デザイン業界に新しい潮流を生み出した「alter. 2025, Tokyo」を振り返る

デザイン業界に新しい潮流を生み出した「alter. 2025, Tokyo」を振り返る

2025年に東京・日本橋で、プロダクトデザインを中心とする展示「alter. 2025, Tokyo」が初開催された。同イベントは、2024年に2年ぶりに復活した、「DESIGNTIDE TOKYO」のファウンダーのひとりだった武田悠太さんが中心となって立ち上げたイベントだ。

11月7日から3日間の会期で、展示のほかにトークセッションやマーケットも開催。会場では11組のプロジェクト、59名のクリエイターが出展。出展者は35歳以下のデザイナーが中心で、1組3〜9人ほど、デザイナー以外のメンバーも含まれた。出展者の選定を担ったのは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のキュレーターをはじめ、世界で活躍する5組のコミッティメンバー。コミッティメンバーそれぞれが選出するalter awardも発表された。

コミッティーメンバーは写真左から、デザインスタジオ Formafantasma、DAIKEI MILLS代表の中村圭佑、say hi to_ 主宰のKristen de La Vallière、パリ・ポンピドゥセンター キュレーターのOlivier Zeitoun、MoMAキュレーターのTanja Hwangの5組(写真提供:alter. 2025, Tokyo)

出展者が出展料を支払う方式ではなく、面積に応じて事務局から最大300万円を支給するというのが大きな特徴であり、デザイン業界に一石を投じるオルタナティブな作品が集まった。

packing list

会場の手前の広い場所には、不織布の縄で巻かれた椅子や照明のかたちをしたオブジェが並んだ。これらを手がけたのは、デザインコレクティブのMULTISTANDARD。

「packing list」と題したこの展示は、作品を輸送する際に必要となる「梱包」に焦点を当てたもの。日本からヨーロッパなどに送る際に、より厳重な梱包が必要になるだけでなく、費用や時間といった労力もかかる昨今。

たとえば、ミラノ・サローネのサテリテに出展する若手デザイナーたちは輸送コストや紛失のリスクを恐れ、機内持ち込み手荷物で運び組み立てられるサイズの作品を展示することはよく知られた話だ。このように輸送によって表現そのものが制限されてしまうことは珍しくない。

今回は庵治石を縄で縛り運んだ経験から、椅子や照明などを不織布のロープで縛って作品とした。実際にこのまま運ぶことが可能だという。輸送システム自体のあり方も想起させる展示となった。

ALL CLAMP【Kristen de La Vallière、Forma FantasmaがAwardに選出】

空間デザイナーや写真家、彫刻家などによる「ALL CLAMP」は、会場のいちばん手前、目立つ場所に展示され注目を集めていた。一見すると既製品を使っているようにも見えるが、「Bent Pipe Clamp」と呼ばれる接合部を独自に制作している。素材に穴を空けたり接着をして傷つけることなく、「挟む」という最少限の加工で、椅子やパーティション、ソファなどをつくりあげた。

瞬時につくり上げ、解体できるのが利点であり、これはメンバーのなかにフォトグラファーがおり、日々展示会場の搬器を制作したり、撮影現場でセットを組むことが多い経験から生まれた。伝統的な日本の木工技術である継ぎ手の技法や、サステナビリティにも通ずることが、Kristen de La Vallière、Forma Fantasmaに評価された。

Doji Fetish Performance

デザインスタジオのDODIの杉野龍起が制作した家具を中心に、アーティスト4名と共同しインタラクティブな作品を展示した、Doji Fetish Performance。

360度どこからでも座れる黒いソファ。座ると、ソファから押し返されるような不思議な感触を感じる。これは、座面の内部に液体ウレタンが入っており、隣に座った人の座面が沈み込んだ分、自分に跳ね返ってくるためだ。

写真提供:alter. 2025, Tokyo

スマートフォンの画面に慣れすぎた現代人が忘れつつある「アナログな身体の感覚」や、他者の気配が残る不快さやぬくもりを、家具を通して再認識させるというインスタレーション。家具が人間の身体と近しい関係にあることを思い出させるような不思議な体験は、来場者に驚きと楽しみをもたらしていた。

HAMA Reimagined【Tanja Hwang、Olivier ZeitounがAwardに選出】

テキスタイルデザイナー、有田の陶芸家、木工デザイナー、地域文化プロデューサー、プロダクトデザイナーの5名が参加し、発表した「HAMA Reimagined」。

有田焼の制作で使用される「ハマ」と呼ばれる白い円形の陶器は、器を焼く際に支えるための台座として、一度きりで廃棄されてしまうという。有田焼以外にも、焼き物をつくる際には、こういった台座を制作しているそうだ。「HAMA Reimagined」はそんな「ハマ」を新たなプロダクトにつくり変える試みだ。

ハマを紙紐で編む、積み重ねる、切り欠きをつくり立体物にするなど、さまざまな手法を試したオブジェが並ぶ。これらは、見る人に形や質感といった、「ハマ」がもつ役割以前のモノの魅力を再認識させる。陰で支える「ハマ」のポテンシャルを掘り起こし、新たな価値を与え、ローカルな伝統を世界や未来へと接続させる可能性がTanja Hwang、Olivier Zeitounに評価された。

Live Phenomenon

福井を拠点に地域文化や素材を基点に活動するデザイナー集団「閃(SEN)」と、京都を拠点に多様なバックグラウンドのクリエイターが集う「SIBO」による共同プロジェクト「Live Phenomenon」。

