食と技術とおもてなしで、スマイルズ×デンソーが「大地の芸術祭」に新しい価値をもたらす取り組みに挑戦

食と技術とおもてなしで、スマイルズ×デンソーが「大地の芸術祭」に新しい価値をもたらす取り組みに挑戦

「Soup Stock Tokyo」を運営する株式会社スマイルズが、QRコードや産業ロボットの開発で知られる株式会社デンソーの技術協力を得て、7月26日から開幕する「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2015」(以下、「大地の芸術祭」)にアーティストとして作品を出品する。タイトルは「新潟産ハートを射抜くお米のスープ300円」。

芸術祭における「食」の重要性が年々高まっているので、地産の素材を使用したスープが提供されることにはまったく違和感はなかったが、アーティストとして作品を出品するということの意味がにわかに理解できずにいた。しかもそれを発表する記者会見が「INTERSECT BY LEXUS -Tokyo」で行われるというのだ。「大地の芸術祭」における注目のトピックになりそうなこの試みについて、スマイルズの代表取締役社長である遠山正道氏に記者会見前にインタビューを行った。インタビューと記者会見の内容を再構成した形で、スマイルズという企業がアートに取り組むことの意味と思いについてお伝えしたいと思う。

「大地の芸術祭」に出品する経緯

今回の「大地の芸術祭」への出品は色々なことが良いタイミングで結びついたという感じです。さかのぼれば、1996年にサラリーマン時代に絵の個展をやったのがいまにつながっています、それから私の中では作品をつくりたいという思いがずっとありました。

一昨年、デンソーさんに講演に伺った際にロボットのデモンストレーションを見て、その動きがすごくて感動しました。その日の夜に、デンソーの都築常務や広報のかたとの宴席が組まれて、そこで「あのロボットはアートだ、ぜひとも一緒に作品をつくりたい」とその場で伝えました。それがことの起こりで、いまに至るきっかけです。そういった場もなく、ふつうの段取りで申請していたとしたら、絶対にかなっていなかったと思います。

株式会社スマイルズ代表取締役の遠山正道氏

株式会社スマイルズ代表取締役の遠山正道氏

また、昨年「いちはらアート×ミックス(中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス)」に、私たちは食の分野(なっぱすごろく/わっぱ駅弁)で参加しました。そのときに、「いちはらアートミックス」の公式サイトやパンフレットで、アーティストとして紹介してくれたのがすごくうれしくかった。

スマイルズとしてなにかを伝えたいという気持ち、デンソーさんのロボットを見たこと、「いちはらアート×ミックス」にアーティストとして参加したこと、それらがすべてつながっています。

今回の「大地の芸術祭」のガイドブックでは、「食」のカテゴリーに掲載される予定だったのですが、純粋にファインアートとして扱ってほしかったのでそこは分けてもらいました。「Soup Stock Tokyo」1号店ができる前の検討段階の時期ですが、もともと私の個展で作品としてスープも出していました。将来はグッゲンハイムとかでも作品としてスープを出せたら、なんてことを漠然と思っていた過去があります。

企業がアートに取り組む意味、作品をとおして伝えたい思い

デンソーさんは従業員14万人を抱える立派な企業なのに、いまひとつ知名度が低という話が宴席でありました。世間から注目を集めたのが、電王戦(プロ棋士とコンピュータ将棋ソフトによる対局、コンピュータソフトの代指しを行うロボットアームをデンソーが提供)くらいでした。せっかく高い技術力を持っているのだから、一緒に新しいものをつくりましょうという話をしました。最初は恐らく「なんかおもしろそうだな」くらいの感じで協力してくれたと思います。芸術祭はスケジュールが決まっているので、それに合わせてみんなで動けたのが良かったです。もし、これが個展みたいなものだったら、ズルズルと遅延していたと思います。

今回、ご評価をいただいたら、来年の「瀬戸内国際芸術祭」にも出したいですし、海外からも招聘されたら良いなとも思っています。あらかじめ海外から見たときのコンテクストとして、日本とスマイルズであることの必然性を感じさせる、「食」と「技術」と「おもてなし」という3つのコンテクストを下敷きにしています。「食」はまさにスープで、「技術」はデンソーさんのロボット、そして「おもてなし」は我々生身の人間でしかできない、ある体験を用意しています。

