肩書きは自分で決めていく。個を強くするPARTYのチームワークと、「北条SANCI」での働き方

肩書きは自分で決めていく。個を強くするPARTYのチームワークと、「北条SANCI」での働き方

最新テクノロジーとストーリーテリングを融合させ、領域横断的なものづくりを行うクリエイティブ集団、「PARTY」。“つくる群れ”を意味する“Creative Crowd”として、サービスやプロダクト、広告、企業ブランディングのほか、アート作品を手がけるなど多彩な活動が国内外で評価されている。その高いクリエイティビティはもちろん、注目すべきは極めて多様なワークスタイルだ。雇用形態を自身で選べるほか、副業はもちろん、働く場所も代官山の「TOKO」と鎌倉の「北条SANCI」、どちらかのコレクティブオフィスを選択することができる。

働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」を主催する&Co.代表取締役の横石崇さんが支配人を務め、スキーマ建築計画の長坂常さんが設計を担当した「北条SANCI」は、2019年度のグッドデザイン賞に選ばれている。働き方の多様化が取り沙汰される中、チームとして、高い次元のクリエイションを生み出すPARTYはどのように鎌倉のコレクティブオフィスを活用しているのか。PARTYでプロデューサーとして働く林重義さん、リサーチ・エンジニアの宮本優一さん、HRマネージャーの文里沙さん、英語コピーライターのマンディー・ワンさんにお話を聞いた。

北条SANCI

北条SANCI

それぞれの仕事が“溶け合う”、多様なワークスタイル

――まずは、みなさんの仕事内容を教えてください。

林重義さん(以下、林):現在は3つの顔を持って働いています。PARTYではプロデューサーとして、アーティストを支援するプラットフォーム「The Chain Museum」ではアーティストと共に作品づくり・キュレーションを、さらにクリエイティブレーベル「nor」ではアーティストとして活動しています。

文里沙さん(以下、文):私はPARTYではHRとPRの仕事をメインに働いています。林さんと同じくThe Chain Museumにも携わっており、そこではPRと採用活動を担当しています。

宮本優一(以下、宮本):僕は肩書きはリサーチ・エンジニアで、専門は機械学習です。PARTYでの活動のほかには、PARTYとサイバーエージェントが共同出資でつくった「CYPAR」のプロジェクトにも関わっています。

マンディー・ワン(以下、マンディー):私は文さんと同じPRチームに所属していて、SNS運用や海外メディアの対応を行っています。英語コピーライターとしては、キャンペーンで使う英語テキストや商品のネーミングを考えたり、国際クリエイティブアワードに提出するビデオのナレーションなどを作成しています。それから、誰でも気軽にアーティストの支援ができるThe Chain Museumのアプリ「ArtSticker」の英語版と中国語版の翻訳も行っています。

<strong>林重義</strong> プロデューサー テクノロジーを活用した「新しい体験」を作ることを得意とする。 最近の代表作に、「<a href="https://prty.jp/work/digivege">でじべじ –Digital Vegetables– by PARTY</a>」、ハブラシIoT「<a href="https://prty.jp/work/gum-play">SUNSTAR / G•U•M PLAY</a>」、未来窓のコンセプトモデル「<a href="https://prty.jp/work/module-window">YKK AP / M.W.</a>」。 グッドデザイン賞、SPIKES ASIA Innovation Spikes ShortlistやHealthcareその他多部門の受賞歴がある。 プライベートワークとしてクリエイティブ・レーベル「<a href="https://nor.tokyo/">nor</a>」ではプロデューサーとして、Media Ambition Tokyo 2018、六本木アートナイト2017、ICCでのインスタレーション展示を行う。

林重義 プロデューサー テクノロジーを活用した「新しい体験」を作ることを得意とする。 最近の代表作に、「でじべじ –Digital Vegetables– by PARTY」、ハブラシIoT「SUNSTAR / G•U•M PLAY」、未来窓のコンセプトモデル「YKK AP / M.W.」。 グッドデザイン賞、SPIKES ASIA Innovation Spikes ShortlistやHealthcareその他多部門の受賞歴がある。 プライベートワークとしてクリエイティブ・レーベル「nor」ではプロデューサーとして、Media Ambition Tokyo 2018、六本木アートナイト2017、ICCでのインスタレーション展示を行う。

――林さんはPARTY以外での活動も盛んですが、本業の仕事にはどのように影響していますか?

