クリエイターの「わ」第10回:本間加恵

クリエイターの「わ」第10回:本間加恵

クリエイターからクリエイターへと、インタビューのバトンをつないでいく新連載「クリエイターの『わ』」。編集部がお話をうかがったクリエイターに次のインタビューイを紹介してもらうことで、クリエイター同士のつながりや、ひとつのクリエイションが別のクリエイションへと連鎖していくこと=「わ」の結びつきを辿っていくインタビューシリーズです。

前回のシャラ・ラジマさんからバトンを受け、今回お話をうかがったのはフォトグラファーとして活動する本間加恵さんです。最近はポートレートの仕事が多いという本間さんに、お仕事の事例や日々撮影する上で大切にしていること、影響を受けたクリエイターなどについてお聞きしました。

作品紹介

ファッション系のブランドのルックなど、基本的には人物を撮るお仕事が多いです。

写真は高校の時から好きで趣味程度にやっていましたが、大学の時はマスコミュニケーション学科に在籍していたこともあり、そこではインタビューの勉強を中心にしていたんです。知り合いの紹介で三宅正一さんという、音楽やカルチャー系で有名なライターさんのアシスタントもやっていました。

就職活動は音楽レーベルに絞って受けていましたが最後の最後に落ちてしまい、写真をいちから勉強しようと思って写真スタジオに就職しました。最近は写真家になる方法としてSNSからデビューするなどさまざまな方法がありますが、私は長く続けていきたいなと思い、ライティングの技術やいろいろな機材の使い方など、商業撮影もしっかりできるように学びたいなと思ったんです。そのスタジオに2年半くらい勤め、2020年に独立しました。

「Just Magazine」

最近は自分で撮りたいと思う写真を追う時間がなかなか取れませんが、「Just Magazine」はクライアントワークではなく自主制作です。

海外の雑誌やメディアには作品を自分から売り込み、気に入ってもらえたら掲載される「サブミッション」という文化があって、「Just Magazine」もそのひとつです。

「Just Magazine」に掲載された写真

基本的にファッション撮影をするときはスタイリストさんとフォトグラファーでストーリーやテーマを決めています。「Just Magazine」の際は深夜の美術館に勝手に入って遊んでいるというようなイメージでビジュアルをつくっていきました。

「Just Magazine」に掲載された写真

「Sumif」

今年デビューしたばかりのブランドのルックです。家族設定で、全員の性格やキャラを決めて撮影しました。

わたしはストーリーを決めるのは苦手なほうなんですが、スタイリストさんとアイデアを出し合い、ひとつのストーリーじゃ弱いから裏ストーリーをつくっていたりします。「Sumif」の時はブランド側からウェス・アンダーソン監督の『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』という映画のようなイメージにしたいと言われていました。

Sumif ブランドルック

だからその映画を一度見て、それぞれの人物の性格を考えていきました。たとえばお兄ちゃんがジャージを着ているのは「ナンバーワンテニスチャンピオンだから」と、モデルさん本人に伝えたり(笑)。あとは、海外の人が家族写真を撮るときってどういうタイミングだろう?と思い、海外の友達に話を聞いたら「いつでも家族写真は撮る」と言っていたので、この時は「パソコンを買った記念日」という裏ストーリーを掛け合わせていました。

ブランドによって希望するイメージの伝え方はさまざまですが、時にはフォトグラファーにほとんどお任せということもあります。ただ、そういう場合も何かしら私に依頼してくれた理由があるので、そこだけは聞くようにしてイメージをすり合わせています。お任せの時は普段から「ここのロケーションを使いたい」とか「このモデルさんを使いたい」など、常にためているイメージのストックを使える時もあるので結構うれしいですね。

Sumif ブランドルック

お仕事クエスチョン

Q.なくてはならない仕事道具はありますか?

