第25回:独創的な「綴じ」の絵本

第25回:独創的な「綴じ」の絵本

今までにさまざまなしかけ絵本を見てきましたが、今回紹介するのはちょっと見たことがないような独創的なしかけ絵本。「綴じ方」を探求する立体絵本工房「新綴(しんとじ)」が制作した絵本『PAPER TRIP -SPAIN-』です。

絵本『PAPER TRIP -SPAIN-』表紙画像

絵本『PAPER TRIP -SPAIN-』の中面の画像 写真提供:新綴(この写真を含む以下4点)

写真提供:新綴(この写真を含む以下4点)

こちらがその絵本。ページをめくるとスペインの名所をモチーフにしたポップアップが飛び出してきます。6枚の色紙(ミューズコットン)をレイヤー状に重ねることによって、奥行きのある風景を再現。紙の層が重なり合い、絵本の中に立体的な空間が現れます。「のぞき絵」のような仕組みですが、しかけが1つだけではなく、いくつも連なって展開していくのが特徴です。

『PAPER TRIP -SPAIN-』の中ページ「セゴビアの古城」

『PAPER TRIP -SPAIN-』の中ページ「セゴビアの古城」

マドリードの宮殿。衛兵交代式の様子を切り絵で表現

マドリードの宮殿。衛兵交代式の様子を切り絵で表現

アントニ・ガウディの代表作「サグラダ・ファミリア」

アントニ・ガウディの代表作「サグラダ・ファミリア」

この画期的な綴じ方は「風車綴じ」というそうで、新綴がオリジナルで開発したもの。本をめいっぱい開いて横から見た姿が、風車の羽根に似ていることから、そう名付けたそうです。

初めてこの絵本を見たとき、絵柄の繊細さや綴じのおもしろさに圧倒されました。どのようにつくっているのか制作方法をお聞きしたところ、カット以外はすべて手作業だとか。まず、Adobe Illustratorで設計図を作成し、紙をプロッターでカットしたあと、1枚ずつ手で組み立て、最後にページを糸で綴じて完成。プロッターでの切り出し時間を含め、1冊つくるのに5時間くらいかかるそう。手作業でないとできないような繊細な作品です。

絵本『PAPER TRIP -SPAIN-』柵や窓の細かい造形も再現されている。

柵や窓の細かい造形も再現されている。

絵本『PAPER TRIP -SPAIN-』接着剤は使わず、紙を差し込んで固定する。

接着剤は使わず、紙を差し込んで固定する。

作者の高野拓也さんは大学生のときにいろいろな綴じ方を研究。大学卒業後、その綴じ方を活かした作品づくりをしたいということで、奥様の高野櫻さんとともに「新綴」という屋号でオリジナルの絵本づくりを始めたそうです。

「新しい構造や珍しい構造をつくりたいという思いからスタートした新綴ですが、作品をつくっていく中で感じたのは、内容に対して構造が先行してはいけないということです。構造はあくまで、物語やモチーフの引き立て役であって、それより目立ってしまうのであれば、それは関係がうまくいっていないのだと気づきました。ですので、作品を制作する際はつねに、この構造だからこそ意味があるという本になるように心がけています」(新綴・高野さん)

新綴は、絵本『SUE かわうそスーのぼうけん』で、第52回 造本装幀コンクールの「日本印刷産業連合会会長賞」を受賞。「蓮華綴じ」という独特な綴じ方だけでなく、絵本としてのクオリティも高く評価されました。

今までに紙自体の素材や加工のおもしろさが光る作品を紹介してきましたが、「綴じ方」に着目した作品は初めてかもしれません。まだ見たことがない綴じ方がこれから登場しそうで、とても楽しみです。

新綴
https://shintoghi.com

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宮後優子(グラフィック社)

宮後優子(編集者/Book&Designディレクター)

宮後優子(みやご・ゆうこ)
編集者/Book&Designディレクター。東京藝術大学で美学美術史を学んだ後、出版社の編集者に。デザイン専門誌『デザインの現場』編集長を経て、文字デザイン専門誌『Typography』を創刊。デザイン書編集者として20年近く活動。デザイン関係の雑誌・書籍・ウェブサイトの編集のほか、イベントやワークショップなどの企画・運営を行う。
http://typography-mag.jp
http://book-design.jp