2020年12月12日に群馬・前橋に誕生した「白井屋ホテル」。“前橋のまちなかを活性化したい”という思いに、藤本壮介やミケーレ・デ・ルッキ、ジャスパー・モリソン、レアンドロ・エルリッヒなど国内外のクリエイターが集結し、食文化とアートの発信源となるべく開業しました。
廃墟となっていた歴史あるホテルの建物をリノベーションして、前橋の新たなデスティネーションとなった白井屋ホテルがどのように生まれたのかご紹介します。
■背景
明治初期には絹産業におけるイノベーションを興し、日本近代化の先駆けとなった群馬・前橋。まちを江戸時代から彩ってきた旧宮内庁御用達「白井屋旅館」は、森鴎外や乃木希典など、多くの芸術家や著名人に愛されてきた旅館です。
しかし、1970年代にホテル業へと転換するも、中心市街地の衰退とともに2008年に廃業を余儀なくされ、惜しまれながらも300年の歴史に幕を下ろしました。その後、取り壊しの危機にあった白井屋ですが、2014年に前橋市の活性化活動「前橋モデル」を主導する田中仁財団の活動の一環として、再生プロジェクトがスタートしました。
全体のデザインと設計を手がけたのは建築家の藤本壮介。また、レアンドロ・エルリッヒをはじめとする国内外のさまざまなクリエイターが賛同し、6年の歳月をかけ大改修と新棟建設が行われ、2020年12月に「白井屋ホテル/SHIROIYA HOTEL」として新たに開業しました。
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グリーンタワーに設置されたサイン(photo:Shinya Kigure)
■コンセプト
2016年8月に前橋市が官民一体となり、ビジョンの「めぶく。」を発表したことをきっかけに、かつて衰退していた中心市街地「まちなか」では、少しずつ魅力的なお店やコミュニティスペースなどが誕生。中核地方都市の活性化モデルとして「前橋モデル」が注目を集めていきました。
「白井屋ホテル」はその「まちなか」の中心に位置し、訪れる人の想像力を刺激する場「アートデスティネーション」として生まれ変わらせることとなりました。
![白井屋ホテル オールデイダイニング兼ラウンジ「the LOUNGE」](https://www.japandesign.ne.jp/wp/wp-content/uploads/2020/12/5d5d490fa7b3172a5d38bf0b79794365.jpg)
オールデイダイニング兼ラウンジ「the LOUNGE」(photo:Shinya Kigure)
■特徴
構成は、旧白井屋の建物のコンクリート構造をむき出しにし、大胆な吹き抜けが印象的な「ヘリテージタワー」と、ビジョン「めぶく。」の象徴であり、利根川の旧河川の土手をイメージして新築された「グリーンタワー」の2棟からなります。
レアンドロ・エルリッヒによるインスタレーションをはじめ、多彩なデザイナーやアーティストとコラボレーションを展開し、敷地内や各客室には建築に呼応するようにさまざまなアート作品を展示しています。
![白井屋ホテル ヘリテージタワーの外観](https://www.japandesign.ne.jp/wp/wp-content/uploads/2020/12/9c935df6f9209589be420e5c4a42584a.jpg)
ヘリテージタワーの外観/ローレンス・ウィナー(photo:Shinya Kigure)
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グリーンタワー外観(photo:Shinya Kigure)
国道50号線側のファサードには、一際目を引くローレンス・ウィナーの大胆なアート、入館してすぐのフロントでは杉本博司の海景シリーズ「ガリラヤ湖、ゴラン」がゲストを迎えます。
![白井屋ホテル フロント/杉本博司海景シリーズ「ガリラヤ湖、ゴラン」](https://www.japandesign.ne.jp/wp/wp-content/uploads/2020/12/0d1e5c3dc36d5cae4f6a17adf6f10e58.jpg)
フロント/杉本博司 海景シリーズ「ガリラヤ湖、ゴラン」(Photo:Katsumasa Tanaka)
ヘリテージタワーの4階までの吹き抜けには、レアンドロ・エルリッヒによる幻想的な光を用いた「Lighting Pipes(ライティング・パイプ)」を設置。グリーンタワー頂上の小屋には、宮島達男の作品が設置され、宿泊客のみが体感できるアート作品となっています。