「新潟産ハートを射抜くお米のスープ300円」

「新潟産ハートを射抜くお米のスープ300円」

株式会社デンソーウェーブ代表取締役社長の柵木充彦氏

株式会社デンソーウェーブ代表取締役社長の柵木充彦氏

ロボットの動きが決まったのはわりと最近です。ロボットを使って何かをすると、どうしても人の動きを真似るようなスタイルにしたくなってしまう。あるいは音楽が流れてダンスをするとか。でも、そうすると展示会のデモンストレーションのようになってしまうので、そうならないように気を使いました。機能性を追及したロボットがロボットらしいまま美しく、システィーナ礼拝堂の天井画のような厳かなものになっていると自負しています。正直言って、今回の芸術祭の一番人気を狙っています(笑)。お年寄りから子ども、外国人にも楽しんでもらえると思います。

デンソーさんは今回のためにロボットを2台つくって、ものすごいお金がかかっていいます(笑)。それを許しているトップの判断と、澤田さんという技術者の存在に感謝しています。もちろん、スマイルズのほうの労力も膨大です。50日間スープを提供するということは、新しい店舗を出店するのと同じくらい大変なことです。商品開発、物流、施工、50日間ベタづきにさせるスタッフの配置確保や住居の手配や保険などなど…。

じゃあ、なぜそうまでしてやるのか?と問われると「合理的な説明」がなかなかできません。広告ならばもっとうまいやり方があるし、300円でスープを提供しても利益はありません。ふつうに考えたら意味のないことを、現場が一体となって横断的に行うことに意味があると思っています。それが新しい「価値」を創造することにつながるはずです。

今回のテーマのひとつは、「価値」を見極めていく作業だと思っています。ビジネスにおいても、いままでのような効率重視の経済のやりとりだけではなく、なにか新しい「体験」や「価値」を感じられるものじゃないと上手くいかないと思います。いまだに言葉にうまくできないお客様とのやりとり、そういたものを仮に「価値」と呼んでみたときに、そうした私たちが大事にしていることをアートの文脈に乗っけられないかと考えました。「ありがとう」という気持ちを言葉ではない形で届けて、来場者の胸の何かが震えるものになったら良いなと思っています。

「新潟産ハートを射抜くお米のスープ300円」

「新潟産ハートを射抜くお米のスープ300円」

ビジネス側にもアート側にも揺さぶりをかけたい

今回の作品は、ビジネス側の人たちとアート側の人たちに体験してもらったときに、それぞれの感じ方があると思います。ビジネス側からは「なんのためだか分からないことに、デンソーさんまで巻き込んでよくやるよ、ウチの会社じゃできないな」という風に悔しがらせたいんですよ。費用対効果が見えないことをやらない理由なんていくらでもあります。でも、いままで見たことのないものを提示することで、「俺たちだってやってやる」とか「日頃から考えていたことを会社に提案してみよう」とか、そんな風にビジネス側にも思って欲しい。そして、アート側にも訴えたいのは、スマイルズという企業だからできたんじゃなくて、アーティストだって意思と説得力があればできることだと思っています。「こんなのアートじゃない」という意見も絶対にあるだろけれど、少なくとも企業がアーティストとして作品をつくるというのは、いままでに誰もやらなかった試みだと思っています。

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作品自体の肝となる「おもてなし」の部分は、実際に現地に足を運んで体験してみないとわからないが、スマイルズという企業が野心と情熱を持って、「合理的な説明」ができないことに取り組んでいるのは理解していただけるのではないだろうか。「ア―ト側からも、ビジネス側からも、破廉恥なやつらだと思われたい」、この覚悟ともとれる力強い言葉を聞いて期待せずにはいられない。

記者会見後のトークセッションではデンソーの帽子を着用

記者会見後のトークセッションではデンソーの帽子を着用

「新潟産ハートを射抜くお米のスープ300円」特設サイト
http://art.smiles.co.jp/echigo-tsumari2015/