福山市アーケード改修プロジェクト「とおり町Street Garden」

人々の街を思う気持ちと行動が、持続可能な状況や仕組みをつくったプロジェクト

デザインコンセプト
担当:前田圭介/UID

現代社会において人口推移と地方経済のゆく末、また、大規模小売店舗法の緩和、市域拡大、ネット社会の影響などにより、県庁所在地にある商店街は賑わいを維持しているように感じるが、そうでない地域の商店街アーケードは往々にして疲弊している。これは、このような時代背景のもとで、江戸時代から400年以上続く広島県福山市本通・船町商店街の30年前につくられたアーケードの改修プロジェクトだ。

以前から商店街内では、「天蓋上部にある高圧線の電柱をなくして地中化する」「同時にアーケードも取ってしまえば町並みがきれいになるのではないか」という議題が挙がっていたが、最終的には電線地中化の目処は立たず、今後アーケードを残すべきかどうか、そして商店街存続の可能性を含めての相談からプロジェクトはスタートした。そこで単に改修するのではなく、かつての商店主たちの希望が込められたアーケードの記憶を継承しながら、商店街ならではの風景を再創造することを考えた。

具体的には、軒を連ねる商店街の連帯感を新たな形式で生み出すため、天蓋部分は撤去。既存の柱を活かしながらステンレスワイヤーを架け渡し、自然あふれる樹木の下で“歩く喜び”を感じられる公園的なストリートスケープへ生まれ変わらせた。また、商店主が学びながら植栽を維持管理していくグリーンパトロール隊という仕組みも提案し、持続可能な環境を構築した。これはパブリックに働きかけながら、商店街ならではの風景と歴史を受け継ぎ、新たに次代への希望が込められた建築的かつ土木的実践だ。

商店街組合だけでなく、福山市の行政、そのほか多くの方々を巻き込みながら一緒につくりあげたこのプロジェクトは、ハードを整備すれば何かが変わるという幻想を抱かず、ひとりひとりの街を思う気持ちと行動が持続可能な状況や仕組みを生み出せるということを証明している。一朝一夕では生まれない、人と人との関わりの中に次代へつなげていくバトンがあると信じている。

設計 前田圭介/UID
構造 小西泰孝建築構造設計
用途 商店街アーケード
構造 主体構造:鉄骨構造、杭・基礎:独立基礎
道路幅員 8m
道路規模 441m
最高高さ 15m
所在地 広島県福山市今町3-1~船町8-22
撮影 Koji Fujii/Nacasa&Partners.Inc、UID