アイデアの神様にサヨナラ

アイデアの神様にサヨナラ

こんにちは。minnaの長谷川です。

最近は、大学や専門学校で授業をすることや、トークショーなどにお声がけいただく機会が多いのですが、その際に、ほぼ100%と言っていいほど聞かれるド定番の質問があります。

「アイデアを出すコツってありますか?」
「アイデアが尽きることはないんですか?」

など、アイデアを発想することについての不安や苦手が垣間見られる内容です。多くの人が気になるアイデア誕生~活かし方について、今日は書いてみようと思います。

「なんとなく感じたこと」はアイデアの原石かも?

まず、アイデアというものは突然閃き、空から降ってくるようなものだと思っている方も少なからずいるようですが、残念ながら僕はそんな奇跡に遭遇したことはありません。

いつかアイデアが降ってくるだろうという運にまかせて仕事をして、もし天に見放されてしまったらすべておしまいです……。そんな博打をするほど勇気はないので、必要な時に自分の中からアイデアが出せる準備をしています。

準備をしているというと、大袈裟に聞こえてしまいますが、“日常生活+α”くらいの話です。具体的に何をしているかというと「なんとなく感じたことを、なんとなくで終わらせない」ことです。

少しわかりにくいかもしれませんので、例を挙げて説明してみます。

仕事帰りにスーパーで買い物をしている時の話です。例えば、豆腐コーナーにて。「この豆腐なんか美味しそうだな、買ってみよう!」と思ってカゴに豆腐を入れて、次の売り場に向かう……というのは普通の買い物のワンシーンだと思います。

「なんか美味しそう→商品購入」のような、ちょっとした判断の連続で日常は成り立っていますが、この言語化されていない「自分のなんとなくの感覚」を分析するのがアイデアを出すために、ものすごく重要なエッセンスになります。

分析すると言っても、商品を手に取るたびに考えていたら買い物が終わらず、角田にしかられて(笑)しまうので、僕の場合は、ほんの一瞬だけ自分に問いかけている感じです。

何が自分に美味しそうって感じさせたんだろう?

他とは違う個性的なパックの形?筆文字ロゴから丁寧な手づくり感やこだわりを感じたのかな?いや、豆腐そのものじゃなくて店員さんの手書きPOPの影響?思わず手に取りたくなるディスプレイの効果?……などなど、考えるといろいろな要素が影響していそうです。

ここで一番大切なのは「なんか美味しそう」という感覚を分析して、自分なりに結論を出しておくことです。僕の「なんか美味しそう」を分析してみたところ、このような感じで結論が出ました。

・他商品のパッケージと違いがあると気になる存在になる
・手書きの文字(豆腐の場合は筆文字が多い)は手づくり感が感じられる
・筆文字は視覚に訴えかける力強さもある
・顔の見える店員さんのおすすめは信頼できる
・積み上げられたディスプレイだと思わず手に取りたくなる

これらの結論は、一般的な正解ということではなく、あくまで自分の感覚に素直なことが大切です。「なんとなくの感覚」を「自分なりの結論」として言語化し、これらを集積させることでアイデアソースになっていくのです。

慣れないうちは、頭が疲れるかもしれませんが、続けているうちに自然と考える癖がつくようになると思います。まさに継続は力なりですね!

minnaの事例:日常生活が支えるアイデアソースを活用する

どの仕事も日常生活をベースにしたアイデアに支えられているのですが、わかりやすい事例をひとつ紹介したいと思います。

日本橋三越本店で3フロアに渡り開催された「京都ものづくり~REAL KYOTO NEW KYOTO~」というイベントの案件です。minnaでは、コンセプトメイクから、イベント空間、ロゴ、リーフレットのデザインを担当しました。

「昔ながらの和」ではなく、「今/REAL」と「これから/NEW」の京都のものづくりを知り、体験していただくイベントでした。日本橋三越のメイン顧客層は中高年の方々ですが、より若い世代にも来店してもらうために、顧客層を拡大することも狙いとして設定されていました。

「京都×日本橋三越」「REAL×NEW」「イベント×お客様」など、たくさんのコラボレーションによってつくり上げるイベントということで、全体のデザインコンセプトは「crossing/交差点」としました。

