町の歴史と魅力を表すキーワードがコンセプト、宮崎県高鍋町からスタートする「まんぷく TAKANABE」

町の歴史と魅力を表すキーワードがコンセプト、宮崎県高鍋町からスタートする「まんぷく TAKANABE」

地方自治体・事業者・県内デザイナー・信用金庫が連携した、「地方創生地域づくりデザインプロジェクト」の第2弾プロジェクト、「高鍋デザインプロジェクト」が宮崎県高鍋町で2017年1月に始動した。

いま、日本の(いわゆる)地方においては、地域資源を活用した独自の商品やサービスをつくることや、地域の魅力を外に向けて発信すること、観光で訪れてもらうこと、そして働きやすい環境づくりなどが目下の課題となっている。これらを一挙に解決する方法はもちろんないのだが、こういった問題と向き合っていくことを考えるときに、改めてデザインの必要性を感じさせられることが増えている。「高鍋デザインプロジェクト」も、そうした“時代の要請”のようなものが顕在化した取り組みといえる。

同プロジェクトのバックアップ体制として、高鍋信用金庫と「グッドデザイン賞」を主催する日本デザイン振興会が協働し、高鍋町の魅力発信と地域のビジネス活性を図っていく。実施にあたっては、信用金庫のセントラルバンクである信金中央金庫と、宮崎県内企業の産業支援をおこなう宮崎県工業技術センターの協力で、ビジネス面とデザイン面で新規事業創出をサポートする。

ブランドコンセプトは「まんぷく TAKANABE」

平野由紀さんによるデザインのブランドロゴマークは1月に先行して発表された

平野由紀さんによるデザインのブランドロゴマークは1月に先行して発表された

「高鍋デザインプロジェクト」のブランドコンセプトは「まんぷく TAKANABE」。このキャッチーで親しみやすいロゴは、今後さまざまな広報物に展開されていく。

ここで改めて高鍋町はどんな場所なのか、少し補足しておきたい。宮崎県の中ほどに位置する町。「箱庭のまち」とも呼ばれる、県内で最も小さい面積の町は、人口およそ2万人、海と山の恵みを受けて農業と商業が盛んだ。

「箱庭のまち」とも呼ばれ、コンパクトに楽しい魅力が詰まった高鍋町

「箱庭のまち」とも呼ばれ、コンパクトに楽しい魅力が詰まった高鍋町


一面のキャベツ畑。夏にはひまわり畑になる

一面のキャベツ畑。夏にはひまわり畑になる

また、古くは奈良時代に城が築かれ、江戸時代には秋月家3万石の城下町として栄えた。高鍋藩主の秋月種茂公により設立された藩校「明倫堂」からは多数の人材が輩出されたことから、「歴史と文教の町」と呼ばれている。

「まんぷく TAKANABE」プロジェクトのストーリーを語る上でキーになるのが、この「明倫堂」学んだひとりである石井十次(いしいじゅうじ)だ。石井十次は高鍋で生まれ育ち、明治時代に日本で最初に孤児院を創設した「児童福祉の父」と呼ばれる人物で、彼の教えのひとつに「満腹主義」というものがある。貧しいなかでもなんとか工面し、子どもたちにお腹いっぱいごはんを食べさせたことで、子どもたちの精神は安定し、素行が改まっていったそうだ。愛情を持って心を満たす「まんぷく」 の教えは、いまも高鍋に息づいている。

町の魅力を伝えるため、歴史やアイデンティティに立ちかえる

地方の資源の魅力をあぶりだして再編集する際に重要なのは、いわゆる“モノ”そのものではなく、それが生まれた理由や、その周辺にあるストーリーを丁寧に紡いでいくこと。地域の魅力が伝わってくる、近年のいくつかのプロジェクトを見ていると、そここそがデザイナーが腐心すべきポイントのように感じる。ただパッケージや仕様を変えるだけでは、それに関わる人たちの“意識”そのものまでは変わらないからだ。単にモノを売るではない、“新しい価値”をみんなで創出することが町民の誇りとなっていく。

今回、高鍋町内の参加事業者は以下の9社。

・河野製茶工場(茶葉の製造・販売)
・株式会社餃子の馬渡(餃子の製造・販売)
・有限会社たかなべギョーザ(餃子の製造・販売)
・ながとも農家(農業)
・(有)長谷川修身商店(和菓子の製造販売)
・株式会社ひょっとこ堂(ゼリー、ジュース等の製造・販売)
・有限会社藤原牧場(畜産・加工・販売)
・べにはな(飲食店)
・株式会社ヤミー・フードラボ(食品加工卸)

対して、宮崎県内のデザイナーによるクリエイティブチームは以下の7名(6社)。

・小野信介(オノコボデザイン)
・黒田シホ(クッキーデザインワーク)
・後藤修(バッファローグラフィックス)
・平野由記(デザインウフラボ)
・古川浩二(ストロールデザイン)
・脇川祐輔・脇川彰記(はなうた活版堂)

2017年1月16日に高鍋町役場で行われた実施発表会では、事業者を代表して谷口竜一さん(株式会社ヤミーフードラボ)から、今回のプロジェクトについて意気込みを以下のように語った。

谷口竜一さん(株式会社ヤミーフードラボ)

谷口竜一さん(株式会社ヤミーフードラボ)

「これはチャンスだと思っている。高鍋町には良い資源があるが、まだまだ発信できていない。二度三度リピートしてもらうために、SNSなどを使い、売って終わりにしない取り組みが必要。“おいしい体験”ではデザインが重要だと考えている。指名買いしてもらえるような、シンボリックなデザインをつくっていってほしい」

また、高鍋デザインプロジェクト・デザインディレクターである、小野信介さん(オノコボデザイン)からは、本プロジェクトにおいてデザイナーが求められることを以下のよう語っている。

小野信介さん(オノコボデザイン)

小野信介さん(オノコボデザイン)

「カタチをつくるのがデザインではなく、モノとコトの本質を見極わめて表に出していく……本質をあぶり出していく作業ができる、そういうデザイナーが注目される機会が増えていると感じる。今回は売り方の仕組みから考えないといけない、とはいうもののそんなにかんたんではない。クリエイティブの力で打破できるように腰を据えてがんばっていきたい」

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