新年あけましておめでとうございます!
いつも「JDN」をご覧いただき、ありがとうございます。昨年の1月に「つくる・使う・考える人のデザイン情報サイト」としてリニューアルし、これまで以上にいろいろな分野の方や、情報を発信できた1年だったなと感じています。今年は昨年以上に、JDNを知ってもらったりつながってもらうような窓やドアをたくさんつくれればと考えています!
昨年に引き続き、今年も新年最初の記事として、株式会社JDNの今年の年賀状を紹介させてください。
一目見たら忘れない、ともすればグロテスクにも感じられる鮮やさと華やかさを持った、いい意味でぎょっとするデザインの1枚となりました。一見すると人の顔が浮かび上がってきますが、ひとつひとつ見ていくと伊勢エビや電車の案内板、宝石、キーボード、くじら、そして今年の干支である「犬」も何匹か隠れているのです…!商売繁盛の縁起物として飾られる、熊手のようにおめでたい印象だと思いませんか?
自信を持って人に送りたい、この年賀状をつくってくれたのは、イラストレーターの田渕正敏さんと、グラフィックデザイナーの松田洋和さんによるユニット「へきち」です。昨年の「THE TOKYO ART BOOK FAIR 2017」ではじめてへきちに出会い、机に並ぶユニークな本やポストカードを見てすぐファンになりました。おもに、アート/デザイン/印刷/造本という活動を行っているお二人です。
今回JDNからお願いしたコンセプトは以下でした。
・会社が位置する地域の特性を入れたい(上野、御徒町、秋葉原)
・昨年から社長に就任した代表の宮内について触れたい(代表・宮内の好きなモノや趣味など)
やや手前味噌な記事になりますが、この年賀状のデザインコンセプト、そしてへきちの活動についてもうかがいました。
年賀状のデザインコンセプト
松田洋和さん(以下、松田):上野は美術館が多い、秋葉原は電気街、御徒町は宝飾の街…など、いろいろなモチーフを探すところから始めました。それらと宮内社長の紹介を同時にできるアイデアを考えていた中で、画家のアルチンボルドの肖像画のような仕上がりを思いつきました。JDNさんのサービス内容と、美術館が多い、というところもポイントで、いろいろなことがしっくりきたのです。あとは何を盛り込んでいくかを二人で話し合い、イラスト制作の中の細かいモチーフの組み合わせは田渕に任せました。
田渕正敏さん(以下、田渕):モチーフは形や色をパズルみたいに組み合わせながら考えていきました。街の地域性と、あとは社長の好きなものや趣味も入れつつ、たくさんのモチーフを入れています。ただ、いろいろなモチーフは入れつつも、年賀状の印象を強めたいと考えてお正月のモチーフもいっぱい入っています。仕上がりが怖気持ちいいみたいなものになるだろうなと思っていたので、それをひっくるめて“おめでたい”と感じてもらえるように制作しました。
-特に見て欲しいとか、気に入っているモチーフはありますか?
田渕:鼻になっている伊勢海老と、おでこの案内板の配置が決まった時に、この案いけそう!と手応えがありました。いちばん難しかったのは、あご髭の部分。最初は風呂敷や大きい犬が寝そべっている形にするなど試行錯誤しましたが、最終的には細かくチクチクして見える発光ダイオードを髭にしました。影になる部分ですが、あえて光らせて床に落ちる光を演出しました。
普段食品パッケージなどのイラストを描く時は、モチーフ全体に均一に光がまわっているように描くのですが、今回はまず顔の印象が大事なのでパーツになるモチーフを描き込みつつも、全体としては社長の顔を感じられるような工夫が必要でした。こういう絵は描いたことがなかったのでチャレンジでしたが、黒バック自体も新鮮でおもしろかったですね。
「へきち」のはじまりは、1冊の本
展覧会のフライヤーや本の装丁、ブランドのインビテーションといった仕事が多い「へきち」。田渕さんと松田さんは、もともとは同じ会社の先輩・後輩で、ともにデザイナーをしていました。徐々にいろんな話をするようになり、松田さんがつくってきた1冊の本がきっかけで活動をスタートすることになったそうです。
松田:お互いに、仕事とは別に何か制作をしていて、そういうのを友人と一緒にやろうとするとうまくいかず、一人でやっていました。僕は、写真を撮っている友人に、それを本にしてプレゼントをしたり、あくまで個人同士の中で終わるようなサイクルの制作をしていました。田渕とも、最初はそんな感じの始まりで、最初に本をつくってプレゼントするところから始まりました。
