クリエイターの「わ」第11回:rintaro iino

クリエイターの「わ」第11回:rintaro iino

クリエイターからクリエイターへと、インタビューのバトンをつないでいく連載「クリエイターの『わ』」。編集部がお話をうかがったクリエイターに次のインタビューイを紹介してもらうことで、クリエイター同士のつながりや、ひとつのクリエイションが別のクリエイションへと連鎖していくこと=「わ」の結びつきを辿っていくインタビューシリーズです。

前回の本間加恵さんからバトンを受け、今回お話をうかがったのはファッションデザイナーとして活動するrintaro iinoさんです。リボンを編んだ作品や、ニットの可能性を拡張するような服をつくっている飯野さん。イギリスやノルウェーの大学在学中に賞を受賞したという作品や、リサーチの段階で必須だというツール、豊富な留学経験などについてお聞きしました。

ファッションデザイナーを志したきっかけ

大学生の時に祖母が亡くなって、そのあと祖母の家に行った際に編み残しをたくさん発見し、「これを全部終わらせよう」と思い、それが編み物を始めるきっかけになりました。

あと、在学中に「writtenafterwards」デザイナーの山縣良和さんが設立した、「ここのがっこう」というファッションクリエイションの学校に半年くらい通ったことも大きかったです。大学卒業後は就職をせずにロンドンのセントラル・セント・マーチンズ(以下、セントマ)に留学し、1年間のショートコースに通いました。

セントマから帰ってきたあと、学位としてデザインを勉強した経験がほしいなと思い、ノルウェーのオスロ国立芸術大学の大学院に留学したんです。ニューヨークの学校とも迷いましたが、ノルウェーの学校は面接したらおもしろそうだったので、直感に従って選びました。あと、日本人は「北欧=おしゃれ、豊かな生活」と盲目的にみている節があるなと感じていて、実際のところどうなんだろうと思い、彼らの何が豊かさを生み出していて何に惹かれているのか、実際に生活して確かめてみたかったんです。学費が無料かつ英語でOKだったことも大きかったですね。そこを卒業して1年くらい経ちます。

作品紹介

「Black Sheep」

「Black Sheep」は、オスロ国立芸術大学の卒業制作で発表したコレクションです。今回のコンセプトは「solitude」で、直訳すると「孤独」という意味になりますが、“一人になる”ということを再考したかったんです。

“一人になる”ということを再考したコレクション「Black Sheep」

オスロ国立芸術大学に入学して1年しないうちにコロナがはじまって、パンデミックの影響で世界中が隔離し、学校も閉じてしまって本当に一人になり、その時の体験をもとに制作していきました。「一人」ってマイナスの面もすごくありますが、今回はその期間に自分の将来のことを考えたりコレクションに集中できたりしたので、「一人になることって全然悪いことじゃないな」と思ったんです。それが今回のコレクションの根幹にもなっていて。

このコレクションのミューズは、ニュージーランドの牧場を脱走して、洞窟で6年間一人で暮らしていたシュレックという、実在した羊です。シュレックはメリノ種の羊で、毛の成長が止まらないように改良されてしまっている品種なので、毛を刈ってあげないと毛が重すぎて皮膚がちぎれてしまったり病気になってしまうんです。この子が何を思っていたかはわかりませんが、牧場で過ごすこともできたのに、身体的な代償を払って孤独になったのは勇ましいなと感じました。なのでそういう大きいものを背負っているようなイメージのコレクションをつくりました。

「シュレック」からインスピレーションを得たというコレクション。

ありがたいことに、このコレクションは2021年にコペンハーゲンで開催された、コンペティション「デザイナーズ・ネスト(Designer’s Nest)」でインターンシップ賞をいただきました。このコンペは、北欧のファッション業界の優秀な卒業生を紹介し、支援する人材育成機関の「ALPHA(アルファ)」が主催しているもので、優秀な若手デザイナー10人のうちの一人に選んでいただきました。

「Harrods – Green Man」

セントマは大企業やブランドとよくコラボレーションをしていて、僕が在学中には「ハロッズ」という百貨店とコラボレーションしたコンペティションがあり、そこで賞をいただきました。

これはハロッズをリサーチした時に、アジア人の「爆買い」の様子を見かけて、そこでドアマン(通称グリーンマン)の人たちが箱をたくさん積んで持っている様子からインスピレーションを得ました。その様子をそのまま服にしたらおもしろそうだなと思ったので、箱をいっぱいハロッズのリボンで編みつけたコレクションを制作しました。

ハロッズで使われているリボンを編みこんでつくられたコレクション。

お仕事クエスチョン

Q.なくてはならない仕事道具はありますか?

僕の場合は、リサーチの段階ではスケッチブックが絶対に必要ですね。学んできた形がそのままいまに繋がっているだけかもしれませんが、セントマって結果も重要ですが、「どうしてこういう作品にいたったか?」という過程で評価されるところが正直大きかったんです。1週間で2冊スケッチブックをつくらないといけない時もあり、同級生のみんなで図書館でずーっと「死ぬ…」って言いながら作業したり(苦笑)。すっかり沁みついてしまっていて、自分の中で必要不可欠な道具というか、ものづくりにおける大事な過程かもしれないですね。

スケッチブックの様子

スケッチブックの中身は、おもに自分が気になったものとアイデアを書きとめていくコラージュのようになっていて、それをどう作品とつなげていくかという痕跡になっている感じですね。頭の中の整理のために必要で、残しておくと「あ、こう思っていたから結果こういう作品になったんだ!」と、振り返ることができるので、自分の考えがクリアになっていきます。

