町の歴史と魅力を表すキーワードがコンセプト、宮崎県高鍋町からスタートする「まんぷく TAKANABE」

町の歴史と魅力を表すキーワードがコンセプト、宮崎県高鍋町からスタートする「まんぷく TAKANABE」

試行錯誤と対話を重ねてつくられた
高鍋が育んだおいしいもの

2016年9月から事業者とデザイナーとで取り組んできた同プロジェクト。2017年1月に発表した高鍋デザインプロジェクト「まんぷく TAKANABE」の商品第一弾シリーズが完成、3月の高鍋町桜祭りと4月の宮崎市山形屋百貨店でのテスト販売を経て、4月27日新商品発表会が開催された。

新商品の開発にあたって事業者と取り組んだことや、デザインのポイントなどを各デザイナーにうかがった。

餃子の馬渡/たかなべギョーザ

餃子食べ比べセット(冷凍餃子12個入)

餃子食べ比べセット(冷凍餃子12個入)



デザイナーコメント/古川浩二さん(ストロールデザイン):
餃子の消費量全国3位といわれる宮崎の中でも、“餃子のまち”として名高い高鍋。宮崎の餃子界をリードしてきた「餃子の馬渡」と「たかなべギョーザ」の2店の冷凍餃子の外販用パッケージをデザインしました。いわばライバルでもある両者の餃子を1度に食べれたら……という思いで企画しました。外販用の冷凍餃子パッケージはデザインコンセプトを共通にしつつ、「たかなべギョーザ」から「餃子の馬渡」までの街並みをイラストで表現。箱を並べると街並みが完成し、セット購入でデザインが完結します。今後、ほかの餃子屋さんにも参加していただき、高鍋町の餃子マップを完成させたいです。

ながとも農家

キャベツの加工品(キャベツ粉、乾燥キャベツのパリポリ、キャベツかりんとう、キャベツのディップソース)とレシピ本

キャベツの加工品(キャベツ粉、乾燥キャベツのパリポリ、キャベツかりんとう、キャベツのディップソース)とレシピ本


デザイナーコメント/脇川祐輔さん・脇川彰記さん(はなうた活版堂):
以前から、パッケージデザインを担当させていただいていた、ながとも農家のキャベツ青果やキャベツの加工品を使ったレシピ本を作成しました。

メニュー選定から打ち合わせを重ね、「ながとも農家」のご家族と制作チームが強く団結して、料理の撮影を行いました。手軽につくれるレシピを掲載することで、「ながとも農家」のキャベツのファンが増えていけばという思いで作成しました。忙しいお母さんや、普段料理をしないお父さんでも簡単にできるものをご紹介しています。

また、要望のあった包装紙も作成しました。加工品ラベルにも使用している、キャベツと畑にでてくる動物をモチーフにしています。自然な雰囲気のながとも農家さんと同じように、ゆったりとしたイラストがポイントです。ディップソースの包み方なども提案しました。ギフトBOXを包んだり、これから様々な場面で活用していただきたいと思います。

ひょっとこ堂
おやたんこみる(マンゴー、日向夏、トマト、ブルーベリー、キャベツ 各50g)5個セット

おやたんこみる(マンゴー、日向夏、トマト、ブルーベリー、キャベツ 各50g)5個セット

デザイナーコメント/黒田シホさん:もともと県産素材を使った安心・安全な商品をつくっている企業なので、新商品の開発はスムーズでした。一緒にこだわったのは、できる限り余計なものは使わずに、シンプルな素材にすること。素材によって多少糖分を加えますが、その部分をきび糖や果汁のみで甘さを調整しました。

家族で一緒に(通年)楽しめて笑顔になるような商品が出来たら……との思いから、例えば親は炭酸、子どもはミルクで割って「親子で一緒に乾杯できる」県産・高鍋町産の野菜・果実シロップを考案しました。5つの商品パッケージは素材と家族のイラストに。商品ロゴは子どもが書いたものを、親が少し整えたようなテイストの手書きとしました。パッケージに使用の糸も、全体コンセプトのポイントとなった、石井十次ゆかりの糸を使用しています。

居酒屋べにはな
ステーキソース 昭和の秘伝、べにはなの辛味(各335ml)

ステーキソース 昭和の秘伝、べにはなの辛味(各335ml)

デザイナーコメント/黒田シホさん・脇川祐輔さん・脇川彰記さん(はなうた活版堂):打ち合わせを密に行い、どのようなイメージで作成をするのかを具体的に決め、お互いに共有をしながら進めることができました。こだわりの秘伝のタレと辛味を強調したタレのイメージで方向性の違う2種類のソースでしたが、共通の背景(色違い)を用いることで統一感を持たせました。

株式会社ヤミー・フードラボ
贈答用珍味

贈答用珍味

デザイナーコメント/古川浩二さん:ヤミーフードラボのブランド名である「海と太陽」がコンセプトになっています。高鍋城は通称「舞鶴城」と呼ばれ、高鍋の海岸はアカウミガメの産卵地として有名です。おめでたい鶴と亀のアイコンにはそんな高鍋らしさが盛り込まれています。

