固定観念に捉われない“しるし”を―三澤遥×舟橋正剛「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」

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固定観念に捉われない“しるし”を―三澤遥×舟橋正剛「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」

「しるし」をテーマにいままでにないプロダクトやアイデアを募集してきた「SHACHIHATA New Product Design Competition(シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション)」の、第16回目の応募が4月1日からスタートした。今回のテーマは「思いもよらないしるし」。ポスターが大幅にイメージを刷新したり、新たにゲスト審査員にエンジニアの武井祥平さんが加わったりと、新たな“兆し”のようなものを感じさせている。

本記事では、2022年度から審査に加わった日本デザインセンターの三澤遥さん、特別審査員を務めるシヤチハタ株式会社・代表取締役社長の舟橋正剛さんに、応募を検討している方へのアドバイスや期待することなどをお聞きした。

期待するのは、「スタンプから離れたしるし」の提案

――今回はゲスト審査員として武井祥平さんが加わります。お二人はどのようなことを期待していますか?

舟橋正剛さん(以下、舟橋):これまで審査員はグラフィックやプロダクトなどのデザイナーがメインでしたが、武井さんはエンジニアでありながらアーティストやデザイナーと一緒に、いままでにないようなものを一からつくるお仕事をされています。そういう意味では、いままでにないような「こんなものを見てみたいな」というエキスが提案に入るのではないか?という期待はあります。

舟橋正剛

舟橋正剛 シヤチハタ株式会社 代表取締役社長/一般社団法人未来ものづくり振興会 代表理事。

三澤遥さん(以下、三澤):武井さんとはお仕事でもご一緒してきましたが、技術的なところだけをお願いするのではなく、チームの一員になってもらい、協働してつくってきました。言葉で解決するヒントを与えてくれる一面もあります。なかなか共有しにくい、デザインの微妙な動きの差みたいなものも柔らかく通じ合えますし、デザインの解釈がとても広く深くある方だと思うので私もとても楽しみにしています。

三澤遥

三澤遥 1982年群馬県生まれ。日本デザインセンター三澤デザイン研究室室長。武蔵野美術大学准教授。同大学工芸工業デザイン学科卒業後、デザインオフィスnendoを経て、2009年より日本デザインセンター原デザイン研究所に所属。2014年より三澤デザイン研究室として活動開始。ものごとの奥に潜む原理を観察し、そこから引き出した未知の可能性を視覚化する試みを、実験的なアプローチによって続けている。主な仕事に、水中環境を新たな風景に再構築した「waterscape」、かつてない紙の可能性を探求した「動紙」、国立科学博物館の移動展示キット「WHO ARE WE」、隠岐ユネスコジオパーク泊まれる拠点「Entô」のアートディレクション、上野動物園の知られざる魅力をビジュアル化した「UENO PLANET」がある。著書に『waterscape』(出版:X-Knowledge)。

――コンペにおいて、変えたい部分と変えたくない部分があるとすれば、どういうところでしょうか?

舟橋:今回が第16回ですが、ずっと「しるし」というテーマでやってきていて、少しでも商品を多く世に出したいと思ってきました。これは今後も変えたくはない部分です。商品化の前の段階として、最近シヤチハタはこのコンペの受賞作品も含めて、クラウドファンディングを利用しています。ニーズを探りながらそこで1回テストして、次に繋げていく。世に出す、世の中に提案できるかどうかという点はこれからも重視したいです。

変えたいところとしては、これまではどうしても「シヤチハタ」のイメージからか、ハンコやスタンプに寄りやすい雰囲気はありました。目からウロコ的なものもたくさんありましたが、そろそろ我々もスタンプだけではなく、そこから離れた「しるし」を提案していただきたいという思いが広がっています。

三澤:私自身はデザイナーとしてヒット商品があるわけではなく、商品化に深く携わってきたわけでもありませんが、前回審査に参加させていただいた際は、「ほしいな」とか「使ってみたい」と感じるものを最終的に選んでいました。

ただ最初は、「はじめまして」と感じるような、新しい可能性の発見があるものを期待していました。ありえないものをつくりましょう、みたいな初動を生み出せる人がいまデザイン界ですごく増えていますし、新しい力を持った人がぽっと生まれる瞬間のようなものに立ち会える場がコンペにもあると、華やかで明るくていいなと思います。

第15回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション 最終審査会の様子

第15回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション 最終審査会の様子

――商品化だけでない可能性も面白そうですよね。今回のテーマは「思いもよらないしるし」ですが、テーマについてはどのような印象がありますか?

舟橋:これまでも「○○のしるし」というテーマでやってきて、徐々にパターン化してきてしまっている部分もありました。においに関するものや手で触るものなど、似たアイデアは多いんです。モノとしての商品以外で、サービスでもビジネスモデルでも全然構わないと思うので、スタンプの概念を取っ払ってしまうような提案を期待しています。イベントの企画や印象のつくり方のような概念的なものもいいと思います。

三澤:商品化という意味では私よりもっとふさわしい方が審査員としているかも…と、思いつつ審査をしているのですが、自分が去年から加わったことや武井さんがゲスト審査員に加わること、また「思いもよらない」というテーマも含めて、やはり意表を突くようなアイデアが求められているのかなという気もしています。その意表の突き方がワンアイデアではなく、全然違うところから突っ込まれるような強いものが来るといいなと思っています。

アイデアのその先を考えてものをつくる

――三澤さんのデザインに対する考え方についても伺いたいです。三澤さんの作品は商品ではないものが多いですが、きちんと伝えたいことは体現しています。そのバランスはどのように考えているのでしょうか?