ひねりがありませんが、やっぱりカメラとパソコンはマストですね。カメラは何個も使っていて、もともとNikonのD850を使っていたんですが、今はFUJIFILMの中判を使っています。求められている表現に対してベストなカメラを探すことが好きで、カメラの機種によって出せる色が違ってくるから、現場ごとに必ず機種は変えていると思います。毎回大荷物になってしまいますけど…(苦笑)。

基本デジタルでの撮影が多いですが、フィルムが良いかなと思ったらパターン的に撮影してみて、あとからクライアントに提案するということもありますね。撮影するからにはその時々のベストを探りたいなと思っています。

Q.あなたの仕事場とそのこだわりについて教えてください。

仕事面においては一定の光で写真を見れるようにしていることと、あとは当たり前のことですが、体が資本なのでちゃんとしたイスと机を使うようにしています。いまレタッチするスペースで使っている机は友達にオーダーメイドでつくってもらったもので、シンプルなデザインですが脚がしっかりしていて頑丈なもので気に入っています。集中力がないので横にある本棚で詩集とか読んだりして気が散っていますけど(笑)。

本間さんの仕事場の様子

あなたのクリエイターの「わ」

◯影響を受けたデザイナーやクリエイター

かっこいい写真を撮る方はたくさんいますが、「こうなりたい」という像は同業者には湧かないんです。私は昔から音楽が好きで、特に高田渡さんは唯一熱狂した方でマイレジェンドです。“日常”について歌っている方で、何十年も前の曲だけど亡くなってからいろんなアーティストがカバーをしたりしています。10代の頃からずっと好きで、自分が生きていく上での悩みに対して歌詞がスッと心に入ってきて安心させてもらっています。

高田さんを知ったきっかけは、ライブハウスでたまたま曲が流れていて、歌詞が気になったことからです。高田さんも写真を趣味で撮っていて、亡くなってから息子さんが写真集を出したり、写真展をやったりもしていましたね。

自分の作風に影響があるかはわかりませんが、彼の視線と私が見ている風景が似ているのかなと。たとえば就活しているときも「仕事さがし」という曲が私の日常にリンクしているなとか、ところどころで感じることがあります。

◯前回のシャラさんからの質問:加恵ちゃんにとっての美学とはなんですか?自分自身にとって、どんなところにセンスを感じるのかを聞いてみたいです。

すごく難しい質問ですよね……(苦笑)。直接的な答えになっているかわかりませんが、曲げられないこととして考えると、絶対にその人がベストだという状態の写真を撮るようにはしていますね。特にその人の肌の色を大事にしていて、きれいな肌の色を出したいなと思っています。「きれいな肌」は、たくさん修正を加えるということではなく、その人それぞれの肌色があるから、撮影の際の色づくりについてこだわっているという意味です。たとえば日焼けした色を妙に白くしないとか、その人のベストの状態を壊さないよう気を付けています。

あとポートレートの場合は、雰囲気重視のような目線がカメラに合っていない写真って多いですが、個人的には目線がある写真のほうが芯が強くて好きで、絶対に押さえるようにしています。

◯ご紹介したいクリエイター

本間さんにご紹介いただくクリエイターは、Rintaro Iinoさんです。

◯Rintaro Iinoさんへのメッセージと質問

りんたろうはニットデザイナーで、リボンを編んだ作品やニットの可能性を広げるような服をつくっています。海外でも活動していて、最近だとコペンハーゲンで開催されたコンペで受賞していましたね。もともと彼は、大学のイベント系のインカレの同期なんです。そのインカレは武道館を会場にしたりと規模感の大きいイベントをやっていて、そこのクリエイティブチームで出会いました。りんたろうは当時まだファッションには携わっていなくて、映像を担当していましたね。

本当に大親友というか、仕事の悩みやいま感じていることなど何でも話ができる間柄で、自分と全然ちがう脳味噌を持っているから尊敬できる部分が多いです。すごく大切な友達で、お互い尊敬しているなと思います。

ルックによって変わるのかもしれませんが、りんたろうがお洋服をつくる上での“ミューズ”がいれば知りたいです(誰かひとりじゃなくても)。自分のお洋服について、どんな人に着させたいと思ってつくり上げているのかを聞いてみたいです。

次回のクリエイターの「わ」は、Rintaro Iinoさんにお話をお聞きします。

タイトルデザイン:金田遼平 聞き手:石田織座(JDN)