クリエイターの「わ」第9回:シャラ・ラジマ

クリエイターの「わ」第9回:シャラ・ラジマ

クリエイターからクリエイターへと、インタビューのバトンをつないでいく新連載「クリエイターの『わ』」。編集部がお話をうかがったクリエイターに次のインタビューイを紹介してもらうことで、クリエイター同士のつながりや、ひとつのクリエイションが別のクリエイションへと連鎖していくこと=「わ」の結びつきを辿っていくインタビューシリーズです。

前回のナタリー・カンタクシーノさんからバトンを受け、今回お話をうかがったのは「褐色の肌に金髪、青い目」という容姿でモデル活動を行っているバングラデシュ出身のシャラ・ラジマさんです。最近は文筆家として文章でも表現をはじめたというシャラさんに、活動を行う上で大事にしているコンセプトや、大切にしている日課、影響を受けたクリエイターなどについてお聞きしました。

作品紹介

もともとモデルの仕事を先に行っていて、エッセイの執筆は昨年はじめたばかりです。不定期で「GINZA magazine」や「現代ビジネス」で、価値感、美意識や社会的な観点について自分で文章を書いています。

私の活動は「人種のボーダーレス」というコンセプトをベースとしています。ルーツをバングラデシュに持つ私は、9歳の頃に両親の仕事の都合で日本に来ました。日本で育っていく中で「アイデンティティは日本とバングラデシュどっちなの?」と言われることが増えていきました。私としては「どちらの心もあり、どちらかだけのものでもない」という感覚から、どちらにも見えない容姿をつくり出そうと考えました。

その過程で、もともとの褐色の肌色に髪を金髪に染めてブルーのカラコンをし、一見して何人かわからないような見た目をつくりました。こういったコンセプトを非言語的に見た目でもわかりやすく表現してモデル活動をしていて、この国でやること自体が美の価値観の変容につながればいいなと思っています。

文章で表現することについては、ほとんど経験がありませんでした。ただ、バングラデシュでは文学や詩が文化活動の中では一番力を持っていて、これはイギリス領インド帝国時代のベンガル地方出身の詩人・タゴールの影響が強いです。シェイクスピアが「英語の父」と言われるように、タゴールは「ベンガル語の父」と言われる人で、アジアではじめてノーベル文学賞をとった人でもあります。バングラデシュでは、幼稚園の時にきらきら星を覚えるような感覚で彼の詩を幼い頃から学ぶんですよね。そういう環境の中で育った影響なのか、文章や言葉などは自分にとって表現のツールとして使いやすく思えたのがありますね。

エッセイではコンセプトに通じた内容を書いていて、たとえば「GINZA magazine」では、「現代って“引用”でしか物事を見ないけど、実際に体験するとこういうことがあるよね」ということを、服や音楽などをテーマに書いています。いまのところノンフィクションのことしか書けませんが、いつかフィクションを書いてみたいですね。いまは自分自身が作品で、文章はそのキャプションというイメージで書いていて、まだまだ模索中ではありますが、非言語的な活動と言語的な活動の間をもっとうまく埋めたいなと思っています。

モデル活動のほうは、最近アーティストとコラボすることがあり、昨年はコロナで暇になってしまったときに友人たちとショートフィルムを撮りました。一人はフェミニズム、もう一人はアニミズムに近い内容をテーマにしていて、私のテーマと合わせて二人がおもに脚本を書き、私が出演して作品を一緒につくりました。それが「ニコンフォトコンテスト」の動画部門でグランプリをいただきました。

いま、世の中にいる人種問題やフェミニズムなどの話をしている人の声は怒っている部分だけが可視化されていて、本質的なことが語られることが少なくなっていると感じます。後世の人たちがそういう一面的な情報だけを見て育ってしまうと、対話ができなくなってしまうから、新しい表現方法や振る舞いもあるよということを私を介して示せて行けたらと考えています。

あとは、いろいろな人種がいるということを超えて、“何者でもない”という抽象的なイメージを通して「アイデンティティを特定の場所や枠にカテゴライズしなくても良い」というメッセージを届けたいですね。

お仕事クエスチョン

Q.なくてはならない仕事道具はありますか?

iPhoneのメモアプリはすごく使っています。瞬間瞬間で気になるフレーズなどをメモしていて、いまメモが1,000以上ありますね。私はフィールドワークを大事にしていて、自分を媒体にしているから社会実験のような感じで、自分自身をいろんな現場に放り込んで観察するのが好きなんです。人の分析や世の中を研究するのが好きなんだと思いますが、会社員の友達からアーティストの友達、居酒屋のおじさんなど本当にさまざまな人と交流して、実際にその場で話して何を感じるか、そこから今の社会を読み取ることを大切にしています。

メモしたものはすぐ数がたまってしまいますが、見返しながら「これはコラムに使える」とかさまざまな使い道を考えます。

Q.あなたの仕事場とそのこだわりについて教えてください。

文章を書くときは必ず家の中ではなく必ず外に出かけて、お気に入りの喫茶店で音楽を聴きながら内容をまとめていますね。でもけっこう“降ってくる”のを待っていることが多くて、人と話しながらまとめることもあります。話しながら考えをまとめることも好きなので、ゆくゆくはポッドキャストなどもやってみたいなと思っています。

あなたのクリエイターの「わ」

◯影響を受けたデザイナーやクリエイター

直接つながるかわかりませんが、高校の頃に三島由紀夫の本を読んだ時にすごく驚いたんです。パブリックイメージとしては右翼の印象が強いですが、本を読んだ時や最近ドキュメンタリーを見たときに、実はかなり「中立」を体現しようとしていた人だなと感じました。私もどちらでもあり、どちらでもないということをやりたいと思っていたから、そういう中立を体現しようとしている人、どちらにも見えるし、見えないような人が存在したことが私にとって助けになった気がします。

◯前回のナタリーさんからの質問:シャラさんは、ホームやアイデンティティーに対する感覚はいつも同じですか?それとも時代とともに変化してきましたか?

アイデンティティに関してはノーアイデンティティ的な思想が強いですが、“ホーム”という感覚は東京に感じてはいて、もっと言うと人に対して感じているんだと思います。東京にいる友達にその感覚を分散して預けている、というか。これまで人とのつながりで救われてきたし、話が合うとか世界観を共有できるということ自体が私にとってすごく価値があるもので、そういう意味で背中を預けられるような友達に“ホーム”を感じているのかな。そういう友達が全員東京にいるからいまは東京に感じているだけで、街が変われば移り変わっていくのかもしれません。

◯ご紹介したいクリエイター

ナタリーさんにご紹介いただくクリエイターは、本間加恵さんです。

◯本間加恵さんへのメッセージと質問

加恵ちゃんはファッション系だったりポートレートなどを中心に撮影している写真家です。仕事をやり始めたタイミングも近かったし、一番仕事の話をできる友達で、当時は知り合ってなかったんですが大学の先輩でもあります。私がモデルで彼女がカメラマンだから交換できる情報がすごく多いし、少し前のプロフィール写真を彼女に撮ってもらったり一緒につくった写真もあったり。面白いなと思うのは、いつも人生の段階での悩みがだいたい同じ地点で、考え方が近いんです(笑)。勝手に幼馴染のように感じています。

加恵ちゃんにとっての美学とはなんですか?自分自身にとって、どんなところにセンスを感じるのかを聞いてみたいです。

次回のクリエイターの「わ」は、本間加恵さんにお話をお聞きします。

タイトル画像:金田遼平 聞き手:石田織座(JDN)