あたらしい“東京の伝統工芸品”をつくる、「東京手仕事」プロジェクト。職人×デザイナーをサポートするプロジェクトの魅力(2)

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あたらしい“東京の伝統工芸品”をつくる、「東京手仕事」プロジェクト。職人×デザイナーをサポートするプロジェクトの魅力(2)

“おくるみ”から“ぬいぐるみ”にリメイクする「東京本染 てぬぐいおくるみ」

MARLCが手がけた商品の2つめは、思わず手に取りたくなる優しい生地の質感と、柔らかい柄と色合いの「東京本染 てぬぐいおくるみ」。名前のとおり、てぬぐいでつくられたおくるみですが、赤ちゃんの成長に合わせて“おくるみ”から“ぬいぐるみ”へ、付属のキットを使ってリメイクできるという一風変わった商品です。「東京本染ゆかた・てぬぐい」の企画製作を行う、東京和晒株式会社とチームを組んでつくったもので、商品発表会では東京都中小企業振興公社理事長賞を受賞しました。

東京本染 てぬぐいおくるみ

東京本染 てぬぐいおくるみ

ぬいぐるみを縫う様子

ぬいぐるみを縫う様子

平田:「てぬぐいおくるみ」は、想い出の品を再利用して、物を大切に使う心を共に育んでほしいという想いを込めた商品です。浴衣の生地を使い終わった後に、てぬぐいにして使うという文化があることを知り、そういう考え方でプロダクトをつくれたらいいなと思いました。自分で買うというよりは、プレゼントにする方が多いかなと思い、渡す時に「これは使い終わったらぬいぐるみにもできるんだよ」って、その場で話題づくりのひとつになると、プレゼントとして選びやすいものになるんじゃないかなと思って。

てぬぐいおくるみはコンセプトも方向性もだいたい決まっていて、どういう柄を入れるかを詰めていきました。「伝統」を意識して和柄を使いましたが、子どもに使ってもらうものだし、小さい子どもを持つお母さん世代には、古典柄だと少し使いづらかったり硬いイメージになったりするのが気になったので、柔らかい雰囲気で柄をデザインし直しました。

――「ゆらぎ盆栽」と「東京本染 てぬぐいおくるみ」、それぞれ開発で難しかったところはどんな点ですか?

竹本:「ゆらぎ盆栽」は、ベストなバランスを探すのにとても苦労しました。モビールは、ほんの少し支点がずれただけでバランスが大きく変わってしまいます。枝の連なりが美しい流れを描くようにバランスを調整し、主役である造花が引き立つよう試行錯誤しました。接着のりの種類でも重さやバランスが変わるし、のりが乾いても変わるし…。この試作を延々とやっていました(苦笑)。

平田:質感やボリューム感によっても求められる価格のイメージが異なるので、客観的に買うひとの目線で見てみたりアドバイザーの方に意見を聞いたりして、その都度原価についても考慮しながら検討して調整していきました。アドバイザーの方は、さまざまな専門家が多く、意見がとても参考になりましたね。

「ゆらぎ盆栽」と「東京本染 てぬぐいおくるみ」の商品リーフレットも、もちろんMARLCが手がけています

「ゆらぎ盆栽」と「東京本染 てぬぐいおくるみ」の商品リーフレット。パッケージやロゴについても、すべてMARLCが手がけています

竹本:「てぬぐいおくるみ」で難しかったのは、柄と色合いです。バリエーションはぜんぶで5種類で、どれもできるだけ強すぎず柔らかい色合いになるよう意識しました。

東京本染 てぬぐいおくるみ

おくるみの柄は、ぬいぐるみのパターンとなる、耳や腕など各パーツの柄でできています

平田:柄は健やかな成長を願うギフトにもなるよう、縁起の良い伝統的な小紋柄を注染の技の一つである「ぼかし染め」で表現しました。試作を作る限られた時間の中で、型紙を作ったり染めたりと、工程も関わる職人さんや業者さんも多く、時間との戦いでしたね…。ぬいぐるみのパターンで柄をつくるにあたり、基本的なお裁縫の知識だけでぬいぐるみを組み立てられること、ぬいぐるみになった時のフォルムの完成度、何よりおくるみとして魅力的かどうか、これらを両立させる必要がありました。

「広く知ってもらう」ことと「職人の利益になる」のせめぎ合い

――プロジェクトに参加して感じた率直な感想や、大変だったことは何ですか?

