2年ぶりの開催となった「ミラノデザインウィーク2021」、出展者レポート

Salone del Mobile.Milano(photo:Andrea Mariani)

毎年4月にイタリアのミラノで行われる世界最大規模の家具見本市「ミラノサローネ国際家具見本市(以下、ミラノサローネ)」。例年、会期中に30万人以上の来場者が予想される世界最大規模の家具見本市だが、新型コロナウィルスが収束しない状況下でフィジカルに開催できる最大限の形として、今年は1度限りのミラノサローネ特別展「supersalone(スーパーサローネ)」として、2021年9月5日から9月10日まで開催された。

Salone del Mobile.Milano(photo:Diego Ravier)

Salone del Mobile.Milano(photo:Diego Ravier)

また、毎回同見本市の開催に伴ってミラノ市内ではさまざまな企業やデザイナーによる展示「フォーリサローネ」が行われており、これらを総称して「ミラノデザインウィーク」と呼ばれている。本記事では、今年度のミラノデザインウィークに日本から出展した企業やブランドの様子をお伝えする。

キュレーションは建築家のステファノ・ボエリが担当、特別展「supersalone」

例年同様のロー・フィエラミラノを舞台に開催された、スーパーサローネ。過去18カ月間に発表された各社の新製品が、製品カテゴリーごとに設計された長く平行なパーテーションに、垂直または水平に展示された。展示レイアウトを構成するすべての材料と部品は、解体して再利用できるように設計されるという。キュレーションは建築家のステファノ・ボエリが率いるデザインチームが担当した。

supersalone 会場の様子 Salone del Mobile.Milano(photo: Andrea Mariani)

supersalone 会場の様子 Salone del Mobile.Milano(photo: Andrea Mariani)

そのほか、雑談エリアやビジネスミーティング用ラウンジ、ADI(イタリア工業デザイン協会)が企画した世界初のデザイン賞であるコンパッソ・ドーロ賞を受賞した椅子の展示、Identità Golose(イデンティタ・ゴローゼ/国際料理シンポジウム)とのコラボレーションでデザインされたフードコート、ソーシャルエリア、リラクゼーションエリアなど、エリアやテーマに沿った会場構成が行われた。

Kartellのブース Salone del Mobile.Milano(photo:Diego Ravier)

スーパーサローネには425ブランドが出展し、そのうち16%はイタリア国外からの出展だった。来場者は6日間で6万人を超え、そのうち30%は113カ国からの外国人来場者。また、来場者の半数以上は貿易オペレーターやバイヤーで、世界各国から約1,800名のジャーナリストが来場したという。

初出展の企業も参加。日本からの出展者を紹介

■アンビエンテック(スーパーサローネ)

ポータブル照明ブランドを展開する株式会社アンビエンテックは、スーパーサローネに日本企業として唯一出展を行った。

アンビエンテック

アンビエンテックの出展ブース

ブースでは新製品として、空間デザイナー・吉添裕人のデザインによる照明「hymn(ヒム)」を発表した。「火」という原始的な明かりを再解釈した照明で、2019年のサローネサテリテでプロトタイプ作品として発表したもの。2年間の開発期間を経て、レンズと振り子が一体となった製品版が披露された。

アンビエンテック

吉添裕人デザインの照明「hymn」

■日東電工(フオーリサローネ[市内])

ミラノデザインウィークに初出展を行ったのは、工業用テープやスマホ用偏光フィルム、ディスプレイ関連の光学材料などを展開する高機能材料メーカーの日東電工株式会社。トルトーナ地区の会場を舞台に、新しい光の表現を可能にする光制御技術「RAYCREA(レイクレア)」を使ったインスタレーションを行った。

Photo_Yukikazu Ito

クリエイションパートナーに建築照明デザイナーの面出薫を迎え、テクニカルディレクション・演出は遠藤豊、アートディレクションは林琢真が担当。「Search for Light」と題した展示は、レイクレアの表現力や可能性を探る空間となった。

日東電工

Photo_Yukikazu Ito

日東電工の担当者の田中智也氏は出展について、「今回、悩んだ末の初出展ではありましたが、想像を超える多くの皆様に来場していただきました。会場では多くのコメント・感想を頂戴し、RAYCREA技術で驚きと感動を与えることができたと感じています。これから、より一層力を入れて開発を進めていきたいと思います」と、コメントした。

■長坂常(フオーリサローネ[市内])

長坂常(スキーマ建築計画)は、新作コレクション「SENBAN」を発表。「SENBAN」という名前のとおり、工作物を回転させ切削する加工法「施盤加工」をテーマにしており、新たに考案した電動丸ノコを使用した「丸鋸旋盤」で製作された作品が並んだ。

