- 大富部兼二 おおとんべ けんじ
デザイン本部 主査
1982年入社。入社以来、スクーターを中心とした製品デザイン一筋。2002年から台湾、2003年からはイタリアに駐在。海外での経験からこだわってデザインした「TMAX530」がレッドドット賞を受賞。
入社以来、主に二輪のスクーター系プロダクトを手がけてきた大富部兼二氏は、2013年6月に登場した新型「TMAX530」のデザインにも携わった人物だ。
スクーターの一種でありながら、オンロードスポーツタイプのバイクとして2001年に発売されたTMAXは、特に欧州での人気が高く、大型スポーツスクーター市場の約8割をも占めるという。4代目となる「TMAX530」のデザインにあたり、大富部氏はイタリア・ミラノに5年間駐在していた自身の肌感覚を活かしながら取り組んできた。
大富部:TMAXの場合、モーターサイクルのスポーツ性とスクーター(オートマチック変速)の利便性、快適性を最高の状態でバランスをとることが課題でした。国内に限らず、欧州でもユーザーの声を聞き、実際に欧州の峠道や街中を走るなど、使い方を徹底的に調査しながら新モデルのコンセプトを詰めていきました。それを車体の設計者やプロジェクトメンバーと共有することで、デザインで実現すべきことが浮かび上がってきます。
大富部:発売以来10年以上が経ち、TMAXはひとつのモデルブランドとして揺ぎ無い地位を確立してきています。ブランド=信用なので、一目でTMAXだと認識されることが非常に重要です。半面、全く新しいスタイリングであるという二律背反するような存在感を備えることがTMAXのデザインの難しいところですね。所有することで一種のプライドが満たされると同時に、ほとんどモーターサイクル並みの走りを楽しめ、さらにビッグスクーターとしての快適性を備えている。それがTMAXの最大の個性です。
オートバイのボディは、魅力的な外観だけでなく、人間との一体感が重要だと大富部氏は語る。
TMAX530に関してはさらにダイナミズムを強調する為に、凝縮感やコンパクトさをテーマにデザインが進められた。
大富部:全体的にインテグレート感が表現されるビッグスクーターの中で、TMAXはパーツの要素それぞれが独立した表現をしています。例えば“くびれ”のあるフロントによって表現される凝縮感など、エレメンタルなデザインを大切にしました。
もうひとつTMAXで表現したいのは豊かさ。いかに豊かな時間を過ごすためのツールかというのが、人とTMAXの関係です。たとえば、休日に山の中にある静かなレストランへ食事をしに行くために走らせるバイクのようなもの。おいしい食事だけでなく、そこへの道中も豊かな時間と感じさせるのがTMAXなのです。
豊かさをデザインするには、単に贅沢な素材や高価な部品を使えばいいというものではない。ディテールの処理へのこだわりなど、インテリアの質感が重要だ。
大富部:あえてデジタルではなく2針式を選択した黒いメーターでは、文字盤の表面をヘアライン処理して光が当たった時の質感を際立たせたり、針の中心部を金属調に処理したりと細部にも気を配って質感を高めました。欧州のユーザーは革製品にこだわりがあるので、シートのレザーには、バッグや靴などのステッチの技法や色選び、表面処理なども参考にしています。現代にふさわしい上質感をさらにスタイリングで追求していきたいですね。
豊かさをTMAXで表現するために目指す“上”は、まだまだ尽きない。