次代のデザイナーを育成する「東京デザインプレックス研究所(以下、TDP)」は、現役トップクリエイターが講師を務め、グラフィックやWeb、UX/UI、空間デザインなど幅広い分野で即戦力となるプロフェッショナルデザイナーを多く輩出しています。リスキリングやキャリアチェンジを支援する体制が整っており、デザイン業界への就職・転職実績が豊富です。
アートディレクター/グラフィックデザイナーとして活躍する川向勇人さんは、TDPのデジタルアートスタジオ グラフィックデザイン専攻を2021年に修了。そんな川向さんに、一念発起してキャリアチェンジしたきっかけや、TDPで身についたスキルやデザインに対する考え方についてお話をうかがいました。
自動車工場勤務からデザイナーに転身
――まずは、これまでの経歴と現在のお仕事について教えてください。
高校卒業とともに自動車工場に就職してから、27歳の頃まで同社で働いていました。その途中で、仕事をしながらTDPに入学してグラフィックデザインを学んだ後、アートディレクター/グラフィックデザイナーの門馬翔さん(以下、翔さん)が運営するクリエイティブスタジオ「TRAP STUDIOS(以下TRAP)」に所属して、2026年で4年目になります。

川向勇人 TRAP STUDIOS グラフィックデザイナー/フリーランスデザイナー
在学中、TDPの先生からTRAPでインターン募集があると紹介していただいたことをきっかけに、現在はスタジオの一員として、さまざまなプロジェクトに携わっています。TRAPでは、ファッションブランドのシーズンルックのアートディレクションや印刷物のデザインを中心に、SNSコンテンツやWebバナー、LPの制作など幅広い仕事に携わっています。
また、フリーランスデザイナーとして個人で仕事を受けることもあり、ファッションブランドのカタログや、企業のロゴデザイン、名刺の制作などに取り組んでいます。
――TRAPとフリーランスの活動では、それぞれどのようなデザインワークを手がけているのでしょうか?
TRAPでのメインの仕事は、ファッションブランドのシーズンルックを中心としたアートディレクションです。継続的にディレクションを担当しているオニツカタイガーでは、新商品がローンチされるタイミングに合わせてディレクションをおこない、その撮影素材を用いて店頭のサイネージや紙媒体のカタログ、Instagram、Webバナーなど、さまざまな媒体のビジュアル制作を手がけています。
TRAPは代表の翔さんと僕の2人チームなので、毎回クライアントからの要望を受け取り、翔さん主導のもと、リサーチに時間をかけて2人でアイデア出しのラリーをしながら撮影のディレクションに臨んでいます。SS24(春夏2024年)のシーズンルックカタログを手がけた際は、インパクトと商品のディテールを詳細に見せられるように、一般的なものとくらべてかなり大きなB3サイズのカタログを作成しました。

オニツカタイガーのB3サイズのカタログ。インパクトとアイテムのディテールが伝わるスケールのビジュアルで、ポスターとして部屋に飾りたくなるサイズとデザイン
フリーランスとしては、着物ブランドの振袖ラインである「FURISODE KAPUKI」のカタログ制作が、個人的に印象深い仕事のひとつですね。FURISODE KAPUKIは、チェック柄やデニム生地を用いて、日本の“和”とトレンドを組み合わせた、エッジの効いたデザインが特徴的なブランドです。
制作にあたっては、プロダクションマネージャーの方と相談しながら、完成形を見据えてカタログのデザインをおこないました。

川向さんが制作した、「FURISODE KAPUKI」の大判カタログ
FURISODE KAPUKIのお仕事は、以前、TRAPではギャラリーを運営していて、そこで展示をおこなった写真家・久野美怜さんを通じてお仕事のお話をいただきました。その後は、新作が発表されるタイミングにあわせて、カタログ制作のご相談をいただいています。

TRAPが運営していたギャラリー「True Romance Art Projects」。建替工事にともなうクロージングパーティでは、開催した企画展ビジュアルポスターのほか、「3匹の山羊」の童話から着想を得たTRAPオリジナル作品を展示した