林:norでのアーティスト活動をきっかけに、PARTYでもアート作品をつくろうという話が出てきたりといったことはありますね。最近では、2019年から日本科学未来館で展示している「GANGU」や、森美術館の『未来と芸術展』でのnoiz architectsとのコラボ作品は、結果としてPARTY以外の活動で得た知見から生まれたプロジェクトです。個人活動が多いnorとくらべて、PARTYではクリエイターとのコラボレーションが多いです。

――PARTYは勤務形態を選べるのも特徴だと思います。正社員をはじめ、業務を90%に抑えてその分を副業にあてられる「社員90%」や、NDA(秘密保持契約書)を結ぶことでPARTYとコラボレーションがしやすくなる「PARTYパートナー」など多彩です。

文:現在、正社員のうち2割ほどの社員が社員90%の制度を利用していますが、正社員でも100%か90%なのかというラインは、あえてカチッと決めないようにしているんです。どこまでできるかという度合いは人によって異なると思いますし、副業をする/しないだけの違いでもありません。たとえば社員90%のエンジニアで、副業はしないけれど、自主制作をするために2カ月の休みがほしいという人もいて、10%の使い方は自由なんです。

文里沙 HR/PRマネージャー 青山学院大学卒業後、クックパッド、delyを経て、PARTYに参加。HRとして、採用・人事制度の策定・インナーコミュニケーション施策の開発を行う他、PR業務も行う。また、スマイルズ遠山正道氏とのジョイントベンチャーによって誕生した新会社「The Chain Museum」の採用・広報も担当している。

文里沙 HR/PRマネージャー 青山学院大学卒業後、クックパッド、delyを経て、PARTYに参加。HRとして、採用・人事制度の策定・インナーコミュニケーション施策の開発を行う他、PR業務も行う。また、スマイルズ遠山正道氏とのジョイントベンチャーによって誕生した新会社「The Chain Museum」の採用・広報も担当している。

――PARTYでは、メンバーそれぞれどのくらいの数のプロジェクトを担当しているのですか?

林:PARTYは長期間にわたる大規模なプロジェクトが多いので、ひとりあたり同時に5、6件ほどのプロジェクトに関わっています。

文:肩書きに関係なくかかわるのも特徴ですよね。

林:たとえば、文さんはPR担当なのですが、GANGUのグラフィックレコーディングをつくる上での情報整理について相談したことがあります。文さんはPARTYのnoteで発信している記事のインタビューを担当しているので、スキルスイッチできるのではないかと僕が判断しました。

PARTYは個が立っているので、プロジェクトメンバーがクリエイティブディレクターに対しても意見を言いますし、それによって内容が変わることもあります。“個の集団から生まれた総意”といいますか、やり方は個人個人に委ねられていて。「英訳はこっちのほうがいいんじゃないの?」とか、「PRはこうしたい」みたいな部分は、クリエイティブディレクターを通さずにどんどんやっていけるところが強みのひとつかなと思います。

文:Slackで「こういうプロジェクトやりたい人いますかー?」って募集することもありましたね。新しいことに挑戦しようっていう思考の人がすごくたくさんいるので、そういったことが実現できる環境なんじゃないかなと。

宮本:エンジニアチームでいうと、それぞれの目標を共有しているので、今あるスキルで判断するのではなく、これから身につけたい技術を扱う案件にチャレンジすることもあります。

あと、一般的には縦割りの流れの中で上司から仕事を割り振られてから取り組むことが多いと思うのですが、PARTYではそれぞれのメンバーに直接フラットに依頼が来る。なので、もしそれが無茶振りだったとしても(笑)、「こうしたほうがいいですよ」といった意見も言いやすいですね。

<strong>宮本優一</strong> リサーチ・エンジニア 沖縄生まれ、沖縄育ち、筑波大学大学院知能機能システム専攻修了。カメラメーカーにて画像処理・機械学習の研究開発を行う。PARTYでは前職での経験を生かし画像認識やDeep Learningのシステム開発を手がけるとともに、最新のテクノロジーについての研究を日々続けている。最近の主な仕事に「<a href="https://prty.jp/work/cypar">CYPAR</a>」、「<a href="https://prty.jp/work/deeplooks">Deeplooks</a>」、「<a href="https://prty.jp/work/true-fan-jukebox">Spotify / True Fan Jukebox</a>」など。趣味はロボット製作。

