ルチェステ(光+空)
毎年イベントが盛んなトルトーナ地区。その一角で、今年も東芝が「Lucèste : TOSHIBA NEW LIGHTING」と題した光のインスタレーションを行った。Lucèsteとは luce(光)と celèste(空の)を組み合わせた、会場をイメージさせるイタリア語の造語である。
今回のインスタレーションでは、環境にやさしいだけでなく、多彩な光源色やきめ細やかな制御といったLED光源が持つ潜在力を引き出し、LEDならではの繊細かつ美しい空間を見せた。
フニャフニャした床を歩いて大型の「かまくら」のような真っ白い小さな部屋に一歩入ると、そこは角の一切ない、奥行きのわからない不思議な空間だ。そして天井にはポッカリと穴が空いていて、刻々と色を変える光を浴びた、雲が空を流れている。一瞬空の映像かと思ったのだが、あまりにリアルなので思わずじっと見入る。すると、雲がゆったりと流れているのである。そして、このかまくらのような空間で音や声を出すと、それが延々とこだまするという興味深い演出だ。
人がたくさんいると、この味わい深いインスタレーションの良さが十分に引き出されず、また贅沢を言えばもっと小型の「ひとり用」の空間もあちこちにあると、さらにこの詩的な環境に浸れたような気もする。しかし、派手なインスタレーションが目白押しのサローネにおいて、ひっそりとポエティックなイメージを展開したことは興味深い。ミニマルで詩的、静的であり、ある意味非常に日本的でもある。
会場の構成は建築家の谷尻誠。クリティブディレクションは東芝の伏屋信宏、テクニカルサポートは照明デザイナーの岡安泉や坂本眞一。また音響アドバイザーには音楽家・音響エンジニアのセイゲン・オノを起用。
|
 |
※クリックで拡大
 奥行きや高さなど、錯覚を起こす角のない空間。まるでかまくらのよう。
 雲は延々と流れる。思わず見とれてしまう。
 色も刻々と変わる。
|
|

|

|

|
毎年恒例のSWAROVSKI クリスタルパラス
トルトーナ地区のメジャーなイベントの一つは、毎年恒例のSwarovskiクリスタルパラス。今年は5人のデザイナーのそれぞれの国のパラス、あるいはコンセプトからイメージされた部屋を用意し、一つの空間につき一つのプロジェクトを展開した。ここでもライティングにはLEDが使用されている。会場構成は “The Wapping Project”の創立者である Jules Wright。今年の作品はどれもSwarovskiが宣言する通り「一見シンプルだが、進んだ技術に支えられた、見る者を魅了するプロジェクト」である。
まずは吉岡徳仁のSTELLAR。シンプルな部屋に直径1メートルの球体がある。LEDを使用した球体のこのシャンデリアは一見普通だが、よく見るとクリスタルの特性が最大限に生かされ、まるで太陽のように光り輝いていた。そして部屋の端には、ガラスケースに囲まれた「自然に育つクリスタル」のイメージインスタレーションがあった。
それから東京で活躍中のフランス人Gwenaël Nicolas(グエナエル・ニコラ)のSPARKSは2つのプロジェクト、2部屋から構成されている。一つの部屋には直径2メートル40センチの透明の球体(風船)があちこちに置かれ、中にLEDで照明されたクリスタルが入っている。面白い企画だが、クリスタルがよく見えなかったのは残念だ。もうひとつの部屋には長さ10メートルのガラスの綱というか帯が部屋を縦断している。ここにもLEDが適用され、プログラムされた光はクリスマスツリーのように、サーッとクリスタルの帯を走り抜ける。
次に、ベルギーの建築家Vincent van DuysenのプロジェクトFROST。長さ140から220センチのスタンディングのトーテムにクリスタルとLEDが仕込まれている。このトーテムは単独にも、インスタレーションのように複数使うこともできる。
オランダ人の照明デザイナーRogier van der HeideによるDREAM CLOUDでは、非常に小さなサイズのクリスタルの無加工の粒が真っ暗な空間に浮かんでいるように見え、床には雲が流れているというようなマジカルでシュールなインスタレーションだ。
最後に、スイス人のYves BéharのプロジェクトAMPLIFY。リサイクルされた照明器具、LED、クリスタルによる「灯籠」である。紙に写しだされるクリスタルの姿が、どことなくノスタルジックな雰囲気を漂わせる。
全体に暗くてよく見えないものが多くそれが残念ではあったが、Swarovskiの新たなるチャレンジ精神には毎年感心させられ、また来年も期待したい。
|
 |
※クリックで拡大
 吉岡徳仁 STELLAR
 吉岡徳仁「自然に育つクリスタル」のイメージインスタレーション
 Gwenaël NicolasのSPARKS透明の風船の中で照らされるクリスタル
|
|
※クリックで拡大
 Gwenaël NicolasのSPARKS長さ10メートルのガラスの帯
|
 |
 Vincent van DuysenのFROST。SF的な空間。 |
 |
 Rogier van der HeideのDREAM CLOUD。残念ながら真っ暗でほとんど撮影不可能。 |
|

|
 Yves BéharのプロジェクトはAMPLIFY。
|
 |
|
 |
|
|

|

|

|
それぞれのライティングシステムを部屋の中で見せたFLOS
スーパースタジオ・ピュ展示会場の中でポエティックな空間を見せていたのはFlos社。ソフト・アーキテクチャーというコンセプトのシリーズの展示だ。このシリーズはUnder-Coverテクノロジーというエコマテリアルを使用している。非常に耐久性に優れていて、ほぼ永遠にリサイクルでき、Cradle to Cradleという環境保護のマテリアルであるという証明を受けている。また、ここでも省エネがテーマのひとつになっており、いずれの製品もLEDをはじめ、低電圧ハロゲンランプ、冷陰極蛍光ランプCCFLなどを使用している。環境問題を考慮した製品開発をするというのは、これからのメーカーのマストである。が、展示会場ではそういった説明にまったく気がつかなかったビジターも多かっただろう。会場はマジカルなイメージでムンムンとしていたからである。
中でも目を引いたのは、Ron Gilad デザインのWallpiecing。Soft Architectureシリーズのひとつで、単独で、あるいは組み合わせて環境を作ることができる。色彩が刻々と変わり、組み合わせ方でいろいろな表現を見せるこのプロジェクトの前には、人だかりが絶えなかった。
光のデザイン
この3つのイベントからも分かるように、照明器具そのもののデザインというよりも、照明が織りなすその環境をデザインする、ということが今、面白い。光はそれだけ、多くの「力」を持っている。同じ空間、物体でも照明次第で色や雰囲気がいくらでも変化する。
また、環境問題を反映して、いわゆる白熱電球は消えつつある。こうした現象を踏まえ、ドイツの照明デザイナーであるインゴ・マウラ—は白熱電球に永遠の別れを告げるオマージュ作品を発表したほどである。
省エネとは言え、昔の蛍光灯の青白い光を、欧州の人々は嫌ったものだ。だが現在、LEDの普及は目覚ましく、低価格化が進めば、その普及は目覚ましいだろう。LEDは従来の蛍光灯よりもさらに省エネであり、しかもこれほどバラエティに富んだ表現ができるようになったことは、素晴らしい。
|
 |
※クリックで拡大
 Flos社のWallpiecing。Soft Architectureシリーズのひとつで、単独で、あるいは組み合わせて環境を作ることができる。
 Flos社 Ron Gilad デザインのWallpiecing (Photo:P.Spina)
 Flos社 Ron Gilad デザインのWallpiecing (Photo:P.Spina)
 Flos社 Ron Gilad デザインのWallpiecing
|
|

|

|