![白井屋ホテル グリーンタワー頂上/宮島達男「Time Neon – 02」](https://www.japandesign.ne.jp/wp/wp-content/uploads/2020/12/ea56a7c07209ee51a4d91e3ed86ac876.jpg)
宮島達男「Time Neon – 02」(Photo:Shinya Kigure)
ヘリテージタワーとグリーンタワーにあるすべての客室には、群馬を拠点に活動する作家の作品、ホテル開業に合わせて世界中から厳選した作品、現場のために制作をしたサイトスペシフィックな作品を展示しています。
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ヘリテージタワーの吹き抜け/レアンドロ・エルリッヒ「Lighting Pipes」(Photo:Katsumasa Tanaka)
また、ヘリテージタワーには、英国の著名デザイナーのジャスパー・モリソン、イタリアの建築界の巨匠であるミケーレ・デ・ルッキ、レアンドロ・エルリッヒ、藤本壮介による4つのスペシャルルームがあります。
それぞれの作家が内装設計を一から手がけ、客室が作品のようになった、世界にひとつだけの空間です。そのほかの客室のデザイン・設計は藤本壮介によるもので、穏やかな色調の中に素材やディテールへのこだわりを感じさせてくれます。
![白井屋ホテル ジャスパー・モリソンによる客室](https://www.japandesign.ne.jp/wp/wp-content/uploads/2020/12/7f4a70de480f69f98517ff37365d6b75.jpg)
ジャスパー・モリソンによる客室(photo:Shinya Kigure)
![白井屋ホテル ミケーレ・デ・ルッキによる客室](https://www.japandesign.ne.jp/wp/wp-content/uploads/2020/12/a0033a3fe2dd471fbdb2ed7134a34b5f.jpg)
ミケーレ・デ・ルッキによる客室(photo:Shinya Kigure)
![白井屋ホテル レアンドロ・エルリッヒによる客](https://www.japandesign.ne.jp/wp/wp-content/uploads/2020/12/393fdbb0c32cfe98951870abfcf24051.jpg)
レアンドロ・エルリッヒによる客室(photo:Shinya Kigure)
![白井屋ホテル 藤本壮介による客室](https://www.japandesign.ne.jp/wp/wp-content/uploads/2020/12/6e9010698a7dd0834120380fd2defcff.jpg)
藤本壮介による客室(photo:Shinya Kigure)
グリーンタワーの客室にはバルコニーがあり、タワーを覆う植栽との一体感を覚えます。ベッドマットレスには国内外のラグジュリーホテルに採用されているブランド「サータ」を、カーテンはテキスタイルデザイナー、コーディネーターとして活躍している安東陽子がデザインし、備品はスタイリストの長山智美が厳選しました。
![グリーンタワー/デラックスルーム](https://www.japandesign.ne.jp/wp/wp-content/uploads/2020/12/facea92364d34bcd4686c1e8011ab20e.jpg)
グリーンタワー/デラックスルーム(photo:Shinya Kigure)
食においては、ミシュラン2つ星の川手寛康シェフの監修のもと、群馬出身の片山ひろシェフが上州の食文化と食材を活かしたメインダイニング「the RESTAURANT」から、気軽に利用できるオールデイダイニング「the LOUNGE」まで、驚きに満ちたさまざまな食体験を楽しめます。
所在地 | 群馬県前橋市本町2-2-15 |
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建築・内装設計 | 藤本壮介 |
客室デザイン | ミケーレ・デ・ルッキ、ジャスパー・モリソン、レアンドロ・エルリッヒ、藤本壮介 |
照明デザイン | 東海林弘靖(ライトデザイン) |
テキスタイル | 安東陽子 |
備品コーディネーション | 長山智美 |
サイネージ・アートディレクション | nanilani |
レストラン監修 | 川手寛康(フロリレージュ ) |
レストラン設計 | 甲斐晋介(エスキス) |
植栽監修 | 齊藤太一(Solso) |
撮影 | 木暮伸也、田中克昌 |