宮本優一 リサーチ・エンジニア 沖縄生まれ、沖縄育ち、筑波大学大学院知能機能システム専攻修了。カメラメーカーにて画像処理・機械学習の研究開発を行う。PARTYでは前職での経験を生かし画像認識やDeep Learningのシステム開発を手がけるとともに、最新のテクノロジーについての研究を日々続けている。最近の主な仕事に「CYPAR」、「Deeplooks」、「Spotify / True Fan Jukebox」など。趣味はロボット製作。

林:みんないろんな組織やプロジェクトに属してはいますが、明確な区分けはだんだんなくなってきた感じはありますね。たとえば、僕はPARTYのプロジェクトとして雑誌『WIRED』日本版の制作に携わっていて、北条SANCIがWIRED編集部の分室でもあります。クリエイティブをつくるときに、norのメンバーに声をかけて仕事をしていたり、それぞれの仕事の境目が、だんだんと溶け合っているイメージなんです。

個人作業スペースとオープンスペースがゆるやかにつながる、「北条SANCI」

――「北条SANCI」はどのように利用していますか?

林:僕は週に1回、WIREDの編集部とPARTYのクリエイティブチームで集まってミーティングをしています。

文:私はだいたい月に1度利用しています。1年を振り返る年末など、節目となるタイミングでPRチームの定例会をここで行なっています。代官山ではなくあえて鎌倉に来ることで、気持ちがリフレッシュできるんですよね。あとは、なんでもないときにマンディーさんと「鎌倉行きたいよね」みたいな感じで来るときもあります(笑)。

マンディー:朝市で鎌倉野菜を買ってから出勤して、キッチンで何かをつくったり(笑)。

<strong>Mandy Wang</strong> 英語コピーライター/SNSや海外向けPRマネージャー 台湾・高雄生まれ、アメリカ・シアトル育ち。主な仕事に、「<a href="https://prty.jp/work/matchbox">Mynavi works / MATCHBOX</a>」、「<a href="https://prty.jp/work/digivege">でじべじ –Digital Vegetables– by PARTY</a>」や<a href="https://prty.jp/work/slack-japan">Slackの日本市場進出</a>など。英語・日本語・中国語で歌詞を書き、曲をつくり、ピアノ弾き語りのシンガーソングライター「<a href="https://www.mandimimi.com/">mandimimi</a>」としても活動中。

Mandy Wang 英語コピーライター/SNSや海外向けPRマネージャー 台湾・高雄生まれ、アメリカ・シアトル育ち。主な仕事に、「Mynavi works / MATCHBOX」、「でじべじ –Digital Vegetables– by PARTY」やSlackの日本市場進出など。英語・日本語・中国語で歌詞を書き、曲をつくり、ピアノ弾き語りのシンガーソングライター「mandimimi」としても活動中。

マンディー:私も文さんと同じで、月1回くらい。取材の対応だったり、あとは、ボリュームの多い翻訳業務があるときはこちらに来ることが多いですね。代官山のメインオフィスTOKOでは、お客様や業者さんの応対をすることが多いので、集中したい日は、静かな北条SANCIのほうが捗るんです。

宮本:僕は週1回のCYPARのミーティングと、同じく月1回のエンジニアの勉強会をここでやっています。勉強会の日は、みんなでこもって作業できるのがいいですね。エンジニアチームのメンバーも、その日はほかの場所でのリモートワークやミーティングを極力入れずに作業に勤しんでいます。

林:仕事に集中するための机を仕切りで区切っている個人作業スペースとオープンスペースがゆるやかにつながるような造りになっているので、オープンスペースでミーティングをしていると個人スペースで作業している人に聞こえたりするんですよ。それが、誰がどんな案件をやっているかを共有できる機会にもなっていますね。

文:一度、私が個人作業スペースにいるときに、ミーティングをしているオープンスペースから突然「文ちゃんはどう思う?」と話を振られることもありました(笑)。

1階の個人作業スペース

1階の個人作業スペース

1階のオープンスペース

1階のオープンスペース

マンディー:ゆるいコミュニケーションがありつつ、ほどよい緊張感もあるんですよね。北条SANCIの名前は、「〇〇さんの家」という意味での“さんち”で、家でもなくオフィスでもない、まさに“誰かさんち”にいるような感覚の場所なんです。

