未来コンビニ

柚子の木をイメージした建築構造がシンボリックな、小さな村のライフライン

「四国のチベット」と呼ばれる徳島県那賀郡・旧木頭村。限界集落化が進むこの地に初めて誕生したのが「未来コンビニ」です。

デザインを担当したコクヨの佐藤航さん、青木耕治さんに、このコンビニが誕生した背景やデザインの特徴についてお話を伺いました。

■背景

未来コンビニが計画された四国中央に位置する徳島県木頭地区は、日本で一番の降雨量を誇る地です。そして稀にみる自然豊かな場所であることから、「四国のチベット」と呼ばれています。ただし、ほかの地域の例に漏れず限界集落化しており、東京の1つの区ほどの広さがありながら人口は1,000人程度です。

この小さな村・木頭村を民間企業である「KITO DESIGN HOLDINGS(以下、KDH)」さんによる文化の力で再興するプロジェクトが始動しており、そのハブとして未来コンビニはつくられました。プロジェクトではこのほかに「CAMP PARK KITO」がつくられており、今後もさまざまなPARK構想が計画されています。

また、木頭村の周囲にスーパーはなく、最寄りの大きなスーパーまで車で2時間かかるという不便な生活・買い物環境でもありました。そこでこの集落の未来を考えると、子どもを育み、木頭村の村民と来訪者の接点となり、ライフラインを担う場が必要となりました。

未来のコンビニ

■コンセプト

未来コンビニの“未来”とは、マンガ家の手塚治虫先生が子どものことを“未来からやってきた未来人”と呼んだことにちなんでいます。この地が子どもを育む場所になることを願ってKDHさんに命名されました。また、この集落は日本で初めて柚子の接ぎ木に成功した歴史的な地であることを知りました。そこでこの場に木頭の未来をつくる想いを込めるため、柚子の木をイメージした建築構造をデザインの軸に添えています。そこに日本一降雨量が多いという環境を考慮し、テラスも含んだ大屋根がかかります。

柚子の木による建築構造と雨による大屋根という2つのシンプルな組み合わせによって、メッセージ性がありシンボル性の強い建築をつくりたいと考えました。また外壁はガラス張りとすることで、雨や木頭の自然を日本一美しく感じる建築を目指しています。

未来コンビニ

■課題となった点、手法、特徴

コストメリットとメッセージ性という2つの側面を叶えるため、汎用的な建築構造を用いてオリジナルデザインに昇華することを考えました。ここではルナントラスという工場や倉庫、ビニールハウスなどで使われている立体トラス構造を使用しています。このトラス構造を枝に見立て、現地の方々も参加しながらイエローで丁寧に塗り分けることで、柚子の木の建築構造を持つこの地ならではの建築をつくりました。

またプロジェクトを進める中で、KDHさんより子どもやお年寄りへの配慮から島什器の高さを低くするアイデアをいただきました。そこで、トイレ・控室などの個室の天井の高さも同様に低く抑え、空間を構成するすべての要素が大屋根の下でそっと低く置かれるイメージで設計し、ひとつの空間になるように計画しました。

さらに、ここではコンビニ機能だけでなく奥にはカフェがつくられ、木頭のオリジナル商品や地域の柚子やハーブを使ったドリンク、ソフトクリームなどを楽しむことができます。

未来のコンビニ

大屋根は温かな光で照らされ、1つ屋根の下でお年寄りや子ども、親子、旅行客や外国人など木頭を訪れた人々がこの場に集い、村の催しが日常的に行われ、生活を営んでいます。またクリエイティブディレクターの鵜野澤啓祐氏から大きな時計を発案いただき、特殊なプログラム照明器具を用いた大きなデジタルクロックを入口につくりました。衛星が見えるほどの漆黒の夜空に、デジタルクロックが木頭村に新たな時を刻み、人が集うことを願います。スーパーまで車で2時間かかるこの地域に人々のライフラインであり、木頭の未来をつくるコンビニが完成しました。

未来のコンビニ

所在地 徳島県那賀郡那賀町木頭北川宇いも志屋敷11-1
建築・インテリアデザイン 佐藤航、青木耕治、黒尾智也、須賀真紀子/コクヨ
蜜石陽平、狩野拓真/GEN設計
照明デザイン 加藤久樹/Hisaki Kato Lighting & Design
構造設計 ルナン研究所
設備設計 原田典政/福祉計画研究所
施工 北岡組
企画 KITO DESIGN HOLDINGS
企画協力 山内康裕/レインボーバード 、敦賀正樹/クオリア
クリエイティブディレクション 鵜野澤啓祐
延床面積 185m2
竣工日 2020年4月24日
撮影 山本慶太/ナカサ&パートナーズ