デザインの立ち話-「DESIGN with FOCUS デザイナーの冒険展」で感じたこと

デザインの立ち話-「DESIGN with FOCUS デザイナーの冒険展」で感じたこと

こんにちは、山崎です。ご無沙汰しております。実は、2025年4月半ばにJDNの親会社である丹青社に戻りました。

JDNは丹青社の社内新規事業として1997年にはじまったもので、私は創業メンバーの一人です。丹青社は空間づくりの会社で、住宅以外のあらゆる領域の空間についてデザインと制作をしています。丹青社に戻り、この半年ほど改めてさまざまな空間づくりや空間デザインの最前線に接しています。デザインについて新しい視座を得られて、なかなか面白いです。

所属は丹青社ですが、今後も時折コラムを更新したり、取材に出たりすることもあるのでJDNとはご縁が続いていきます。

若きクリエイター11組の挑戦

さて、私の近況はこれくらいにして、気になる展示がはじまりましたので紹介します。富山県美術館で2025年11月8日からスタートした、「DESIGN with FOCUS デザイナーの冒険展」です。会期は2026年1月25日までです。

「DESIGN with FOCUS デザイナーの冒険展」展示会場入口。会場構成も手がけたMARU。architectureの展示「思考のトンネル」から展示がはじまる

本展は、20代から40代のデザイナーやアーティスト、建築家など11組のクリエイターによる展覧会です。既存の枠にとらわれず、実験的で独創的なアプローチを通じて、創造性の可能性を拡張しようとする若きクリエイターたちの挑戦を紹介しています。

駆け足でしたが、久しぶりに会う方とお話ししたり、展示の趣旨をお聞きしたり、充実した時間でした。展示の様子を一部ご紹介します。

■MARU。architecture(建築家 高野洋平、森田祥子)

自分たちの作品を出発点に、会場構成を設計するプロセスを示した「思考のトンネル」

「思考のトンネル」の思考のはじまり

■氷室友里(テキスタイルデザイナー/アーティスト)

布にハサミを入れることで柄をアレンジできるテキスタイル「SNIP SNAP」

■光井花(テキスタイルデザイナー)

福岡県筑後の掛川織にピクセル的な特徴を見出し、イグサを使って表現した「PIXEL WEAVE – イグサプロジェクト – 」

■本多沙映(デザイナー/アーティスト)

富山県で採れた、磯焼けの原因の一つとなる身入りに難があるウニの殻を活用した、釉薬表現の可能性「Rebuilding Ocean Hue(海の色彩の再構築)」

■三好賢聖(デザイナー/デザイン研究者)

無意識に他者や物体の動きに共感するという習性に着目し、自身の研究をもとに開発した、深呼吸を促し習慣化する卓上オブジェクト「シンコキュウ」

■三好賢聖+青沼優介(アーティスト/デザイナー)

雲間から差す日の光のような気配をかたちづくった照明作品「光をそそぐ」

■松山真也(プランナー/デザイナー/エンジニア/アーティスト)

楽器を鳴らすように誘う装置が5つあり、いつの間にか合奏が発生する「音と音楽」

■山本大介(空間デザイナー)

商業空間で使われる内装下地材LGS(軽量鉄骨)を再構築した家具「FLOW – PAINTING」。今回はさらに化学反応で素材自体の色を変化させた。ステンレスの端材を敷き詰めた台座が、コンセプトをより明瞭に伝えている

■進藤篤(デザイナー/アーティスト)

空間に曖昧な輪郭を描くインスタレーション、“感知できるか否かの境目”という意味の「LIMINAL」。ミラノサローネサテリテではブース2コマを用いて展示していたが、美術館という場所でより理想的な状況での展示となった

■後藤映則(アーティスト)

“歩行”をモチーフにした複数作品を一筋の光の下に集めた「Heading – in flux」

■[特別展示]鈴木啓太(PRODUCT DESIGN CENTER 代表/プロダクトデザイナー/クリエイティブディレクター)