――ここは観光地から少し離れた住宅街なので、とても静かですね。

林:駅近の観光地だったら、きっとこういったゆったりとした時間が流れる環境は成立していないと思います。鎌倉駅から鶴岡八幡宮の参道を通り、ここに来る。その道中が、いろんな想いを巡らせて頭の中をリセットできる時間になっています。俗世から離れる、というわけではないけれど、東京での生活から分離させて思考を進められるのは、わざわざここに来るからこそな気がしますね。

文:鎌倉は自然が多いので、おのずと四季を意識するようになりましたね。景色として魅力的なのはもちろん、PRの仕事をする上でも、季節にからめたキャンペーンなどのインスピレーションになっていると思います。

マンディー:北条SANCIは紹介制のコレクティブオフィスなので、利用者同士はシェアオフィスよりも親密なつながりがあります。継続的に一緒にものづくりができる関係性を生む場所として、もっと活性化していけたらいいなと思います。

オンラインとオフライン、それぞれ豊かなコミュニケーション

――出勤場所や出勤時間がバラバラな中で、プロジェクトメンバー間のコミュニケーションはどのようにとっていますか?

マンディー:Googleカレンダーをかなり活用していますね。スケジュールを逐一確認しながら、デッドラインの設定を1ヶ月、2週間、1週間…と細かく刻んだり、お互いのワークスタイルを把握しておくことで、その人に効果的なリマインドの仕方を工夫しています。お休みをいただく日も全員が入っているSlackチャンネルで報告したり、そういったきめ細やかな情報共有の習慣化が、もしかしたらすごく効果を発揮しているのかもしれません。

林:メールからSlackに移行しつつあるのは本当に大きいです。みんなで一斉に情報を共有できるし、常に“さらされている”状態なので、誰かが抜けたとしてもほかの誰かがサポートできる。

さらに、PARTYではどんな案件でもプロデューサーをふたり立てるようにしているんですね。もしものときのリスクヘッジはもちろんですが、映像が得意なプロデューサーとビジネスが得意なプロデューサーがお互いの得意分野を混ぜながらやれたりするので、そういった補完関係も生まれています。

――社内の情報やナレッジの共有はどのようにしていますか?

林:プロジェクト単位の定例として、週に1度は必ず対面でミーティングをするようにしています。勤務時間もフレックスなので、働き方やライフスタイルはきちんと共有していてます。朝型の人もいれば夜型の人もいるし、夕方は保育圏に子どもを迎えに行くメンバーとか、それぞれの生活のリズムに合わせて、ミーティングの時間も柔軟に決めていますね。オンラインでのコミュニケーションが多い会社ですが、オフラインもめちゃくちゃ多く、その時間を大切にしています。

宮本:エンジニアには夜型の人が多いですね。それぞれにとって生産性の高い時間に出勤しても、うまくコミュニケーションをとってやっています。

マンディー:全員が集まる機会としては、毎月1回、18時から始まる夕礼があります。それぞれがフレキシブルに働くスタイルなので、一番集まりやすいのがこの時間だったんです。代官山の「TOKO STUDIO」で、進行中のプロジェクトやこれから着手する案件について報告し合うほか、ローンチした案件から得た学びや苦労話を共有するのも大事ですね。

文:夕礼自体は1時間半くらいで、そのあとは飲んだり食べたりしながら、みんなで花の木曜日を過ごしています(笑)。情報共有だけではなく、コミュニケーションの活性化も目的なので、夕礼のスタイルをとっているのもその流れがつくりやすいからなんです。この時間を楽しみにしてくれているメンバーも多いですね。

林:ほかにも、エンジニアチームが開催してくれる勉強会もあります。最初は座学的なものだったんですが、回を重ねるごとにモックアップのような体験できるものを実際につくって、それについて解説してもらったり。

宮本:座学だけだとなかなか深いところまで理解してもらえている感じがしなかったので、実際につくったものを見てもらうような、勉強会のやり方自体を変えていきました。

林:やっぱり実際にモックアップとしてかたちが見えることで、発想をアイデアに転換できるような体験会になったと思います。エンジニア以外のメンバーも「わかるわかる!」と盛り上がるようになりました。

北条SANCI

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