簡素な椅子

柔と剛を併せ持つ、日本の椅子

板金加工を中心に、鉄工を得意とする山口製作所。2013年から自社製品の開発を始め、これまでにブックエンドやカードケースなど鉄の日用品を多くつくってきた。今回、新たに生まれたのは、鉄と籐でつくられた素朴で簡素な椅子。起点としては、おそば屋さんやうどん屋さんなど、お食事処でよく見られる角ばった椅子に着想を得たという。

鉄のように丈夫な素材を扱う際、可能な限り細く、あるいは薄い形状にしているものが多くある。「簡素な椅子」はただ安易に細くするのではなく、華奢には見えない、視覚的安心感のある心地の良い厚みが与えられている。

また、座面と背もたれには一本一本職人が贅沢に籐張りを施している。鉄の枠が湾曲しているため、結果として座り心地のよい美しい曲面を持つ座面が生まれた。「簡素な椅子」は、鉄の力強さと籐のしなやかさ、柔と剛を併せ持つ日本の椅子だ。

企画・意匠・設計を担当した戸田光祐さんは、「日本の椅子を生み出したいと考えていた中で、お食事処で見かける角ばった小さな椅子は、西洋の椅子を日本の道具として解釈した日本の椅子の潮流のように感じ、繋いでいくべき日本の形だと据えて再解釈しました。製作については、部材を切り出す工程は工業的ですが、溶接や塗装は完全な手作業であり、籐を張る工程にいたっては民藝や工芸を連想させます。『簡素な椅子』に分野を定めるなら“工民芸”とでも表現したい。機械加工が良い、手仕事が良いではなく、機械加工の良さや手仕事の良さを選択しながら、良きものづくり、良き製品を生み出していきたい」と、今作について語った。

ブランド:有限会社山口製作所

埼玉県吉川市、小松川工業団地の一角に工場を構える、金属加工を得意とする鉄工所。町工場と呼ぶに相応しく、近隣には住宅街があり田園風景も残る町で製作をしている。2013年に創業15年、設立10年という節目の年を迎え、自社製品の開発を始めた。これまでに培ってきた技術や知識を礎に、良き製品づくりに取り組んでいる。製品については、板金加工から溶接、塗装と、設計から製作まで一貫して自社工場で生産を行い、近年では協力工場との連携により異素材を組み合わせた製品も手掛けている。製品開発に関しては人と暮らしを中心に据え、生活の背景に溶け込むような存在感や、素材の特性を活かすことを心掛けている。

デザイン:戸田光祐

沼津工業高等学校、東京工芸大学卒業。有限会社山口製作所にて企画や設計などに携わっている。2016年に飛騨木工連合会 飛騨の家具アワード優秀賞、2015年、2013年には公益財団法人日本デザイン振興会 グッドデザイン賞など受賞多数。

簡素な椅子

サイズ W430×D415×H720mm
素材 鉄、籐
仕上 紛体焼付塗装
黒、素材色
価格(税抜) 90,000円