「東京の伝統工芸品」と言われたら、何が思い浮かびますか? ついほかの都道府県の工芸品がフィーチャーされがちですが、江戸切子や東京染小紋、江戸指物など東京都の伝統工芸品として指定されているものは41品目もあるんです。
そんな東京の伝統工芸品の繊細な技術とデザイナーが協働することで、暮らしをうるおし豊かにするための新しい「東京の伝統工芸品」を生み出し、手仕事の魅力を国内外へ発信する『東京手仕事』プロジェクト(以下、東京手仕事)。2015年から公益財団法人東京都中小企業振興公社が主催し、職人とデザイナーのマッチングから商品開発中のアドバイス、試作品製作の費用支援などを行い、実際に商品として完成するまでをサポートしています。
昨年開催された東京手仕事の商品発表会で、手がけた2つの商品「ゆらぎ盆栽」「東京本染 てぬぐいおくるみ」が賞を受賞した、デザインユニット「MARLC(マアルク)」の平田ことこさんと竹本真実さん。お二人が参加された理由や商品開発秘話、実際にチャレンジしてみて感じたことなど、お話を伺いました。
新しいものづくりにチャレンジするきっかけに
――まずは、お二人の出会いやユニット名の由来から教えてください。
平田ことこさん(以下、平田):私たちはもともと美術大学時代の同級生なんです。卒業後はそれぞれデザイン会社へ就職しました。私がフリーランスになるタイミングと、「一緒に何かやりたいね」というタイミングが重なり、ユニット名は私のフリーランスの名前を兼ねた「MARLC」になりました。“物事を丸く整える”という意味を込めたユニット名です。
竹本真実さん(以下、竹本):私はいまも会社に所属しながら、会社の仕事以外のお仕事はこのユニット名でやっています。MARLCは、おもに広告やパッケージなどグラフィックデザインのお仕事を中心に手がけています。
――なぜ、『東京手仕事』に応募されたんですか? きっかけなどはあったのでしょうか?
平田:私が一人で参加したのが最初です。知り合いのデザイナーさんが参加していることもあったのですが、開発していくというプロセスを持ったプロジェクトってコンペでは少ないですし、プロダクトデザインに関わるきっかけとしていいなと思いました。2回目は竹本とユニットで参加しました。
竹本:私は平田にこういうプロジェクトがあると聞き、一緒にやりたいと思って後追いした感じです。普段の仕事では職人さんと知り合う機会も少ないのですごく興味もありました。
東京手仕事の参加資格は《商品開発などに関し、デザインを業務とする事業者(直近5年以内に商品開発の実績があること)》であればOK。実際に応募したあとは以下のような流れになります。
東京手仕事プロジェクトの流れ
①企画デザイン案募集
②一次選考:企画デザイン案の一次選考
③製作者(職人)とのマッチング:デザイナーは企画デザイン案を説明し、製作者は技術や材料の特徴などを踏まえて企画デザイン案を商品化するための意見を伝える
④企画デザイン案再提出:マッチング後に開発チームを組み、一次選考での評価をもとに企画デザイン案をブラッシュアップして再提出
⑤二次選考:再提出された企画デザイン案を選考し、商品開発を行う企画デザイン案(20案程度)を採択
⑥商品開発(約6か月間):2か月を1クールとし、全3クールで構成。1クールごとに試作を繰り返しながら製品をブラッシュアップし、完成品を目指す
⑦最終選考:完成品の評価を行い、10商品程度を支援商品として採択
⑧商品発表会:採択された支援商品の発表、各賞の表彰
――職人さんとのマッチングは、どのような内容なのでしょうか?
平田:マッチング会では職人さん一人につき15分間話す時間を与えられ、その中でプレゼンをします。短い時間の中で、私たちの作品を見せるだけではイメージが伝わりづらいので、いくつかアイデア案を持っていって、こういうことができるんじゃないですか?と提案する形で参加しました。その後、デザイナーと職人さんお互いの希望が一致したらチームを組み、デザイン案を提出するという流れです。
竹本:1人の職人さんに対して、最低5案は持っていったと思います。職人さんとは感覚的な部分も完全に一致してから商品を作り始められたわけではないので、徐々にお互いのイメージを擦り合わせていきました。
フォルムとバランスにこだわった「ゆらぎ盆栽」
MARLCが手がけた商品のひとつ、「ゆらぎ盆栽」は、形のバランスと濃淡が美しい緑がふわふわと揺れる、盆栽を模したモビール。人形用の造花を手がける有限会社岡半とチームを組んでつくったもので、葉や花はひな人形を彩る造花の技術で表現されています。2018年の商品発表会では、最高賞である東京都知事賞を受賞しました。
竹本:ゆらぎ盆栽は、節句人形の造花を手がける造花師の方とのコラボレーションで完成しました。見る角度によって異なる趣を鑑賞できる盆栽のように、風に揺らぎながら刻一刻と変化するモビールの表情を楽しむことができます。和の空間にも洋の空間にも合うし、盆栽の色のバランスも美しい仕上がりになりました。松のほかに、藤と椿のバージョンもあり、季節ごとに飾って楽しんでもらいたいと思っています。
――造花をモビールに生かすというアイデアは、最初から決まっていたんでしょうか?
竹本:マッチングの際にモビールに生かすのは面白いと職人さんからも言われたので、そこから形をどんどんブラッシュアップしていきました。はじめは「用途のないモビールだけで商品になるのか?」と職人さんが不安に思われていたこともあり、アロマディフューザーの機能もあったのですが、最終的にはシンプルにモビールのみの機能になりました。
造花は、布や紙、ワイヤーなどを使用して1点ずつ手作業で制作しています。伝統的な技術を駆使して、モビールになった時にそれぞれの葉や花が美しく見えるよう造形を整えました。重さの問題もあるので、サイズや盆栽の長さを揃えてもらったりと職人さんには細かい部分まで丁寧に調整していただきました。
平田:フォルムのデザインは私たちが考え、何度も試作を繰り返しました。最初はパイプを曲げたような形で単純に回転するくらいのモビールを考えていたのですが、重くて揺らがないとアドバイザーの方に指摘されて…。職人さんが出せる初期コストを考えると、フォルムの部分を外注することも現実的ではないので、試行錯誤して今の形に行き着きました。
竹本:造花やワイヤーを固定する接着部分には、箔押しした紙を使用しています。最初はチューブみたいなものに造花を刺す予定だったけど、軽量化を追求したときに紙で挟むことを思いついたんです。ここはグラフィックデザイナーである私たちの得意な領域にも寄せてみました。内側にエンボス加工で細い溝をつくり、そこに造花の芯が差し込めるようになっています。
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