今回参加した9人のデザイナーたちは、それぞれが暮らす土地や暮らしからインスピレーションを得た椅子を制作。強化プラスチックの上に越前和紙を貼り付けた椅子や、伝統的な瓦を使ったものなど、さまざまなバリエーションがそろった。椅子は身体との関係も深く、日常に欠かせないプロダクトである。その土地の風土をクリエイターの視点から解釈し落とし込まれた椅子はどれもユニークだった。

京都や福井など東京以外の地域で活躍するクリエイターに注目が集まるなか、その活動が国内のみならず世界へと広がっていく強さを感じる展示だった。

POETIC PROTOTYPING -Forms of Invisibility-

デザインスタジオPOETIC CURIOSITYと、編集者とグラフィックデザイナーなどによる展示「POETIC PROTOTYPING -Forms of Invisibility-」。

2021年から毎年「詩的好奇心」をテーマとした個展を開催しており、今回もその延長で生まれたという。時間や記憶、匂いなど目に見えない現象を扱うプロダクトやインスタレーションを制作している。

今回の展示では、ため息や吐息をシャボン玉に変換する装置、一見すると見えない透過度の高いメッシュ素材でつくられたブラインド、東京香堂とのコラボレーションによって生まれた、枝の形状をしたお香などが並んだ。

Product and Space

アーティストの玉山拓郎とデザイナー/アートディレクターの河野未彩が中心となり制作された「Product and Space」。黄色いカーペット上に、円盤状の照明がぐるりと数珠つなぎになって設置されている。

アクリルでできた照明はユニットになっており、それを連結して楕円形の空間がつくられている。この空間で、ダンサーのアオイヤマダによるパフォーマンスもおこなわれた。プロダクトと空間、オブジェと光のあいだに立ち上がる「光の構造体」に身体表現も加わり、ジャンルを横断して生まれた、まさにalter.の目指すオルタナティブな作品となった。

OMOIYARI PROJECT

空間デザイナー、医療機器メーカーのプロダクトデザイナー、工業デザイナーの3名による「OMOIYARI PROJECT」。彼らは普段、医療機器や日用品、展示空間など、実用性の高い道具や環境の設計に携わっているという。

写真提供:alter. 2025, Tokyo

今回は血管治療に用いられる「ステント」という医療機器にフォーカス。「ステント」の精密な構造美に着目し、照明へとつくり変えた。円形ステージ上に草花が群生するようなインスタレーションからは、儚さと美しさも感じられる。人間の命を救う医療機器という役割からうまれたプロダクトの、新たな側面を提示していた。

Voidbark

Voidbarkは静岡を中心に活動するデザイナーたちによるプロジェクト。建築・家具材の流通を手がける「亀山製材所」では、製材の過程で廃棄またはチップにされる樹皮が約50トンを超えるという。今回は、この廃棄される予定の製材用の樹皮を使ってプロダクトへと昇華させた。

写真提供:alter. 2025, Tokyo

製材用の樹皮は一般的な木々の樹皮よりも分厚く、強度がある。これらを積層させ圧着させたり、樹皮のテクスチャをデジタルデータとして取り込み、その形状にあわせて精密な加工を施したり、あえて木材の内部を空洞にするなど、樹皮のあらたな可能性を探った作品が並んだ。

Unseen Objects【中村圭佑がAwardに選出】

リサーチと実験をベースに、新たな視点や価値を形にするデザインスタジオwe+。今回は2025年4月にミラノデザインウィークなどで発表してきたプロダクト「Unseen Objects」の新作を発表した。

この作品は富山県高岡市にある創業120年の老舗鋳造メーカー、平和合金との協業で生まれプロジェクト。鋳造の製造過程で生じるものに着目しており、鋳物の空洞をつくるための中子(なかご)やゴム型、端材といった、本来は「見えない(Unseen)」存在をプロダクトへと昇華させている。今回は発泡スチロールの端材をアルミで鋳造した椅子なども並んだ。

既存の枠組みを越境する作品が並ぶalter.のなかでも、we+のアプローチは、その「越境」のバランス感が絶妙であり、ものづくりの柔軟性を強くシンプルに表現していたとDAIKEI MILLSの中村圭佑は評価した。

Bent Pipe Clamp

写真家、キュレーター、彫刻家によるプロジェクト。テーブルの上には独自につくられたパイプクランプが並び、それぞれのクランプには石材や木製の球体などが挟まっている。テーブルが鏡張りになっているため、遠くから見ると鏡のなかからひとつのオブジェが立ち上がっているようにも見える。

写真家の「対象をイメージとして解釈する」アプローチと、彫刻家の「質感や重量を触覚的に捉える」視点を融合させ、日常的なパイプクランプを再解釈している。使い道はユーザーの手に委ねられており、ものを固定するという日常生活の中にある「ものとの距離感」をわずかにずらし、新たな風景を生み出していた。

会場入口には、デザインプラットフォーム「say hi to_」を主宰するキュレーター、Kristen de La Vallièreによるキュレーションエリアも設けられた。ここでは、alterで出展者を選考するなかで女性が少なかったことから、ジェンダーバランスの偏りに着目。既存の枠組みに入りにくい作家や、オルタナティブに実践するデザイナーの作品を展示した。

約3,500人を動員するほどの反響があった「alter. 2025, Tokyo」。単なる新製品の展示ではない、素材や技法の実験とも言えるインスタレーションは見る人に驚きをもたらし、デザインのジャンルを広げた。来年も継続し開催され、DESIGNART、DESIGNTIDEと並ぶイベントへと成長することを願う。

写真提供:alter. 2025, Tokyo

■alter. 2025, Tokyo
https://altertokyo.com/

取材・文:井上倫子 編集:石田織座(JDN)