クリエイターの「わ」第12回:諸角拓海

クリエイターの「わ」第12回:諸角拓海
2022/10/27 9:40

クリエイターからクリエイターへと、インタビューのバトンをつないでいく連載「クリエイターの『わ』」。編集部がお話をうかがったクリエイターに次のインタビューイを紹介してもらうことで、クリエイター同士のつながりや、ひとつのクリエイションが別のクリエイションへと連鎖していくこと=「わ」の結びつきを辿っていくインタビューシリーズです。

前回のrintaro iinoさんからバトンを受け、今回お話をうかがったのはセラミックアーティストとして活動する諸角拓海さんです。幼少期から海外暮らしが長く、各国で過ごしてきたという諸角さん。もともとはアートや工芸に興味がなく、あるきっかけから興味を持ち、大学、大学院と陶芸を学んでいったそう。直近ではオランダで滞在制作中という諸角さんに、2mを超す巨大な作品制作の話から、意外なところから影響を受けている作品づくりについてなどお話をうかがいました。

セラミックアートをはじめたきっかけ

現在26歳なのですが、日本での生活は6~7年しかなく、ほぼ海外で暮らしてきました。2歳から親の仕事の関係でアラブ首長国連邦のアブダビに引っ越して、高校と大学はアメリカ、大学在学中には中国に交換留学に行き、大学院はノルウェーの学校を卒業しました。

アメリカのテネシー州の高校に通っていたときに、卒業のために必要なアートの単位を取らなければいけなかったのですが、その学校に陶芸の施設があったので「まあ、やってみるか」と、軽い気持ちで授業を受けたんです。それまでまったくアートとかに興味はなかったんですが、土をろくろで回した瞬間に「うわっ、なんだこれ」という感覚になって……。そのときはもちろん技法も何もないから感覚で土を触っていたんですけど、均等に器をつくり、それを使って食べるという流れにも感動したことを覚えています。

大学院は5校受けて、そのうち4校はアメリカでそちらも受かっていたんですが、ノルウェーのオスロ国立芸術大学は学費が安いところや材料費の面、あとは3m半ぐらいのものすごく大きい窯があって、大きい作品を制作してみたいなという点で惹かれました。

作品紹介

「変」

これは大学院にいた際につくったシリーズ作品です。さきほど話した一番大きな窯で焼いたもので、作品のサイズは1.5~2mほど。「手びねり」という、粘土を手でこねてつくるシンプルな技法でつくっていて、どんどんと大きくしていきました。

諸角拓海

1.5~2mもの大きさの作品「変」。一つにつき1カ月半から2カ月くらいで完成したそうです(Photo:Øystein Thorvaldsen)

この作品は、コロナ中に自分のことを振り返る時間が増え、海外を拠点にする自分が日本人としてどういう位置にあるのかを考えたり、日本の芸術(アート)の最初のルーツである縄文土器などを見始めたところからスタートしています。

同時に、植物学などで出てくる「綴化(てっか・植物が外部からの刺激や突然変異などにより特有の形に成長する現象)」に興味を持ったところも大きいです。人も環境によって変化するし、それが自分と似てるかなということを感じました。綴化で変異してしまった植物は、売られる前に捨てられたり切られたりしてしまうこともあるそうなのですが、でも反対にその美しさもあるなと思ってイメージを膨らませていきました。

諸角拓海 作品

作品「変」(Photo:Øystein Thorvaldsen)

現在の作風になったのは、たぶんノルウェーに行ってからですね。もともとはろくろで制作する小さいサイズのものや機能性のある器などが多かったんです。サイズの変化については、せっかくだから大きな窯を使いたいということもありましたが、大きいスケールで作品を制作するという短期間のワークショップを受けたことから影響を受けていると思います。

「ShiroとZou」

もう一つは最近つくっているトリュフのような見た目をした作品です。実験段階の作品で、新しい釉薬を試しています。今年の春にノルウェーの山の中にあるスタジオを貸してもらって制作をしたんですが、近くのスーパーまで2時間かかるというかなりの田舎で、週1回だけスーパーの店員に会うという、山ごもりのような生活をしていましたね(笑)。

諸角拓海 作品

(左から)作品「Shiro I」「Zou II」。スタジオはもともと牛小屋だった変わった環境だったそう(Photo:諸角拓海)

食べものっぽかったりグロテスクにも見えるんですが、実物を見ると圧は感じないと思います。写真だとわかりづらいけど表面にある粒々はパール状になっていて、オイルがかかったように光って見えます。みんなにキャビアとかトリュフとかいろいろ言われます(笑)。表面の粒々は火山岩で、その上に透明の釉薬をスプレーでかけてちょっとてからせた仕上げになっています。

諸角拓海 作品

トリュフやチーズなどの食べもののように見えたり、少しグロテスクにも見える不思議な作品(Photo:諸角拓海)

作品を制作していて面白いのは「窯出し(作品を焼き終えて窯から取り出すこと)」のときで、窯から作品を出すとほとんどが「あ~こんな感じか…」という感想ですが、このトリュフのような作品が出てきたときは、「これ自分がつくったの!?」という驚きがありました。そのときは興奮してて誰かに自慢したかったんですが、山でWi-Fiもつながらないし、そのまま一人ではしゃいでいました(笑)。

粒々で使っている火山岩は前から使っていたもので、以前は釉薬と混ぜて使っていました。この作品では釉薬の上から火山岩を散りばめています。火山岩を使う人はあまりいないかもしれませんが、陶芸作家さんって制作中に周りにある石や砂、ガラスの破片などいろいろ混ぜて焼いちゃうんですよ。石を土の中に入れて焼くときに破裂させる「石はぜ」っていう技法もあるくらい色々な物を混ぜてますね。

お仕事クエスチョン

Q.なくてはならない仕事道具はありますか?