2023年に開催した、久野美怜さんの写真展にあわせて制作した写真集「CONTRAST」
生活の中で心動かされる、グラフィックデザイナーの仕事
――自動車工場に勤務されてから、キャリアチェンジしようと思ったきっかけは何ですか?
昔から服が好きだったこともあり、ファッションブランドのシーズンルックを見るのが好きでしたし、それ以外にもデザイン性の高い雑誌やCDジャケットなど、ジャンルを問わずさまざまな媒体のビジュアル表現に興味がありました。そのビジュアルを手がけるのが、グラフィックデザイナーやアートディレクターの仕事だとわかったのは2020年頃です。
その後、いろいろ調べるうちにYOSHIROTTENさんや安田昂弘さんといったアートディレクターのデザインワークに触れるようになりました。こうした方々の仕事を、これまで生活の中で知らず知らずのうちに受け取って心を動かされていたんだと気づきました。
当時は「ビジュアルコミュニケーション」という言葉すら知りませんでしたが、グラフィックデザインやアートワークによって作品や商品の魅力を表現したり、メッセージを伝えたりすることに憧れを抱くようになったのがきっかけです。
――デザイン系の学校の中で、TDPを選んだ決め手を教えてください。
ちょうど興味を持った時に、いつも読んでいた雑誌に掲載されていたTDPの広告を見て、社会人でも働きながら通えるスクールがあることに惹かれました。「アートディレクターを目指すならこのコースがいい」「インテリアデザイナーならこのコース」といったように、なりたい職種によってコースが分かれていたことも親切に感じました。
体験授業にも足を運び、少人数制での授業を受けられるという点や、学生が主体となって実践的な課外活動ができるラボラトリー(LABO)がある点などにも魅力を感じ、入学を決めました。
――実際に入学してみて、まわりの学生や授業の雰囲気はいかがでしたか?
いろんな世代、いろんな仕事に就いている人がいて刺激が大きかったです。背景はさまざまですが、デザイナーを目指すという目標は同じで、切磋琢磨する仲間ができました。プライベートで会う機会もたくさんありました。

川向さんは受講修了後、TDPのプロフェッショナルラボのプロジェクトに参画。カレル・マルテンス氏の作品展『Tokyo Papers』の企画・運営に携わった
週末に授業を受けて、平日は働きながら次の週までに課題をこなさないといけなかったので、納期の厳しさは肌で感じました。そのなかでも課題に対して相談や、互いに講評できる仲間がいたのは心強かったです。
授業では、現役プロのグラフィックデザイナーとして活躍する先生方にとてもお世話になったのですが、もっとよくなるデザインには理由を明確に厳しく講評し、良いデザインはしっかり評価して伝えてくれるのですごく勉強になったと感じています。
実践に通じる基礎が身につく、タイポグラフィの授業
――特に印象に残っている授業はありますか?
タイポグラフィの授業が一番印象に残っています。真っ白なA4の紙に展示会のインビテーションの情報をデザインする授業で、「日付」「場所」「展示会タイトル」「アーティスト名」の4つの要素だけでつくるという課題でした。
写真もない、色は黒だけ、レイアウトと文字の大きさだけ変えていいという縛りの中で取り組みました。制限があるからこそ、ああでもないこうでもないとものすごく考えてレイアウトし、余白の使い方に注目したのを覚えています。
――素人目にはどこから手をつけていいのか悩む課題ですが、川向さんはどんな風にアプローチしたのでしょうか?
左辺に展示のタイトル、上辺にアーティストの名前、右辺に住所、といったように、紙の上3辺の隅にひとつずつ情報を置くようにしました。そして、日付だけを右辺中央あたりに、シンプルな横組みで配置しました。全部の情報を目立たせるのは技術的に難しかったので、当時の僕は日付を伝えるのが重要だと考えてレイアウトしました。
また、あえて紙の上半分しか使わずにデザインをしたので、少し大胆すぎたかなと思いましたが、意外と先生には高評価でした(笑)。
――たしかに、展示会はそもそもその日付に予定が空いてないと観に行けませんよね。
情報の順位づけは各自で予想するしかなかったので、この課題では日付に重きを置きました。こうしたレイアウトの基礎能力はいまでも一番役に立っていることだと感じています。

カレル・マルテンス展『Tokyo Papers』のインビテーションカードをLABOのメンバーと共にデザイン
現在のボスであるTRAPの門馬さんも、情報が整理されたシンプルかつ美しいデザインを追い求めている人なので、学んだことを活かして実践でさらに成長している実感があります。
――川向さんはTDPに入学してからデザインソフトなどにもはじめて触れたとのことですが、すぐに扱い方を習得し、課題にも取り組めたのでしょうか?
パソコンのスイッチの入れ方から、先生が丁寧に教えてくれるのが大きかったですね。クラスには先生のほか、TA(ティーチングアシスタント)の方がいて、遅れる人が出ないように手厚くサポートしてくれるので、着実に習得することができました。
優れたデザインに触れなければはじまらない
――授業以外で学びやスキルを得るために力を入れていたことがあれば教えてください。
オンラインブックストアを経営している先生がいたのですが、そこで仕入れている優れたタイポグラフィとグラフィックを携えた世界中の本をよく授業で持ってきてくれました。
先生はよく、「良いデザインに触れなさい」と言っていました。すごくシンプルで当たり前のことですが、「優れたデザインに触れなければ、良いデザインはつくれない」ということだと思います。そこで紹介された本を参考にして、課題の際の実制作に活かすことを積極的にしていました。

