33回目のミラノデザインウィーク

33回目のミラノデザインウィーク

1986年に初めてミラノ国際家具見本市(以下、長く通っているので昔からの呼称=ミラサロで記述します)を訪れ、エットレ・ソットサスやアキッレ・カスティリオーニなど尊敬するデザイナーと遭遇した。旧フィエラ会場では、ピエロ・アンブロジオ・ブズネリB&B Italia社長ら経営者が自らセールスに立つ姿に、開かれたデザインの世界を感じた。以降今日まで33年間、ミラサロ通いをしている。

15年ほど経った頃(2000年)、今度は自分が仕かける側(出展)にまわりたいと思うようになってきた。そして、そのチャンスは2004年にやってきた。欧州での「LEXUS」ブランド発売に際して、当時欧州では無名のブランドプロデュース(国内のとりまとめ)を任された。その時に取り入れた手法が、展覧会のキュレーションである。これを機に今日まで14年、毎年日本企業のブランディングを担ってきた。モノだけではなく背景(philosophy)や構成する要素をコンテンツ化して、アート表現に変換(高い感性領域に)するキュレーションを始めたのは私である。

グランドセイコーの話をしよう。初めてミラサロに参加する企業の演出にはいつも頭を悩ます。自分の中でシナリオや演出が定まらないと誰に依頼するか決まらない。そもそもミラサロは過酷な場所である。目の肥えたインフルエンサーがうようよいる。おまけに大半がリピーターである。そして、忙しいから情報量が多すぎると理解してもらえない。単年度だけで捉えるのではなく、複数年のタイムスケジュールでどうオーディエンスを高揚させ、ファンになっていただくか、根本的なブランド戦略が必要になる。出展するからには、最低3年、願わくば5年は出展し、成果を創出すべきだと思っている。

今回もキャスティングには迷った。グランドセイコーというトップブランドに相応しい人は誰か、悩みに悩んだ末、TAKT PROJECT(以下、TAKT)に依頼した。それは日頃付き合い、彼らのモチベーションや可能性を感じていたからだ。併せて、論理的に構築できる思考力と表現力を持ち合わせていた。でも最初の提案はあまりに実験的で、時間や予算、そのほかの考慮すべき条件に合わず、提案から3か月目でNGとした。代わりに私が提案したのが今回の作品である。

これは、2015年のミラサロのランブラーテ地区でTAKTが初めて発表したデザインで、その後AXISでのTAKTの個展や、私がキュレーションした富山県美術館開館記念展 Part 2「素材と対話するアートとデザイン Art and Design, dialogue with materials」にも出展いただいた作品である。彼らは当初この作品はもうやり切ったと思っていたようだったが、この作品の持つ美しさ(力)に、まだまだバージョンアップできると感じていた。

セイコーウオッチ株式会社高橋修司代表取締役社長を囲んで記念撮影

セイコーウオッチ株式会社 高橋修司代表取締役社長を囲み、記念撮影

初参加というプレッシャーをはねのけて、多くのインフルエンサー、メディアから高い評価をいただいた。そして何よりクライアントさんに大変喜んでいただいた。TAKTほか一緒に汗を流した、チーム一丸の成果である。長くなってしまったので、この続きは次号に続く。

ミラノ国際家具見本市のグランドセイコーの展示スペースにて、川上元美と桐山登士樹が話をしている画像

川上元美さんをご案内

【お知らせ】
今年で25回目となる「富山デザインコンペティション」は、7月2日17時が締め切りです。多くの人材を輩出してきた、デザイナーの登竜門となるデザインコンぺです。

toyama design competition 2018のメインビジュアル

詳しくはURLをご覧下さい。富山県総合デザインセンターは、皆様の応募を心よりお待ちしています。
https://dw.toyamadesign.jp/compe-list/#post-1160

デザインディレクター桐山登士樹

桐山登士樹(デザインディレクター)

株式会社TRUNKディレクター、富山県総合デザインセンター所長、富山県美術館副館長。

30年に渡ってデザインの可能性を探り、さまざまな基盤や領域の活動を実践。特に1993年から今日まで「富山県総合デザインセンター」で地域のデザイン振興に携わり、商品化を前提とした「とやまデザインコンペティション」を企画・実施。地域の資産を生かした「幸のこわけ」の企画・商品化で成果を創出。

これまで、YCSデザインライブラリーや富山県総合デザインセンターなどのインフラ整備に参画。展覧会では「ニューヨーク近代美術館巡回 現代デザインに見る素材の変容(1996)」「イタリアデザインの巨匠/アキッレ・カスティリオーニ展(1988)」「日蘭交流 400周年記念 DROOG & DUTCH DESIGN展(2000)」「イタリアと日本 生活のデザイン展(2001)」「80歳現役デザイナー長大作展(2001)」他多数。ミラノデザインウィークでは2005年よりレクサス、キヤノン(エリータデザインアワード2011グランプリ受賞)、アイシン精機(Milano Design Award 2016 Best Engagement by IED受賞)、セイコーウオッチ「THE FLOW OF TIME」を総合プロデュース(2018)。メゾン・エ・オブシェでは、JETRO広報ブース「Japan Style」、伝産協会の海外販路プロデューサーを担う。「2015年ミラノ国際博覧会」日本館広報・行催事プロデューサー(金賞受賞)。共書「ニッポンのデザイナー100人」(朝日新聞社)。経済産業省「世界が驚く日本2016」研究会座長ほか。

http://www.trunk-design.jp/