Q.あなたの仕事場とそのこだわりについて教えてください。

基本的にデザインの作業は自宅でやります。こだわりというと難しいですが、僕の場合は作業しようとすると物が増えて溢れかえりぐちゃぐちゃになってしまって、ストレスがたまってくるとガッと捨ててまた溜まっての繰り返しですね。ノルウェーにいたときは学生寮に入っていて、日本ではなかなかない丸い間取りの部屋に住んでました。

これまでアートピース寄りのデザインの服をつくっていたんですが、いまはどちらかというとそこからコンセプトのエッセンスは残しつつ、どう実際に着てもらえる服をつくるかに興味があります。

今年の秋に「デザイナーズ・ネスト」でいただいた賞の副賞で、イタリアのファッションブランド「トラサルディ」のデザインチームに入る予定なんですが、ありがたいことに僕がつくった服を着てみたいと言ってくださる方々がいて、イタリアに行く前の9月上旬に中目黒のギャラリー「AL」さんで展示会をさせてもらえることになりました。展示会では「Black Sheep」のコレクションと、そのコンセプトを落とし込んだセーターをオーダーすることができます。

作品や製品を日本で見せるのは初めてなので、アートピースを知ってくださっている方々が自分のつくった服を現場で見て何かを感じ取ってくれるのか、自分がこれから日本で服をつくっていきたいと思うのか、とても気になります。その後でトラサルディにジョインして、ビジネスとしてのファッションデザインを学んでいきたいと思っています。

ノルウェー時代の仕事場の様子

話がものすごく脱線しますが、幼稚園くらいのときからパスタが好きで、特にペペロンチーノが異様に好きだったんです(笑)。家族でイタリア料理屋さんに行って、ペペロンチーノがメニューになかったときは「こんな店、イタリア料理屋じゃない!」って言って大号泣するくらいで……。でもどこかのタイミングで、食べ過ぎたのか吐いてしまって、いまは嫌いになってしまったんですが。でもそれくらい狂信的に好きな国ではあったので、何かイタリアとは縁があるなと思っています。

あとイタリアは良いニットをつくる手が生きている国だし、ものづくりの国なのでそこを見れるのはすごく楽しみです。

あなたのクリエイターの「わ」

◯影響を受けたデザイナーやクリエイター

尊敬する先達の方々はたくさんいますが、直接コンセプトになり得るインスピレーションを同業者である、いわゆるファッションデザイナーから得ることはないです。僕の制作はできるだけパーソナルな地点から始めることを心がけていて、そのため好きなアーティストの作品も自分が実際に実物を見たり、インスタレーションに居合わせたものが心に残っていて、そういうものからは影響を受けていると思います。

いまパッと思い付くのは、ロンドンのテート・モダンで展示されていたJanet Cardiffの「Forty-Part Motet 2001」という作品です。オーディオ作品で、40台のスピーカーに囲まれるインスタレーションでした。聴覚と触覚について考えさせられる作品で、肌の先端がとてもどきどきしたのを覚えています。

◯前回の本間加恵さんからの質問:お洋服をつくる上での“ミューズ”がいれば知りたいです。また、自分のお洋服について、どんな人に着てほしいと思ってつくり上げていますか?

このような場では 本間さん、と呼ぶべきなのかもしれませんが、堅苦しいのは恥ずかしいくらいに仲良くさせてもらっていて。いつもは加恵ちゃんと呼ばせてもらっています。加恵ちゃんとはお互いの持つ言語が違うのに、大事なところは言わずともわかってもらえているような気がしています。クリエイターとしてもかなりお世話になっている親友であり、戦友です。それだけになかなか難しい質問がきたなと思います(笑)。

まず、ミューズはコレクションごとに違い、人じゃなかったりもします。人間の中で実際に誰に着てほしいか考えると回答がどうしても抽象的になってしまうのですが、第一に服が人を選ぶことはなくて、どこまで行っても人が服を選んでいます。その選択肢をつくる側の人間がデザイナーなので、ものすごく傲慢な仕事だなとよく考えますが、逆にその人の一番近くのものをつくれるんだと思うととても誇らしい仕事だなと思ったり。

なので、その意味では自分で選べる人に着てほしいです。何かを選ぶのは何かを捨てるということなので、結構力のいる作業だと思っていて。そこにはいつも覚悟と意地がくっついてると思うんですが、得るものと犠牲にするものをひっくるめての選択ができる人に選んでもらえたら嬉しいですね。

◯ご紹介したいクリエイター

飯野さんにご紹介いただくクリエイターは、諸角拓海さんです。

◯諸角拓海さんへのメッセージと質問

拓海くんはセラミックアーティストで、ノルウェーの大学院時代にオスロで出会いました。同じタイミングで学校にいた唯一の日本人で、しかも同じタイミングで入学していて、「こんなところに来る日本人てどんな人なんだろう?」と思っていました。話してみるととてもユニークな経歴を持っていたり、作品が面白くて興味を持ち、すぐに仲良くなりました。彼のフラットさと誠実さが、自分はとても好きです。そんな彼がつくる作品はもちろんユニークで、これから世界で活躍するであろうセラミックアーティストだと思います。

拓海くんは幼少期を海外で過ごした時間が長く、現在もオランダで活動しています。そんな拓海くんから見た今の日本はどんな場所で、どう見えているのでしょうか?拓海くんが今の日本に必要だと思う変化はどんなものでしょうか?

次回のクリエイターの「わ」は、諸角拓海さんにお話をお聞きします。

■展示情報「rintaro iino 1st Exhibition “Black Sheep” 2020-2022(仮題)」
会期:2022年9月4日(日)~9月6日(火)
時間:11:00~19:00(最終日のみ18:00まで)
会場:AL(東京都渋谷区恵比寿南3-7-17)
http://www.al-tokyo.jp/
https://www.instagram.com/rintaroiino/

タイトルデザイン:金田遼平 聞き手:石田織座(JDN)