田渕:松田は何か具体的にやろうと言う前に、本をつくってきたんですよ。昔からたくさん描いていた落書きを見たいと言うので、中学校くらいから最近のものまで全部見せたんですよ、夜通し(笑)。スキャンだけしたら僕が本にしますよって言うから、忘れ去ったような落書きを全部スキャンして送ったら、へきちの1冊目となった本をドンっと渡されて。落書きに全部目を通すっていう時点でも狂人だと思ったけど、これは嬉しかったですね。これをきっかけにへきちの活動がスタートしました。
田渕:「へきち」という名前は、もともと二人でフリーペーパーをつくろう、という話をしていたときにいろいろと考えたネーミングの中にあったものです。特に深い意味があったわけでもないのですが、響きと、そのとき松田が手書きで描いてきたロゴ(現在のロゴとほとんど同じ)が良くて決めました。
イラストレーションとグラフィックデザインのコンビネーション
田渕さんが絵を描いて、松田さんがさまざまな綴じ方で手製本をする。そのやり方でこれまでいくつもZINEや本が生まれてきた。
松田:もともと本にするのが好きで。製本と呼べるかはわかりませんが、チラシの裏が白いものを集めて、全部半分に折って穴あけパンチで穴を開け、紐で綴じるみたいなものが最初の体験だと思います。中綴じの冊子は小学校の時からつくっていました。夏休みの自由研究には、当時好きだったものを描いて、まとめて本にしたり。今みたいな上製本のやり方や、特殊な縫い方は大学に入ってから試しながら覚えていきました。
-製本はどのくらいの時間でできるんですか?
松田:印刷も自宅のプリンターですべてやることが多いのですが、全部印刷が終わっていて、あとは製本だけだとしたらだいたい3~4時間くらいで1冊が出来上がるペースでしょうか。
田渕:僕からは造本に対しての注文はしません。活動を始めた当初はまだデザイナーの頃の頭が切り換えられず、造本に対しても意見していましたが、4年前に「uni-curve」という作品集が出来た時には自分の想像を超える出来栄えだったので、それ以後「任せた方が断然良い」と思うようになりました。
松田:僕も、そのタイミングからは「できたよ」と渡すだけです。完全に分業になっていますね。
-松田さんは田渕さんの絵を最初に見て、どういう感想を持ちましたか?
松田:田渕の家でドローイングを見せてもらったとき、雑然といろんな所に膨大な量の絵が散らばっていたんです。A4サイズのわら半紙にバラバラ描いていたり、バサバサっと積んであったり、大きいものがあったり。大事に取っておこう、という感じではなく、生活の一部のようになってしまっている感じにわくわくしました。今思えば、あの物量を見るのは初めての経験でしたね。夜から見始めたけど朝になっても見終わらなくて…(笑)。
僕も学生時代までは絵を描いていましたが、田渕みたいな熱はないなぁ、と、改めて自覚させられました。「絵を描き続ける人って、やっぱりこういう人なんだ」と気付かされたというか。
田渕:僕は松田がデザインやっているのを見て、デザイナーを辞めようと決めました。僕は現場で覚えた技術で仕事をしている感じだったんですが、松田は考え方が学術的・体系的で僕のほうが勉強になるほどでした。仕上がりも毎回申し分なくて、いまだに近くで仕事を見られるのが嬉しいです。
-最後に、今後やりたいことや、仕事はありますか?
松田:仕事に関しては、何でもやりたいですね。年を重ねるごとに応えられることも増えていると思いますので、その都度やりがいがあります。へきちを知っていてお仕事をくださる方は、特に楽しんで一緒に進めてくださる方が多いんです。あとは、本も変わらずつくりたいですし…田渕の新作をたくさん見たいですね(笑)。
田渕:新作はもう進めているのでまたスキャンして送ります(笑)。2018年もすでに楽しみな仕事・イベントが決まり始めており、松田とも話が盛り上がっています。一つ一つ形にして仕事でも展示・ブックフェアでも、見てもらえる機会を増やしたいと思います。
へきちのお二人も出展中!
ENLIGHTENMENT PRESENT「HILLS ZINE MARKET」
会期:2017年12月5日 (金) 〜2018年1月14日 (日)
会場: 六本木ヒルズA/Dスペース(六本木ヒルズ アート&デザインストア内)
http://elm-art.com/news/?p=4117
取材・文:石田織座(JDN編集部)