平田:一から物を作るという作業は、広告デザインなどの仕事とは異なりますが、作り手と買い手、双方の気持ちを考えてコンセプトを組み立てていくプロセスは共通です。おくるみに関しては、自分もターゲット層に入るので、どうしたら買うか、買いたい気持ちになるかを自分と相談しながらやっていけたと思います。

竹本:約6か月で2つの商品の製作を進めていたので、スケジュール管理が大変でした。量産するときに間に合うようにするとか、段階を踏んでいろんなパーツの製作があったので、それらを計算して考えることも大変でしたね。また、職人さんにとっては量産時の効率性なども気になるところです。無理のない範囲で量産体制をしっかりと整えていけるよう、デザイン段階から意識しました。

平田:値段決めも難しかったです。値段はなるべく抑えた方が買ってもらいやすいと考えていたのですが、安すぎると職人さんにとって利益にならないし…そのせめぎ合いもありました。広く知ってもらうことをとるか、利益をとるかが悩ましかったです。どれを正解とするか、着地点をみつけるのが難しかったです。

――プロジェクト事務局からの支援内容についても聞かせてください。試作品製作は補助もあるそうですね。

平田:はい。ただ、金額には上限があるので、職人さんによって「この開発に賭けている!」という方は上限を超えて出してくださる方もいますし、補助金内で最大限にいいものをつくりたいという方などそれぞれです。最終的な商品のコストだけでなく、その部分も計算して、スケジュールも考えて計画しました。

竹本:最初の段階で、予算の内訳をしておかないと、あとで足りないということになりかねないですよね。逆に与えられた補助金が余ってもったいないことになることも。最初にしっかり考えておく必要がありました。

コミュニケーションでお互いの感覚のギャップを埋めていくことが大事

――ふだん接する機会の少ない職人さんと仕事を進める上で、大事にしていたことは何ですか?

竹本:感覚のギャップを埋めていくことに注力しました。「ゆらぎ盆栽」の松のイメージひとつにしても、かなり要素をそぎ落とした松のイメージにしていたので、職人さんは「これで松に見えるのかな?」とふだん作られている松とくらべて理解が難しかったようです。ただ、職人さんの想いを伺いつつも、意見を反映しすぎるとせっかくの新しい取り組みも中途半端なものになってしまうので、心を鬼にしてこちらの意図を理解してもらうことも必要でした。いろいろなデザイン資料を見てもらったり、このお店に行ってみてくださいとお伝えしたり。結果としては賞も取れたこともあり、最後には「これで正解だったんだ」と、喜んでいただけました(笑)。

平田:職人さんには、実用的なものでないと売れないっていう感覚があったのかもしれないですね。理解をいただけるまで粘り強くコミュニケーションを取るよう努力しました。職人さんにとっての利益になるにはどうすればいいかという考えがないと難しいかもしれないと思います。

――最後に、プロジェクトに参加してよかったと思うことを聞かせてください!

平田:職人さんと出会ったことで新しいアイデアを出すことができたし、職人さんも新しい感覚を取り入れるきっかけになってもらえていると嬉しいです。わたしはすでに2回参加していますが、純粋に東京手仕事はいいプロジェクトだなと思います。あと、東京の伝統工芸品と聞いてもすぐイメージできなかったくらい東京は新しいもので溢れているので、参加を機にどんな伝統工芸があるのか知ることができたのはよかったなと思っています。

竹本:私も伝統工芸の職人さんと出会うことは普段の生活ではないことなので、そういう方と意見をかわしながら、ものづくりができる機会は貴重な経験になりましたし嬉しい体験でした。また、これまでの仕事では経験することがなかったであろう視点を得ることができたのも大きな財産になったと思います。

「東京手仕事」プロジェクトを通して、普段の仕事ではできない経験をされたお二人。職人さんへの支援はもちろんのこと、一緒に開発するデザイナーにとっても大きな財産になっているようです。

構成・文:高野瞳 撮影:葛西亜理沙 編集:石田織座(JDN)

■「東京手仕事」プロジェクト商品開発 企画デザイン案 募集

《応募期間》
2019年4月4日(木)~5月9日(木)※当日必着(応募フォームからの場合は17:00まで)

《募集内容》
「東京手仕事」プロジェクトの商品開発デザイナー
※詳細は公式サイトを参照

《賞》
・東京都知事賞 賞金100万円
・公益財団法人東京都中小企業振興公社理事長賞 賞金50万円
・優秀賞 賞金30万円

《参加方法》
提出物を提出先に郵送、または公式ホームページの応募フォームより
※応募フォームより応募の場合は、企画デザイン案3および同意書を郵送すること
※参加費は無料

※そのほか提出物などの詳細は、下記公式ホームページを参照ください

https://tokyo-craft.jp