また、「京都の碁盤目状の街並み」や「盛んな繊維業」といった要素も、「crossing」というコンセプトと相性が良いと感じました。3フロアが連動したイベントだったので、館内を回遊するために、「コンセプト:crossing」から考えてクロスワードパズルを作成し、答えを探すことで自然とフロアを回遊し、京都のことを知ることができる仕かけになっています。

「crossing」というコンセプトを表現し、印象に残る空間やビジュアルをデザインするために、今までストックしてきたアイデアソースと、今回の案件の目的や条件を組み合わせて実現させました。

【京都ものづくりで活用したアイデアソースの例】
1.京都といえば碁盤目状の街並みが特徴
 →<角田と京都旅行に行った時に>
2.布(繊維)は縦糸と横糸でつくられている
 →<アイロンをかける時に改めて>
3.中高年の方はクロスワードパズルが好きな人が多そう
 →<自分の祖母や父、電車での光景から>
4.ランプシェードが変わると空間の印象がかなり変わる
 →<新しい照明を購入した時に>
5.重力に反発しているものは気になって目に入りやすい
 →<鯉のぼりが風に吹かれる様子を見て>

マーク部分で、コンセプトである 「crossing」を表現し、京都の碁盤目状の街並みや、繊維の縦糸横糸のイメージも感じられるように意識しました。カラーについては「昔ながらの和」や「京都」では無いものの、どこかに少し「和」や「京都」を感じさせつつ、 新しい印象も与えられる配色としました。

「イベント全体の目的」を達成するために「1.(碁盤目状の街並)+2.(繊維の縦糸横色)」をアイデアソースとして活用し、ロゴをデザインしました。

紙の端を繊維の糸がほぐれたような印象で型抜きしたリーフレットです。少し変形しているだけでも、手にとってもらえる確率が高まるので、細部にこだわりを詰めました。イベントの全体紹介とあわせて、背面に3フロア回遊のための仕かけであるクロスワードパズルを入れています。

中高年のお客様が多いという日本橋三越で、3フロアを回遊していただくために、「3.クロスワードパズル好きな中高年の方々」を組み合わせて、リーフレットの紙面企画、デザインを行いました。

京都の定番モチーフ(障子、軒、犬矢来、のれん)をビジュアルと連動させた空間構成とすることで、 知っている京都とは少し違う、新たな可能性を感じていただけるように意識しました。

会場全体の構成としては、京都の街並みを想起させるような構成になっており、「4.ランプシェード+5.重力への反発」を活かして、角度を付つけたバナーで「軒」を感じさせる演出をしたり、行灯のような雰囲気もあるオリジナルランプシェードを紙で作成しました。

デザイナーである前に、良き生活者であれ!

細かく挙げていくとキリがないのですが、メインの要素はこのような考え方でデザインしています。

案件のためのリサーチなどはもちろん行った上でデザインしますが、それだけだと何のオリジナリティも無いアウトプットになりかねません。アイデアの幅広さや独自性は、自分自身の日常生活と密接に関わっていることは明白です。毎日の暮らしを新鮮な感覚で捉えて、考え続けていれば、アイデアが枯渇することはありません。

困った時にすがりたくなる、アイデアの神様なんてどこにもいません(いたら嬉しいけど)!
当たり前の日常の中には、キラキラ輝くアイデアの原石がゴロゴロと転がっています。パソコンの前で作業するのも重要ですが、デザイナーである以前に良き生活者であれ!と心底思います。

さて、今日の晩御飯はなにかなー。

minna

minna(デザインチーム)

2009年、角田真祐子と長谷川哲士によって設立。
デザインをみんなの力にすることを目指し、ハッピーなデザインでみんなをつなぐデザインチーム。「想いを共有し、最適な手段で魅力的に可視化し、伝達する」一連の流れをデザインと考え、グラフィックやプロダクトなどの領域に捉われない活動を様々な分野で展開している。
昭和女子大学非常勤講師、武蔵野美術大学特別講師。グッドデザイン賞、日本パッケージデザイン大賞金賞、SDA賞 優秀賞、キッズデザイン賞、TOPAWARDS ASIAなど他受賞多数。
minna-design.com/