと思います。

自分のお金や時間を使って、意欲的に現地で学ぶ姿勢があるからこそ「文化の盗用」という言葉を投げかけられた時に、ショックは大きかった。ARISAさんは誤解を解くために、インカさんと直接話し合った。

ARISA:日本で日本人として生きてきた私と、日本で生活している外国人女性……育ってきた環境や文化、立場や考え方もまったく違って当然ですよね。お互いに言いたいことを言い合っても100%納得することはなく、絶対に譲れないことがありました。だから、100%はわかり合えないけど「認め合おう!それが友達!」という結論になりました。

そんな相方と一緒に、いつか日本でアフロダンスのキャンプ(大規模ワークショップ)開催を企てることを目標としている。

ARISA:たとえば、アフロダンスのジャンル違いの先生が集まって、1日5コマのレッスンを5日間行い、最終日の最後に生徒がダンスバトルイベントをするとか。フランスなどいろんな国でそういうことをやっているんですよ。そして、やっぱりアフロダンスのイベントをするなら、アフリカの血を引いたダンサーたちと一緒にやりたいなという思いがすごくありますね。文化を含めて興味を持ってほしいし、自分のルーツにはない文化で育った人の話を聞くことは大切だと思います。だから、相方と一緒に。

ARISAさんは、ただダンスするのではない。尊敬の念を込めて、その文化を踊っている。

取材・執筆:南しずか 写真1~2枚目:南しずか タイトルイラスト:小林一毅 編集:石田織座(JDN)