河野製茶
コフンノミドリ特上深蒸し煎茶(100g)、コフンノミドリ上深蒸し煎茶(100g)、コフンノミドリ緑茶ティーバッグ(5g×20個)、コフンノミドリ緑茶パウダー(1g×20本)

コフンノミドリ特上深蒸し煎茶(100g)、コフンノミドリ上深蒸し煎茶(100g)、コフンノミドリ緑茶ティーバッグ(5g×20個)、コフンノミドリ緑茶パウダー(1g×20本)

デザイナーコメント/平野由記さん・後藤修さん:お茶の栽培と製茶を生業とし、茶葉の卸を中心にされている河野製茶さん。「茶畑の真ん中に古墳があるというユニークな立地」と「温暖な宮崎・高鍋での栽培に適した品種が水だしに最適なお茶である」ということ、それらを核に据えてブランドの構築に取り組みました。

まずはお茶のネーミングからスタートし、ユニークな立地から「コフンノミドリ」というブランドを立ち上げることにしました。ストーリーを語るパッケージデザインづくり、生活シーンに合わせたお茶の楽しみ方も提案しています。古墳は古代の位の高い人々が眠る場所なので環境が良く、また温暖な気候に適した早生の品種は、水出しにしても色も味も濃いというお茶です。手軽に、色々なシーンでお茶に親しんでもらいたいという河野製茶さんの願いで、煎茶、ティーバッグ、パウダータイプのお茶を用意しました。タイプの違いをスリーブの模様でも表現し、楽しく選べる商品に仕上げています。

有限会社 藤原牧場/やまんうえ
宮崎ハーブ牛すじ煮(300g)、宮崎ハーブ牛もろみ漬けサイコロステーキ

宮崎ハーブ牛すじ煮(300g)、宮崎ハーブ牛もろみ漬けサイコロステーキ

デザイナーコメント/古川浩二さん:外販用の冷凍パッケージの提案。口蹄疫発生後、自分達の育てた牛を自分達の手で安全に届けたい、との思いで6次産業化した藤原牧場。今後も幅広く商品展開できるよう、デザインは極力シンプルに、クリーンなイメージでつくりました。FUJIWARA FARMの頭文字のアイコンとロゴは手描きでクールになりすぎないように心がけました。

「高鍋デザインプロジェクト」が目指すもの

最後に、「まんぷくTAKANBE」デザインディレクター小野信介さんに、高鍋町の魅力とポテンシャル、プロジェクトの今後について語ってもらった。

小野信介さん(以下、小野):高鍋町は海も高台もあって、城下町の歴史もあり、農業と商業、製造業もコンパクトにまとまっている素敵な町ですが、それだけに町の魅力をシンプルに伝えるブランドイメージが確立されていなかったように思います。

今回のプロジェクトで、まず初めにデザインチームが取り組んだことは、町のブランドコンセプトを発掘することでした。プロジェクトに参加していただいた事業者さんをはじめ、多くの人と話しながら、フィールドワークを進めていく中で全員が一致して感じていたことは「高鍋の人たちの身近な人に対する思いやり」でした。そして、その漠然とした町の魅力を端的に表すキーワードもまた高鍋の中にありました。孤児の父、石井十次の「満腹主義」がそれです。

「高鍋の事業者さんたちが作る農産物や加工品はすべて、それを手に取る人への思いやりが込められているんだ」。そう気づいた時に、僕たちができることは自ずと決まってきたように思いました。商品をパッケージデザインで飾るのではなく、思いやりの心を伝えられるような商品づくりのアイデアを出し、その背景にある生産者の思いや物語をデザインの力で伝えていくこと。デザイナーと生産者がひとつになって楽しみながらブランドをつくっていくこと、使い古された言葉ではあるけれど「思いやり」にあふれた高鍋ブランドが町の代名詞になることを目指しています。

今後の展開

小野:3月に小さな町のアットホームなイベントで「まんぷくTAKANABE」はプレデビューしました。デザイナーと事業者、その家族で一緒につくった手作り屋台に並べられた商品たちに一同、少々感動。地元の方たちが代わる代わる屋台を訪れては商品やデザインについて話をしたり、買い物をしてくださいました。

まずは「地元の人たちに受け入れてもらえた」という安心感を得ることができました。そして何より、関わるデザイナーや事業者さん、役場の方々との共同作業で得た一体感がこれからの大きな力になるだろうと確信しました。

そして、4月にブランドイメージの発信を目的とするイベントを開催します。プロジェクトで生まれた商品やスペシャルメニューのふるまい、ワークショップなどを企画しています。今後はさまざまな機会を通して全国に「まんぷくTAKANABE」をPRして行こうと思っています。

プロジェクト2年目となる今年度は、新たな商品開発を進めるとともに、高鍋の既存の商品や農水産物、場合によっては形を持たないサービスや仕組みも「まんぷくTAKANABE」の中に取り込んでいけるのではないか?ということも模索しながらブランドづくりを進めていこうと考えています。「まんぷくTAKANABE=高鍋町の魅力」として全国に知ってもらえることを目標にしたいと思います。

宮崎県で最も小さな町から生まれた、「思いやり」の詰まったプロジェクト。ぜひ、注目して欲しい。

構成・文:瀬尾陽(JDN編集部)

まんぷく TAKNABE
http://manpuku-takanabe.net/