クリエイターの仕事場:唯一無二の構図と色彩で見る人の心をつかむ。イラストレーター・一乗ひかる(2)

クリエイターの仕事場:唯一無二の構図と色彩で見る人の心をつかむ。イラストレーター・一乗ひかる(2)

紙とお気に入りのペンがアイデアの引き出しを広げる

――普段使用されているパソコンまわりのツールを教えてください。

最低限ですが、パソコンはMacBookを使っていて、あとはマウス、ラフ用にiPad、ソフトはIllustratorとPhotoshopですね。パソコンはデスクトップもありますが、いろいろな場所で仕事をすることが多いので基本的にはMacBookが多いです。iPadはラフでしか使わないので、宝の持ち腐れです(笑)。

でも最近は、ラフもiPadで描くより紙にペンで手描きのほうがいい構図を思いついたりアイデアが広がるような気がしています。iPadは便利なのですが、失敗するとすぐに消せてしまうんですよね。紙とペンだと全部残っていくので、そこがいいなと最近は思えています。過去の描きかけのラフを見直すと、今ならうまくできそうな構図やアイデアも転がっていたりするので。

――手描きもされるということで、ラフを描く際に気に入っているペンなどはありますか?

ぺんてるの万年筆っぽいペンを使っています。太さが可変するところが気に入っていてとても使いやすく、箱買いしたこともあります。

――コロナ禍で作業環境の変化などはありましたか?

作業環境というよりは、飲みに行くことが減ったので健康になりました(笑)。コロナ禍になって健康にも気を使うようにはなりましたが、自宅で仕事している日は歩数の計測が100歩と出たりするので、運動不足を痛感します。

色彩の表現を大切に、多様な人物像を描く

――お仕事をする上で一貫していることや、質感・色彩へのこだわりなど、大切にしていることを教えてください。

最近大切にしていることは、肌の色や髪型、髪色、体型と、できるだけいろいろな人を偏りなく描きたいということです。少し前までは肌を褐色で表現するとクライアントワークで通りにくかったりしましたが、今は時代の流れ的にもチャレンジしやすい環境だと思うので、どんどんやってみようと思っています。

自主制作作品

海外のルックなどを見ていると、結構多様なモデルさんを起用していていいですよね。それに、この背景色にはこの肌の色が合う、といった相性は必ずあると思うので、そういった意味でもいろいろな人を幅広く描きたいですね。

――色合いを大切にされている感じは作品から伝わってきます。

私の作品はテクスチャー感が強い分、複雑にするとよくわからなくなってしまうので、色のコントラストをはっきりさせることで、何を描いているのか一目でわかるようにしたいと思っているんです。だから毎回色彩にはこだわって、時間をかけてじっくり考えていますね。

――色についてインスパイアされるものが何かあるんでしょうか?

以前から浮世絵が好きだったので、自然とそういう色味は意識しているかもしれません。限られた色のなかでできる表現をしていく、みたいなことが自分は結構好きだなと感じます。

――作品へのインスピレーションなどは、どんなところから得ていますか?

いろんなブランドのルックを見るのもそうですし、散歩もいい気分転換になっているかもしれません。めちゃくちゃ歩くということを定期的にやっていて、先日は家からスカイツリーまで往復歩き通しました(笑)。渋谷や赤坂、墨田区の方など、歩いていくと街がグラデーションのように変わっていくのがおもしろいんです。近所だとあまり見かけないような看板や不思議なお店、個性的な人などを見かけることで、インスピレーションというか、刺激はもらっていますね。

私は平日に歩くことが多いんですが、丸の内などのオフィス街に行くと、たくさんの方がランチしている光景を見るだけでも新鮮です。ほかにも歩いているとすでに潰れてしまったお店の看板などもたくさん見かけますが、昔の名残がわかって興味深いです。

――スカイツリーはかなりの距離ですよね。びっくりしました(笑)。

家からだとスカイツリーは片道3時間、往復6時間かかりました(笑)。普段、有酸素運動をあまりしない生活をしているので、月に1回はガッツリ歩いています。その時間はパソコンも開けないですし必然的に仕事とは離れるので、自分にとっていろいろリセットできるいい時間になっています。

流行に左右されないものづくりで作品への可能性をより広げたい

――作品をつくる上で、ご自身が思う「自分らしさ」はどんなところにあると思いますか?

顔を描かないようにはしているというのはひとつの特徴かなと思います。表情を描くと、見る方もどうしても、かわいいとかかわいくないという部分にとらわれてしまう気がするんですよね。あと、顔って何に影響を受けたとか何が好きとか、その時代の流行が出てしまう気がするんです。それらを出したくないこともあって、自分の作品は表情はなしでいこうと決めています。

自主制作作品

――それは最初からですか?

大学の課題で作品をつくっていたときは、あったかもしれません。でも、顔はそれほど大切な要素ではないと当時から考えていました。今のテイストになってからは、もう確実になかったですね。

――では、今後一乗さんが挑戦してみたいことはありますか?

次の個展は陶器をメインに東京で開催するのですが、できれば九州や四国、海外も含めて、ほかの土地でも個展をやってみたいという思いがあります。東京に住んでいるとどうしても東京が中心になってしまうので、それは一つの目標ですね。

一乗さんが手がけた陶芸作品

ずっと平面的なことばかり手がけてきたのですが、もともと粘土などの立体制作も好きだったこともあり、気分転換に陶芸をはじめてみたんです。最近はほぼ仕事みたいになっていますが(笑)、粘土を触る感覚がとても好きなんです。

あともう一つ目標があって、これまでは自分のアトリエがなかったので、藝大の工房や知り合いのアトリエを借りてシルクスクリーンの作品をつくっていました。でも、最近自宅とは別の場所にアトリエを確保して、自分で刷れる環境を着々と整えているところです。これまでは、時間に限りもあって実験的なことがなかなかできませんでしたが、シルクスクリーンでもっと実験的な表現を模索したいと考えているので、表現の可能性を広げることにも挑戦してみたいと思っています。

一乗ひかるさん ホームページ
https://hikaruichijo.com/
一乗ひかるさん Instagram
https://www.instagram.com/ichijo_hikaru_/

文:開洋美 写真:高比良美樹 取材・編集:石田織座(JDN)