クリエイターとお金のはなし。―unpis

クリエイターとお金のはなし。―unpis

本企画では、さまざまなクリエイターに「新人時代の仕事と暮らし方」、「仕事の選び方とお金の関係」「仕事道具でお金をかけるもの」など、デザインやアート業界であまり取り上げられない“お金”をテーマにお話をうかがいます。

また、各国と比較してクリエイティブにあまりお金をかけない風潮がある日本において、どうしたらデザインにお金が支払われるようになるのか、クリエイターの地位が向上するのかなど、デザイン業界のいまとこれからを少しだけ一緒に考えるコラムにしたいと考えます。

今回お話をうかがったのは、イラストレーターのunpis(ウンピス)さん。大胆な輪郭線と少しにやりとしてしまうシュールな世界観の作品は、ルミネをはじめ、さまざまな企業やブランドの広告イラスト、書籍の表紙や洋菓子ブランドのパッケージなど多くの場所で目にすることができます。最近では夏フェスの公式Tシャツやアップサイクリングブランドとのコラボ商品など、多岐にわたって活躍するunpisさんにお話をうかがいました!

■駆け出しの頃

イラストの作品を発表しはじめたのが2017年頃で、はじめは会社員をやりながら活動していました。イラストレーターとして独立したのは2020年で、SNSを中心に作品を発表していたこともあり、投稿がきっかけで徐々に仕事の依頼が来るようになりました。本当にSNSさまさまです…!

unpisによる「SWEET LOVE SHOWER 2023」の公式Tシャツ

unpisさんが最近手がけた「SWEET LOVE SHOWER 2023」の公式Tシャツ。富士山のふもとで開催されることから、富士山や人が集まるイメージで描いたそう
https://www.sweetloveshower.com/2023/goods/index.html#detail=016627.html

あと、知人や友人から仕事を紹介してもらうこともありました。はじめて個展をおこなったPARK GALLERYのオーナーがグラフィックデザインもしていて、個展後にご依頼をいただくなど、人に助けられることが多かったです。

お金の話で言うと、いま考えると失敗したなということはけっこうありますね。フリーランスだと教えてくれる人がまわりにいないので、お金も契約関係も全部手探りでした。作家同士で意見交換しあえるコミュニティがもっと増えるといいのですが…。

■軌道に乗った、印象に残っている仕事

ファッションイラストレーション・ファイル』の仕事が印象に残っています。これはイラストレーターの年鑑で、私は2020年版の表紙を担当させていただきました。

イラストレーターの方はもちろん、デザイナーの方も多く見ている書籍なので、「見ました!」と言ってくれる人が多かったです。独立して最初にリリースした仕事ということもあり、特に印象に残っています。

■仕事を選ぶときの基準

自分が描く理由があるとか、強い思いでご依頼いただいたことがわかると特に受けたいと感じます。いままでの作品を見てくれているなとか、作風をわかっていただき、その上で頼んでくれていると感じるとうれしいです。

あとは最近で言うと、「ノープラスチックサンデー」のように自分がまだやったことのない素材だったり媒体だったりするとすごく興味が湧きます。特にプロダクト系の仕事はうれしいですし、パッケージなどもそうですね。

韓国のプラスチックアップサイクリングブランド「ノープラスチックサンデー」のポップアップショップに合わせてつくられた、鏡としおり

韓国のプラスチックアップサイクリングブランド「ノープラスチックサンデー」のポップアップショップに合わせてつくられた、鏡としおり。しおりは本に挟む部分は平面的で、飛び出す部分だけ立体的になっているのが特徴的

■いま実践している仕事の進め方

デザイン事務所に勤めていた時に社内でGoogleカレンダーを使っていて、そこからずっと使っています。忘れっぽいこともあり、けっこう細かくスケジュールを立てないと安心できなくて、「何日の何時にこの案件をやる」と、全部記入しています。そうするとスケジュールがはみ出しづらく、どの仕事に何時間取っていいのかがわかるので、作業時間の目安にもなっています。

unpis作品集「DISCOVER」

unpisさんのはじめての作品集『DISCOVER』
http://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=46100

■仕事や趣味でお金をかけていること

仕事と趣味どちらにもあてはまりますが、本はあまり値段を気にせず買っています。特に展示に行ったときは毎回と言っていいほど図録を買っていますね。自分の本棚にあるとすぐ目に入るので、アイデアに悩んだ時は参考にしたり。

unpisさんの本棚

unpisさんの本棚

本は電子版で買うこともありますが、気に入ったものは紙のものを選びます。手で持って見た方が記憶に残るし、パラパラめくって見れるのもいいと思います。

休日は友達と一緒に展示を見に行っていることが多いかもしれません。それか1日中寝ているかですね(笑)。

■自分なりの交渉術

イラスト料の基準はざっくりはありますが、明確には決めていません。以前に受けた仕事の経験などをもとに相談することが多いです。仕事によりますが、イラストレーションの相場は低めに設定されているように感じています。業界全体の価値を高めていければという気持ちで(自分の今後のためにも…)、基本的には金額交渉は積極的におこなうようにしています。

■日本がクリエイティブにお金をかける社会になるためには?

難しい質問ですが、家に絵を飾るとか、自分のために花を部屋に飾るなど小さなところからかなと思います。こういうことは「贅沢」や「娯楽」として捉えられてしまったり、アートやインテリアに特別興味がある人しかやらなかったりするイメージがあると思うんですが、そうじゃない人ももう少しデザインやアートを生活の中で感じられるようになるといいのかなと…。

最近はSNSでいろんな作家やアーティストの作品も見られますし、若い人も家に絵を飾ることが増えているような気がします。絵や花を一度飾ってみると、生活の中でそれらが目に入ることの良さみたいなものを実感できると思うので、そうした日常もっと一般的になると、少しずつ変わっていくんじゃないでしょうか。

Where will you go?(個展『PLAY ALL』より)木製パネルにアクリルガッシュ、スプレー

Where will you go?(個展『PLAY ALL』より)
木製パネルにアクリルガッシュ、スプレー

たとえば、災害が起きた時などに、デザインやアートって真っ先に切り捨てられるものというイメージがあると思うんです。私は福島出身なんですが、大学に入った年に東日本大震災が起きました。それから、社会が少し落ち着いてきた頃に大学で「被災地に向けてできるデザインを考える」という授業があって、親にどういうものがほしかったか聞いてみたんです。

「地震が起きてまわりにあるものがシンプルで簡易的なものが多くなってしまった。ちょっとしたことだけど、非常食のパッケージに可愛い絵が描いてあったら、それだけでも癒されていいなと思う」と、話してくれました。デザインやアートって不要といえば不要なことだけど、そういうちょっとしたことが癒しや喜びにつながるんだと実感しました。

アートやデザインの必要性や心に与える影響みたいなものが、もう少し大きく見てもらえるようになったらいいなとは思います。まずは好きな作家の展示に行って、ポストカードを買うといったところから取り入れてみるのもいいかもしれませんね。

タイトルイラスト:小林千秋 取材・編集:石田織座(JDN)

unpis

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広告や書籍、パッケージ、壁画などさまざまな分野で活動するイラストレーター。フラットで落ち着いた雰囲気の絵の中に、想像力を呼び起こすシーンを描いている。
https://www.instagram.com/wa_unpis/