同コレクションのデザインは長坂氏が行い、プロダクト・リアライゼーション(加工機の開発、プロダクトの製作)は、TANKの福元成武が手がけている。これまで設計と施工で多数の協働を経てきた二人だからこその共同製作となった。今回は「SENBAN1」「SENBAN2」「SENBAN3」という3種類の旋盤加工機をつくり、それぞれの旋盤加工機で複数の作品がつくられた。

■ディオール「THE DIOR MEDALLION CHAIR」吉岡徳仁、nendo(フオーリサローネ[市内])

ファッションメゾンの「ディオール」は17名のアーティストを招聘し、メゾンを象徴するエンブレムの一つである「メダリオンチェア」から着想を得た新作を一堂に展示した。メダリオンチェアは、創業者であるクリスチャン・ディオールがメゾン創設後にまもなく、ファッションショーのゲストを迎えるために選んだという椅子だ。

今回、日本からは吉岡徳仁氏とnendoが参加した。

吉岡徳仁氏は、「ルイ14世が見た18世紀のフランスの記憶と未来を融合させた、メダリオンチェア」をコンセプトに「Medallion of Light」という椅子をデザインした。

光に最も近い素材である透明な樹脂を使い、歴史的かつ未来的な椅子を生み出すことを考えたという。364個の透明な樹脂のプレートをランダムに積層して構成することで、自然が持つ美しさを表現している。

吉岡徳仁による「Medallion of Light」

吉岡徳仁によるメダリオンチェア「Medallion of Light」

364個の透明な樹脂のプレートをランダムに積層して構成

nendoは、ディオール創業時の「モダンと伝統の優美な融合」という精神に着目し、クラシカルな椅子を先端技術を用いて解釈。素材は1800×1100mmのガラスの一枚板で、厚みはわずか3mm。

nendoによるメダリオンチェア「Chaise Medaillon 3.0」

通常、U字型までしか曲がらないガラス板を、C字型まで深く曲げられる手法を新たに開発し、脚兼背もたれとしてデザインしている。座面はドーム状に成型した、3mmの厚さのガラス板を使用。背もたれと座面は、透明度の高いUV接着剤とシリコンコーキング材を使って接着している。完全な透明だけでなく、フロスト塗装を施したものや、ディオールのブランドを想起させるブラックやグラデーション状のピンクのバリエーションも製作。いずれも背もたれが楕円形に切り抜かれていることで、メダリオンチェアの特徴が軽やかに空中に浮遊しているかのような表情が生まれている。

バリエーションには、ディオールのブランドを想起させるブラックやグラデーションのピンクも。

■SPREAD(フオーリサローネ[市内])

山田春奈と小林弘和によるクリエイティブユニットのSPREADは、デザインプラットフォーム・ALCOVAにて、エキシビション「Much Peace, Love and Joy by SPREAD」を開催。

今回のエキシビションでは「色は喜び」をテーマに、「Much Peace, Love and Joy」「Mesh Virus-Control Flag Partition」という2つの作品を発表した。会場は、ミラノのインガンニ地区にある19世紀の歴史的建造物と植物が生い茂る約4000m2におよぶ都市公園の跡地で、SPREADはその敷地内の最も広い650m2の草木の豊かな屋外スペースで展示を行った。

パンデミックの影響により2年ぶりの開催となったミラノデザインウィーク。現地に行けない方も多かったが、参加できるように新たにデジタルプラットフォームが開設されたのも特徴のひとつだ。デジタルプラットフォームでは、デザイン、家具、アート、建築などのテーマ別に、オリジナルのエディトリアル・コンテンツの提供や、各企業の歴史や製品情報なども紹介された。

また、ソーシャルアカウントにも力を入れており、TikTokアカウントでは19本の動画がアップロードされ、総再生回数は63万回を超えている。ほかにもInstagramやFacebook、Linkedin、Twitterなどあらゆるデジタルチャネルを駆使して会場のアクティブな声が伝え続けられた。

ミラノサローネのPRを担当する山本幸さんは今回の開催を振り返って、「今回のスーパーサローネは通常のミラノサローネより縮小された回であったものの、オフラインで開催できたことで、113カ国から6万人以上の来場者を集客することができました」と、話す。次回以降の開催に向けて新しい取り組みも予感させるイベントとなった。

■ミラノサローネ 新デジタルプラットフォーム(英語)
https://salonemilano.it/en
■ミラノサローネ 日本語公式サイト
https://www.milanosalone.com/

編集・文:石田織座(JDN)