三澤:そうですね。あまり「そのもの自体」で何かを完結しようとはしていないかもしれません。続きをつくり続けるような、一つその先という視点で目の前のものを見ようかなと、最近は特に意識的に思いながらつくっています。もしかしたら私自身以外の誰かが続きをつくってくれるかもしれませんし。

IKKO TANAKA ISSEY MIYAKE No.6 Special Installation [The Plant Series]

IKKO TANAKA ISSEY MIYAKE No.6 Special Installation [The Plant Series] 写真:北村圭介

WHO ARE WE 観察と発見の生物学 国立科学博物館収蔵庫コレクション|Vol.01 哺乳類

WHO ARE WE 観察と発見の生物学 国立科学博物館収蔵庫コレクション|Vol.01 哺乳類 写真:©︎Gottingham

三澤:コンペの場合、ワンアイデアがあり、そのインパクトの強いものが賞を取るような印象ですが、本来、アイデアにはその先があります。私はモノをデザインしていても、それだけをかっこよくつくろうとはしていないんですね。広く見たり近くで見たり、寄り引きを繰り返しながら物事を考えていて、いろんなところに散らばっているアイデアを、回収したり編集したり切り貼りしたり、そういう感覚でモノをつくっています。

だから、一つのわかりやすく強いアイデアとは少し視点が違うというか。コンペでどのくらいできるかわかりませんが、何かそういうものが出てきてくれたらとも思います。

――ちなみに舟橋さんは、もともと三澤さんに審査員として期待していた部分はどこですか?

舟橋:三澤さんの作品を見ていて、とても面白いなと思ったんです。ただそれは先ほどから私が話していたような商品化に対してはどうすればいいのかな?という戸惑いもあるんですけれど。でもこれまでの審査員の先生たちと少し違うニュアンスを感じたので、新しい風を吹き込んでいただきたい気持ちもありました。

また、どうしても応募者の絶対数は男性が多く、女性の受賞者からも「なぜ審査員に女性がいないのですか?」という声を受けていたという背景もあります。時代として、男性だから女性だからという表現は過去の言葉になると思いますが、やはりずっと望まれていたことでした。

それぞれの「思いもよらないしるし」を楽しみに

――今回、ポスターにも変化がありましたが、どういう印象を受けましたか?

舟橋:本当に変わりましたよね。私が最初に申し上げたスタンプや朱のハンコをイメージさせるようなグラフィックから離れようという印象を受けました。線の細さやデザイン全体の醸し出すイメージも含めて、ここから少し変わりますよ、ちょっと頭を転換して発想してくださいね、と訴えていけるのかなと捉えています。

第16回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション メインビジュアル

三澤:去年までのポスターのビジュアル表現はシリーズ性が強かったので、歴史ある審査という顔つきでした。でも今回ガラッと変わったので、出す側としても変えなきゃいけない!と思うだろうなと感じます。今年はなんだかもっと面白くなりそうです。

――三澤さんは、前回はじめて審査に参加されてどのような印象でしたか?

三澤:前回は生きた心地があまりせず、前半はあまり記憶がないくらい緊張していました(苦笑)。ただそのなかで感じたのは、審査というのはその場の空気でぐわっと大きく動くものだなと。まるで生き物みたいにどんどん状況が変化するので、なんとなく受賞するだろうと予測していたものが選ばれなかったり、予選段階で票が入ってたものが急に受賞から漏れたり。審査員一人ひとりの言葉の重みがすごくありますし、言葉の力が強い方々なので、審査の空気や流れでガラっと物事が動く瞬間を何回か見ました。

最後の大賞が決まる瞬間も、みんながいろんなストーリーを想像し、思い出したものの話が一つのアイデアを紐解いていくような感じでした。さっき話したように、目の前のアイデアが面白いだけじゃなく、どういうシーンになったらいいかなとか、どういう人が使ったら面白いだろうとか、審査会のストーリーが盛り上がるかどうかでも結果は変わると体感しました。予測不可能な部分ですね。

三澤遥

――今回応募される方に伝えたいことはありますか?

舟橋:今回は「思いもよらない」という形容詞がついていますが、思いもよらないものは身近なもののちょっと反対のところに潜んでいると思っています。ハンコやスタンプは頭から抜いて、もはやモノじゃなくてもいいので、固定観念を取っ払った提案をしていただけたらと思います。本当に審査が楽しみなテーマです。こんなのなかったよね、というものに出会いたいです。

三澤:すごく印象に残るものをつくった方が、たとえば5年、10年後にほかの「思いもよらない」ものをつくれる人になっているかもしれません。受賞者の名前が出るという意味で、コンペはその人のその後を追いかけられるものでもあるんですよね。時代性などを反映して生まれたものに対して、さらにその先でどう変わっていくのか?どういうものを未来でつくっていくんだろう?という部分を見届けることができたり、布石を一緒に発見したり味わえたりするのは、審査の醍醐味かなと思っています。

■第16回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション
https://sndc.design/

取材・文:角尾舞 編集:石田織座(JDN)