- デザインコンセプト
- 担当:安齋好太郎/Life style工房
福島市街地から県道を境に市街化調整区域に入ると、りんごや梨の農園が点在するのどかな風景の中に、細長いプロポーションの石蔵がいくつも目に入るようになる。建主家族の祖父もまた、昭和48年に立派な石蔵を建て、長年丁寧に手をいれてきた。
この地に住むことになった建主家族は、石蔵のある場所に家を新築しようと考えていた。相談を受けて敷地を見に行くと、風景に馴染む、重厚だけどどこか軽快な、手入れの行き届いた石蔵が建っていた。あとから取り付けられた下屋(母屋から差し出してつくられた屋根)のトラスも良く、すぐさま下屋も含めて残し、改修することを提案した。更地にしなければと思い込んでいた建主は、思い入れのある石蔵を残せることを驚き、喜んだ。
建主が新しい家に求めたものは、「家」というよりも、仕事場、アトリエ、書庫を内包する「場」だった。家として必要な機能を石蔵のなかに無理に収めず、下屋にも空間を拡張して台所をつくり、石蔵の1階に水廻りのコアとダイニング、2階に寝室を設けるプランとした。
軒下、ぐるりと窓を回して見通しの良い台所、石に囲われたダイニング、そして2階の個室と、段階的にパブリックからプライベートへとグラデーションをつけた構成となっている。台所脇の引き戸がこの家の入り口だが、いわゆる玄関らしさがないためか、来訪者はガラス戸越しに中の様子を伺いつつ、気軽に訪れやすいようだ。建主家族もまた、1階に私物をあまり置かないなど、来訪者を迎えやすい住まい方を実践している。
建主夫妻は、この家に「etobun」という名を授けた。名前は夫婦の生業に由来し、「絵と文」という意味が込められている。名前をつけることで、この家を4人目の家族として迎え入れるとともに、将来的には地域にとって何らかのコミュニティスペースとなってゆくよう願いが込められている。人の家に行くよりもかしこまらず、地域の施設に行くよりも気軽に立ち寄れるようにと名付けられたこの場を、建主は「家以上、店未満」と呼び、どのような場にしていくか、楽しそうに画策している。
主体構造・構法 | 1F 石積、2F 木造 |
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階数 | 地上2階建 |
敷地面積 | 767.20m2 |
建築面積 | 79.50m2 |
延床面積 | 97.86m2 |
設計 | 安齋好太郎/Life style工房 |
施工 | Life style工房 |
所在地 | 福島県福島市 |
設計期間 | 2016年8月~2017年10月 |
施工期間 | 2017年10月~2018年1月 |
撮影 | ©髙橋菜生写真事務所 |