100%スイスメイドの筆記具・画材ブランド「カランダッシュ」と建築家・隈研吾のコラボレーションモデル「バリアス KENGO KUMA」が発表された。同ブランドの最上級ラインである「バリアス」は、カランダッシュの大きな特徴である、スイスの職人たちによる熟練の手作業と最高級の素材を用いた最上級のコレクションとして、2003年の発表以来、ブランドのアイコンであり続けている。
カランダッシュは、これまでにポール・スミスやピーター・マリノ、マリオ・ボッタといったデザイナー/建築家とのコラボレーションモデルを発表してきたが、隈氏は初の日本人コラボレーターとなる。
限定エディションとして発表された「バリアス KENGO KUMA」は、「千鳥格子」をモチーフとしたデザインに、日本の伝統的な素材であるヒノキが用いられおり、伝統的な技法と土地に根差した素材を用いた建築を手がけ続けてきた、隈氏ならではのデザインに仕上がっている。隈氏にとってはじめてとなるペンのデザインの過程と、「手書き」という行為が持つ意味について、お話をうかがった。
スイスの職人との協働によって生まれた「千鳥格子」のデザイン
––「バリアス KENGO KUMA」のデザインについてお聞かせください。
千鳥格子は、日本の伝統的なパターンであると同時に、ある種現代的な幾何学模様でもあります。そして今回使用したヒノキは、日本が古代から用いている、とても耐久性に優れた機能的な素材です。これらは「日本の伝統と現代の調和」という僕が目指していることにぴったりなので、今回このようなデザインで制作しました。
––カランダッシュはスイスの職人の手によってつくられていることがブランドの大きな特徴ですが、今回コラボレーションの過程ではどのようなことを感じましたか?
僕らはスイスでもかなりの数の建築をつくっていますが、スイスの職人たちのクラフトマンシップには、いつも感銘を受けています。正確でありながら、できあがってきたものから人間味を感じる。どこか温かみがあるんですね。それは、今回のバリアスを仕上げる過程でも感じました。
スイスの職人さんたちとは、何度も見本のチェックを繰り返しながらつくり上げていったんですが、僕の提案に対してとても柔軟でありながら、同時に頑固さも持っている。そのバランスもとてもいいなと思いました。
––カランダッシュにとっては、今回初の日本人の建築家とのコラボレーションとなりますが、スイスのブランドとコラボレーションする上で意識したことはありましたか?
いま、異文化の出会いというものが、クリエイションにとってとても重要な時代になっていると思います。僕が海外で仕事をする時は、日本での仕事以上に「日本とはなにか」というものを意識しますね。今回の仕事では、日本とスイスの出会いがなにを生み出すのかということを考えながらデザインしました。
––今回デザインの依頼を受けた時に、どのように感じましたか?
僕は原稿もスケッチもすべて手書きでやるので、僕にとってペンというものは特別な存在なんですね。ペンをデザインするのは今回がはじめてなんですが、カランダッシュのペンはもともと使っていたので、「自分でデザインしたペンで仕事がしたいな」と思い、引き受けました。
––実際に、ペンをデザインする過程はいかがでしたか?
千鳥格子のパターンというのは、寸法の組み合わせにいろいろな可能性があるので、どの組み合わせが人間の手にいちばんフィットするのか、寸法と人間の身体の関係を調整するのに時間がかかりましたね。
僕にとっては、小さいものも大きいものも、まったく同じ気持ちでデザインしています。小さいものの中にも社会を変えるアイデアや、宇宙に届くようなアイデアを込めることができるので、今回もわくわくしながら、大きいものと変わらないくらい時間をかけてデザインしました。
––隈さんにとって、完成の瞬間というのはどのように訪れるものなのでしょうか。
建築に限らずですが、つくり続けていく中で「あ!できた」って思う瞬間が必ず訪れるんです。これ以上迷わなくて済むと思う瞬間が、まるで降ってくるような感覚としてあるんですね。でも、それがすぐに訪れることはまずないですね。すごく時間がかかるか、すごくすごく時間がかかるかのどちらかです(笑)。今回は、すごくかかるぐらいでしたね(笑)。
––隈さんはアクセサリーやスニーカーなど、建築に限らずさまざまな領域のデザインを手がけられていますね。
いつも思ってもいないものを頼まれるんですよね。なので、「こんなのやったことないし、できるかな……」と一瞬思うんだけれど、やってみて後悔したことはないです。いままでやったことがない新しいことに取り組むことで、自分が変化できたような気がするんです。
手で書くことは、かたちを生み出すことの原点
––「21_21 DESIGN SIGHT」で開催されている「マル秘展」の中で展示されていた、隈さんの膨大な数の手書き原稿にとても驚きました。隈さんは飛行機などでの移動中、いつも原稿を書かれているそうですね。
僕が原稿を書き続けている大きな動機のひとつは、ペンを握ることで安心感が得られるということがありますね。ペンを持つことによって、自分がとても強力な武器を手に入れられたような感覚があって、それは子どもの頃から思っていたことでした。
建築というのはある意味で、いろいろな制約に立ち向かっていく戦いのようなものです。なので、ペンという武器を手に入れることで、自分の発想の力によってそういった制約に打ち勝っていけるような、そんな感じがしています。
––コンピュータではなく、手で書くということについてどのような意味を感じていますか?
僕がいまだにペンを使って文字やスケッチを書いているのは、頭で考えたことをペンを使って表現するだけじゃなくて、ペンが頭に刺激を与えて、どんどん思考が発展していく感覚があるからなんです。そこが、キーボードで文字を打つことや、コンピュータを使ってスケッチすることとの違いだと思います。僕にとって書くということはとても大切なことなので、「手書き」は仕事の中でかたちを生み出すことの原点にあります。
僕はなにかを考えている時には必ず手を動かしたり、歩いたり、身体でさまざまなリズムをとりながら考えごとをするようにしています。身体と脳というのは密接に結びついていて、身体が完全にストップしたままではものごとを考えられないのは、人間にとって考えるということや創造的行為自体が、おそらく身体のさまざまな部分を使ってやっていることだからだと思うんです。そのことを忘れてしまうと、人間は退化してしまうと思います。絶えず運動や刺激がないと身体は退化してしまいますが、思考もきっと同じだと思っています。
––「バリアス KENGO KUMA」を手にとった方に、どのようなことを感じて欲しいですか?
「弘法筆を選ばず」という言葉がありますが、実際のところ、持つペンの種類によって人は違う線を描くのではないかなと思いますね。僕がスケッチをする時も、持つペンによって違う線が出てくると思うんです。なので、このペンを手にした人が、創造力にぱっとスイッチが入ったり、気持ちが切り替わるようなことが起こってくれるといいなと思います。
「バリアス KENGO KUMA」
https://www.carandache.com/jp/ja/content/japon/ja/inspiration/articles/actualites/kengo_kuma.cfm
※オンライン販売は10月1日より開始
文・編集:堀合俊博(JDN)