一番はやっぱり「手」ですかね。道具も使いますが、基本的には手で成形しているので、手で出来た模様だったり、ちょっとしたひねりや形を意識したり、自分の力で出た形を残したいというのが、いつもイメージとしてあります。

制作中の様子

Q.あなたの仕事場とそのこだわりについて教えてください。

こだわりとは言えないかもしれませんが、ミニマリストなところがあるので、乱雑にならないようにはしています。どうしても土ものなので汚れてしまいますが、なるべく毎回水を地面に流してしっかり掃除をしています。とにかくきれいに道具も少なく、いつでもどこでも制作できるような感じにはしていたいなと。あともう一つは、たとえば四角い部屋だったとしたら、壁沿いにものをUの字型に置いて、真ん中を空っぽにするという配置にしていますね。自分の部屋も同様ですが、なるべく全部ものを壁沿いに置き、使いやすいようにしたいんです。

ほかにミニマリストな面で言うと、僕黒シャツを10枚持っていて、黒以外の服は数着しか持っていません。汚れが目立たない点と、あとは考えずに毎日起きて着られるのはいいですね。小さいときからいろんなところに引っ越しをして、学校も10回以上転校したりしているのでどんどんものが減っていき、いまはスーツケース1個でいいや、って感じです。

Q.アイデアが浮かぶためにやっていること

なるべく自分の分野じゃないところにアンテナを張るようにしています。たとえばファッションのコレクション写真を見るのが好きで、全然土と関係ないけど、色や素材の使い方だったりフォルムには、こういうものがあるんだとかそういうところを見ています。あとは植物とかですね。木の模様や砂、アスファルトとか。いろんなところから影響を受けています。

あなたのクリエイターのわ

◯影響を受けたデザイナーやクリエイター

音楽プロデューサーのNao’ymtさんという方がいて、さきほど紹介した作品の「変」で出てきた「綴化」という言葉も、彼がつくった曲名から知ったんです。日本語を大事にしている方で、海外に住んでいる日本人としては日本の音楽が恋しくなることが多くて。この方の歌詞だったり、使われている日本語から勉強することもあれば、楽曲自体からもインスピレーションを受けてますね。

「綴化」という曲は三浦大知さんの「球体」というアルバムの中の一つの曲で、Nao’ymtさんが作詞・作曲・プロデュースをしています。それまではこういう言葉や現象があることも知らなくて、そこから植物学を勉強したり、作品づくりにいろいろ広げていきました。曲自体は恋愛もののストーリーで関係はないんですけどね(笑)。

たぶん海外に住んでいる日本人あるあるだと思うのですが、海外にいるときは邦楽、日本にいるときは洋楽を聴いていることが多い気がします。

◯前回のrintaroさんからの質問:幼少期を海外で過ごした時間が長く、現在もオランダで活動している拓海くんから見た日本はどんな場所で、どう見えているのでしょうか?また、拓海くんが今の日本に必要だと思う変化はどんなものですか?

rintaroくんとは政治の話だったり、たくさん話をするんですが、なかなか社会派な質問ですね(笑)。僕にとって日本はどんな場所かと言うと、ホームグラウンドだし、休むための場所というか、一回落ち着いてリラックスする場所かなと思っています。

あと、いろいろな国に行っていますが、日本はまだまだポテンシャルがあると感じます。これから人口がさらに減っていってマーケットも縮小していくから、海外に向けてのネットワークがどんどん大事になってくると思うんですが、それに対する動きがあまり見られないから、そのあたりはもっと積極的に取り組めばいいのになと。

たとえば、日本は著作権など権利の関係で厳しいですが、韓国などの国はさまざまな番組をYouTubeに出したり、アーティストのライブパフォーマンスが簡単にネットで見られるんですよね。海外だとライブを撮影できるのはわりと当たり前で、その写真や動画を見た人からさらに世界が広がっていくことが多いと思います。いろいろ難しいと思うんですが、多くの機会を失っているんじゃないかなとは感じていますね。

◯ご紹介したいクリエイター

諸角さんにご紹介いただくクリエイターは、うーたん・うしろさんです。

◯諸角拓海さんへのメッセージと質問

紹介したいのは、うーたん・うしろ(U-Turn Ushiro)という陶芸作家さんです。本名がうしろあすかさんなので、僕はあすかさんと呼ばせていただいています。最初にあすかさんと会ったのは栃木県の益子です。あすかさんは現在も益子で活動していますが、共通の陶芸家の知り合いから紹介されました。「陶芸はじめたのは最近で、もともとは消防士をやっていたんだ」と、言われておもしろい経歴の方だなと思い、実際にお会いしてみると想像よりさらにおもしろく、不思議な方だなと感じました。

あすかさんは、消防士から陶芸作家になりましたが、これからどういう作品をつくっていきたいというイメージはありますか?また、クリエイターとして普段どこから情報を集めていますか?

次回のクリエイターの「わ」は、うーたん・うしろさんにお話をお聞きします。

タイトルデザイン:金田遼平 聞き手:石田織座(JDN)