TDPの校舎には、講師が選書した書籍を配架
参考になった本をひとつ挙げると、朗文堂という出版社が手がけていたデザイン年鑑のシリーズです。日本国内に限らず、海外のコーポレート・アイデンティティやビジュアル・アイデンティティの事例まで幅広く収録されており、僕が見ていたのは1980年代後半~1990年代に刊行された巻でした。昔のデザインですが、いま見ると新鮮なインプットになりますし、何より本自体のデザインもとてもいいんです。
この本は、僕が就活用のポートフォリオをつくりたいと思い、先生におすすめの本を尋ねた際に教えてもらいました。まさに上質なポートフォリオを見ているようで、タイポグラフィやレイアウトの感覚は、いまの制作にも活かされています。
――ポートフォリオ制作にもこだわっていたのですね。
紙から全部自分で選んで、印刷会社を利用してしっかり製本までしましたね。TDPには過去の学生がつくったポートフォリオを展示している部屋もあって、そちらも参考にしていました。

ポートフォリオライブラリーに展示されている川向さんのポートフォリオ
動きはじめれば目標への道筋が見えてくる
――そのほかにTDPに在籍中の学びでいまでも大事にしている考え方、活かされている経験などはありますか?
先生はよく、優れたデザインを例に挙げて、僕たちに問いかけていました。どうしてこういうデザインになっているのか、なぜこの書体を選んでいるのか、それをみんなで考えてみようと。
学生同士でディスカッションしながら考察を深めることで、気づけば自分の中にデザインの理論や哲学が芽生えてくる。優れたデザインを見た時に、なぜ素晴らしいのかを自分自身に問いかけること、そしてそれを言語化することはいまでも大事にしています。
――仕事をしながら学校に通われていたので大変な面もあったと思いますが、モチベーションを保つために工夫していたことはありますか?
工夫ではありませんが、とにかく学校では先生がクライアントだと思い、いい評価をもらうために頑張っていたと思いますね。課題制作も授業も楽しかったので、謎の自信と熱量でモチベーションを下げずに取り組めていました。

「JAGDA国際学生ポスターアワード2021」入選作品「grow」。川向さんはコンテストへの応募も積極的におこなっていた
――キャリアチェンジへ踏み込むのに悩まれる方も多いと思いますが、思い切って挑戦してみてどうでしたか?
端的に言うと、キャリアチェンジすることはそんなに難しくないと伝えたいですね。いまの仕事を辞めて一から別の業界に進むことはものすごく怖いと思いますが、学校に通いはじめたら、自動的にそっちの方向に突き進んでいかざるを得なくなる。

在学時の課題作品。ファッションブランドをコンセプトやストーリーから企画し、フォト、ルックブック、ショッパー、Webサイトなどのデザインに落とし込んだ
学校に行けば課題に取り組まないといけないし、そうしているうちに先生や仲間との出会いがあり、つながりが増えた結果、就職が見えてきたりもする。デザイナーになりたいけど不安で悩んでいるという方ならば、とにかく行動してみるのが大事だと思います。
――最後に、川向さんがこれから挑戦したいことや展望があれば教えてください。
まずはいま所属しているTRAPの仕事にしっかり取り組み、スタジオの知名度を上げていきたいという目標がありますね。その中で自分自身のディレクションやデザインの能力も鍛えて、将来的には自分のスタジオを立ち上げたいです。
あとは、TRAPがアートギャラリーだった時代に働いていた際に、アーティストの作品に刺激を受けることも多くありました。そうした原体験を大切にしながら、今後はクライアントワークと並行して、自分自身の表現としての作品制作にも向き合っていきたいと思っています。

東京デザインプレックス研究所
https://www.tokyo-designplex.com/
TRAP STUDIOS
https://www.instagram.com/trap___studios
川向勇人
https://www.instagram.com/yuccho.k
文:原航平 撮影:葛西亜理沙 取材・編集:岩渕真理子(JDN)