“KASANE”をコンセプトとする鉄道車両のデザイン、2029年春導入予定「城端線・氷見線 新型車両」

今回参加者のなかで最年少となったのが、次に紹介するMAI SUZKIさんです。彼女の展示をはじめて見たのは2022年、デザインウィーク中の東京・赤坂の古いビルの2階の一角でした。真っ暗な部屋に組子でつくった大きな立体のオブジェがあり、照らし出されて影が広がっていました。

■MAI SUZKI(Sculptor of Sensibility)

今回の富山県美術館での展示の様子。日本の感性”粋”をさまざまな視点で探求し、組子でつくったオブジェで空間を構成する「YOSHIZUKUSHI」

組子というと普通は平面ですが、組子で球体をつくる島根県の職人と出会い、その技術を学んで作品をつくっていると聞きました。翌年「DESIGNART TOKYO」のUNDER 30に選出され、AXISのJIDAデザインミュージアムで展示されました。

現在はロンドンに拠点を移し、舞台美術やコスチュームに取り組んでいるそうです。新作とともに、これまでの歩みをまとめて美術館で展示できたという今回。不安もあったが良い経験になったと喜んでいた顔が印象的でした。日本の伝統工芸で新たな表現に挑む彼女の今後の活動が楽しみです。

MAI SUZKIさん、富山県美術館の自身の展示前にて

なお、本展のキュレーターは、桐山登士樹さんと川上典李子さんです。桐山さんは富山県美術館の副館長で富山県総合デザインセンター所長、JDNでは長く「注目のデザイナー」コーナーを担当いただきました。川上さんは富山県美術館のディレクターで、『AXIS』誌の元編集長、21_21 DESIGN SIGHTのアソシエイトディレクターです。

桐山さんは2022年に、ここ富山県美術館で「デザインスコープ―のぞく ふしぎ きづく ふしぎ」を企画。川上さんは2023年に京都市京セラ美術館で「跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー」を手がけています。いずれもデザインを軸に据え、注目の若手・中堅が集うグループ展として高い評価を得た企画です。あれから約3年が経ち、久しぶりに美術館でデザインを切り口とするグループ展が開かれることとなりました。

美術館という場所、富山という場所

今回拝見したクリエイターのみなさんは存じ上げている方がほとんどで、東京やミラノで見たことのある作品も多いのですが、それらについても感じ方が何か違いました。

何が違うのか考えてみると2つあり、ひとつは美術館という展示空間の影響でしょうか。ホワイトキューブの空間だといままで気づけなかったディティールを発見できます。また、前後の展示との共鳴、文脈も感じやすい。これについては参加したクリエイターたちからも同様の言葉を聞きました。

美術館の隣の環水公園、訪問した日は晴天に恵まれ、色づき出した紅葉がきれいでした

もうひとつは、富山という場所の影響かもしれません。新幹線で2時間少々と、東京からだと大阪よりも近い富山。新幹線の中ではスマホやパソコンを相手に東京と変わらない過ごし方でしたが、駅に降り立ち、空気の違いを感じ、歩き出して立山連峰が見えてくる頃にはモードが変わっていきました。

美術館が隣接する環水公園のきれいな自然に見惚れながら、美術館に到着。茶道の路地のようなものでしょうか、鑑賞態度が自ずと変わっていったように思います。

環水公園の美術館にいたる道には、同館のマスコットキャラクター「ミルゾー」のオブジェが並ぶ

そして、新作を展示している方や、これまでの作品のバージョンアップ版を展示する方、ここ数年の集大成的な展示をされている方もいるので、訪問したプレビューの時間枠だけでは足りなかったほどでした。

年末年始を除くほぼ毎週、参加クリエイターなどのトークがあるので、旅程をご検討の際におすすめなのは土曜日です。みなさんも私が感じたような新鮮な発見ができるのではないでしょうか。では、また。

■DESIGN with FOCUS デザイナーの冒険展
会期:2025年11月8日(土)~2026年1月25日(日)
会場:富山県美術館
https://tad-toyama.jp/exhibition-event/19831