直感的な操作性が、アイデアと思考を広げる
取材時、コンペの資料群と合わせて飯島さんが見せてくれたのは、卒業制作の展示の際、製本して置いていたという設計図書や、就職活動で使用したポートフォリオ。いずれも驚くほど緻密な図面が並んでいた。その上、色使いやフォントなど、細部まで完成度の高い仕上がりに驚かされた。
飯島:僕はかなり詳細まで図面を描いていくタイプなので、自分の思考スピードに手がついてきて、その手にVectorworksがついてきている。自分の思考や表現したいものにタイムラグなくツールがついてきてくれる操作性の良さは魅力だと思っています。
また、印刷表現にもかなりこだわりを持っています。Vectorworksは、色調整が自在にできるカラーパレットや、グレーの濃度を1%単位で設定できる機能、Adobe Creative Cloudのフォントがそのまま使用できたり、文字の高さや寸法の細かな補助線まで、本当に自由にカスタマイズできる点も表現する上で役立ちました。

飯島さんが見やすさにこだわった卒業制作作品「BE A GOOD SCENERY(S)」の断面詳細図
現在、修士2年に在籍する飯島さんは、大学院修了後に入社予定の企業にてすでにアルバイトとして勤務し、ほかのソフトを経験している。Vectorworksとの使い心地にどのような違いがあるかを尋ねてみた。
飯島:どちらかというとVectorworksの方が、より直感的に操作できる感覚がありますね。ほかのCADの操作は、まずコマンドを打ったり、移動ツールを選択してから動かしたいオブジェクトを移動させたり、操作までワンクッション必要です。Vectorworksなら、選択後すぐに操作できてスピーディです。
布施:たしかに、直感的に操作できるという利点はよく理解できます。何かを発想した時、手描きの場合は考えたそのままに手を動かして紙に描いていきますが、その動きに最も近いCADはVectorworksではないかと思います。
パッと思いついたままに描くことができてしまう、本当に直感的なアプリケーションと言えるでしょう。ある程度慣れたら、Vectorworks上でエスキス(下書き)ができるくらい、手と近い感覚で使えますね。
飯島:僕もVectorworksでエスキスを描きはじめることが多いです。加えて、マウスではなくトラックパッドを使って指で操作しているので、余計に手に吸い付くような感覚や、自分の脳と直接つながっているかのような使用感を感じるのかもしれません。
飯島さんが勤務先で同期となるのは、総合大学の工学部などの建築学科で学んできた学生たち。就職活動中、「美大の建築学科」で学んできて良かったと思ったことが度々あったと話す。
飯島:おもに研究メインの学科で学んできた学生は、考えてアウトプットするまである程度の時間が必要なようです。でも美大で学んだ自分は、脳内のイメージやアイデアをそれなりのクオリティでパッとアウトプットできます。
このスキルが就活の際に活きました。わずか3時間ほどの間に、設計からパースまでを完成させる「即日設計」では、まさに後者の手早くアウトプットできた方が有利だったからです。それに、大学に行くと、彫刻を彫る人がいたり、不思議なものを制作する人がいたり、いろんな創作の熱意にあふれた環境が広がっているので刺激になっていると思います。

校内の様子
変わりつづける社会の中、変わらない建築への情熱
Vectorworksは武蔵野美術大学をはじめ、各種学校やキャリアアップスクールなどのさまざまな教育の現場で活用されている。2024年からはCAD教育支援が強化され、ライセンスの無償提供が開始された。
その中の「Vectorworks学生·教職員向けライセンス」では、2025年6月から商用版の有償コンテンツと同等のクラウドサービスが提供されている。これにより今まで制限があった、iOSデバイスのLiDARセンサーを使用した室内空間のスキャン、写真からの3Dモデル生成がおこなえるようになり、クラウドベースのコラボレーションがさらに便利になる。また、「AI Visualizer」の利用も可能になり、Vectorworksのモデルや図面、あるいはテキストプロンプト(条件設定)から即座にデザインのイメージ画像生成もできるようになる。
これからのAIとの関わりについて、布施先生に尋ねた。

AI Visualizer(VECTORWORKS 2025 UPDATE 5)では、ブラシを使用した部分的な画像編集、スタイル適用の機能などにより、さらに高度なAI画像の生成が可能となった
布施:現状はまだ、授業で具体的に取り上げてはいませんが、当然ながら、AIの存在は誰もが避けては通ることのできないテーマです。どのように上手に使っていくといいのか、自然な形でAIを取り入れることができるのか、現在も検討しているところです。Vectorworksで利用できるのなら、ぜひ試してみたいです。
最後に布施先生と飯島さんに、今後、武蔵野美術大学で建築や空間を学びたい方へのメッセージをうかがった。
飯島:建築は法律やお金のことなど、制約や検討すべきことがいろいろとある一方で、人間が中に入ることのできる空間と、人命に関わるデザインに仕事として携わることもできます。その魅力はとても大きいと思います。自分のやりたいことを見つけるなり、突き進むなり、どんなことでもいいので、たった1つでも自分が好きだと思えることを発見したり、仕事として関わることができれば良いのではと思います。
布施:コロナ禍を経たいま、特にこの先5年くらいの間に、建築家を取りまく状況は大きく変わっていくのではと考えています。現在、構造設計の小西泰孝先生、建築設備設計の持田正憲先生とともに、キャンパス設計室で本学の創設100周年にむけた記念館の基本設計をまとめていますが、建築コストが格段に増加しました。コスト面を理由に、中止や延期を余儀なくされるプロジェクトの話も聞きますし、さまざまな影響が出ています。
しかしそれでも、この先どんなに変わることのないものがあるとすれば、建築に対する建築家の情熱であると思います。そして、建築家の思考が実際に建築として完成する喜びを味わえたのなら、モチベーションはますます上がります。この先一生をかけても、探求しがいのある職業だと思います。
文:Naomi 撮影:高木亜麗 取材・編集:岩渕真理子(JDN)
武蔵野美術大学 造形学部 建築学科
http://www.arc.musabi.ac.jp
ベクターワークスジャパン株式会社
https://www.vectorworks.co.jp
Vectorworks教育支援ライセンス
https://www.vectorworks.co.jp/educational-license/index.html
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