非日常を踊る 第9回:東海大学チアリーディング部

非日常を踊る 第9回:東海大学チアリーディング部

2020年春、新型コロナウイルス感染症の影響で1回目の緊急事態宣言が発令され、文化芸術活動にかかわる人たちは大幅な自粛を余儀なくされた。フォトグラファーの南しずかさん、宮川舞子さん、葛西亜理沙さんの3名が、撮ることを止めないために何かできることはないか?と考えてはじまったのが、表現者18組のいまを切り撮るプロジェクト「非日常を踊る」だ。

コンセプトとして掲げられたのは「コロナ禍のいまを切り撮ること」と「アートとドキュメンタリーの融合写真」という2つ。プロジェクトは、タップダンサーやドラァグクイーン、社交ダンサー、日本舞踊家などさまざまなジャンルのダンサーがそれぞれの自宅や稽古場という「裏舞台で踊る姿」を撮影した、2020年を反映するパフォーマンスの記録となった。

本コラムでは、フォトグラファー3名が想いを込めてシャッターを切った写真と、南さんが各表現者にインタビューした内容を一緒に紹介していく。今回は、2020年11月に撮影を行った、東海大学チアリーディング部の写真とインタビューを紹介する。

東海大学チアリーディング部/チアリーディング(撮影:南しずか)

1983年に創部した東海大学チアリーディング部、チーム名は「FINE」。活動場所は神奈川県平塚市の東海大学湘南キャンパスだ。これまでの最高成績は「全日本学生選手権大会」優勝(1995年)、「JAPAN CUP日本選手権大会」優勝(1996年)。大会の成績だけでなく、見てくれる人を元気にする演技を目指している。

撮影時のユニフォームは応援用のもので、青×白の東海カラー。大会用は、黄色×黒のユニフォームで演技を行っているという。

体育館の中央にチアリーディングの部員がギュッと集まった。リズムに合わせて部員一丸となり、両手に持ったポンポンで文字をつくり出す。一文字ずつ変えるごとに、みんな元気よく声を出した。

「インスタ!発表会!コロナに負けず、頑張ろー!!」

2020年11月20日の夕方。東海大学チアリーディング部は、翌日の本番に向けて演技を仕上げていた。この年はコロナ禍の影響で、ほかの部活の応援やイベントの出演などほとんどの活動ができなかったため、そのかわりにオンラインで発表会を行った。その演技は、2020年度の部員みんなで披露する、最初で最後の演技となった。

チアリーディングとは、アメリカンフットボールや野球などほかのスポーツの応援からはじまった、表現を競うチームスポーツのこと。国内では1988年に第1回日本選手権大会(以下、ジャパンカップ)がスタートし、東海大学チアリーディング部はその5年前に創部した由緒あるチームだ。

撮影のポーズを確認するカメラマンの南さんと、東海大学チアリーディング部のみなさん。

2020年度はそのジャパンカップの決勝進出を目標に定めていたが、状況が一変。政府が1回目の緊急事態宣言を発令したことにより、大学サイドから活動休止の連絡を受けた。例年通り大会があるのかどうかもわからなかったため、その当時4年生で主将だった鈴木七海さんは「何を目標にしたらいいのか……」と戸惑ったという。

そんな先行き不透明の中、新入生の勧誘という難題に直面。いつもなら新歓のピークは入学式前後だが、授業開始が1カ月ほど延期され、ほとんどの授業はオンラインに切り替わり、1日あたりの構内の学生数も制限された。2万人以上の学生が通う東海大学湘南キャンパスは閑散とし、通常の勧誘はできなくなった。そこで、4年生の主務がSNSを駆使し、新入部員を募った。

最も効果を感じたのは、インスタグラム。部員の紹介やおもな活動など、まめに情報をアップした。インスタライブで説明会も実施したところ、「興味あります!」「体験に行きたいです!」と新入生から反応があった。そこで、実際に体験や見学に来てもらい、最終的に8人が入部した。鈴木さんは「思ったより入ってくれて、嬉しかったです」と、笑顔を見せた。その8人の中で、最後に入部したのは則田瑠々さん。

則田:同じ学科の友人と電話で話していた時に、話の流れでチア部に入っていることを知らされて、えっ!と驚きました。もともと興味があったものの、同部のインスタの存在を知らず、どの部活も活動休止中と思いこんでいたんです。さらにほぼすべての授業はオンラインのため、友達同士でも会って情報交換する機会がなくて……。入学から約半年後の9月下旬に入部しました。

活動休止から約4カ月後、練習再開の許可が出た。まずは週2日、神奈川県在住の部員だけが集合し、体育館や部室の大掃除からはじめた。感染症予防対策として、一度に集まる人数を10人以下に制限。体育館に入る前の手指の消毒、および検温と記録を徹底し、体育館の使用中にはドアや窓を開けた。週1の筋トレはLINEを利用して、各自が自宅から参加した。

週を追って、神奈川県に下宿している地方出身の部員、そして最後に都内在住の部員が合流した。それでも密を回避するため、2グループに分かれて練習した。それから、約1カ月半後、やっと全員での練習が認められた。

鈴木:またみんなでチアができることが嬉しかったです。みんなで何か一つのことができるようになって、一緒に喜べることがチアリーディングの良さなんですよ。一人だけでは、そもそも練習すら成り立ちませんから。

インタビュー中の様子

コロナ禍での練習の様子

一時は開催そのものが危ぶまれたジャパンカップは、夏から11月上旬に開催時期をずらした。10月初旬に、その地区予選となる関東選手権大会が開催された。

両大会の開催は喜ばしいことだが、無情にも、コロナ禍は演技の要素や出場者数にも影響をおよぼした。出場者数は通常の半分の8名まで。関東選手権大会では、スタンツとピラミッド(複数人で組体操のように人を乗せたり飛ばしたりする技)が禁止された。つまり、チアリーディングの最大の見せ場がなくなった。その一方で、東海大学は、ジャパンカップでは5人1チームという少人数ながら、スタンツが演技内容に組み込まれたスモールグループス部門と新設されたチアリーディングスピリッツ部門にエントリー。いつもの大会とはまったく別の演技を組み立てることになった。

例年ならジャパンカップで最高の演技をするため、1年間かけて技の難易度を上げていく。いろいろなことがイレギュラーすぎるが、できる範囲でやるしかない。関東選手権大会で鈴木さんは、チームメイトとともに東海大らしいキレイなダンス、キレイなモーションに挑んだ。

対して、ジャパンカップではスモールグループス部門に出場。本来のポジションであるベース(スタンツの上の人を飛ばしたり、支えたりする役割)を全うした。結果は、スモールグループス女子 DIVISION1 大学部門8位、87.0点。

鈴木:久々にスタンツを上げて、ミスなく終われたことが本当に嬉しかったです!もう、やり切って悔いはなかったです。私は高1からチアをはじめましたが、ここは自分が一番輝ける場所でした。好きなものだと辛いことがあった場合、逃げそうになると思うんですね。でもそういう好きとか嫌いとかではなくて、自分の居場所だから続けることができました。

2020年11月21日、インスタライブ発表会。ジャパンカップでの演技も含めて、少人数で構成された5チームが、順番に演技を披露した。東海カラーのユニフォームに身を包んだ部員たちが、息の合ったパフォーマンスを見せた。最後の演技では、次々と側転やバク宙を繰り出し、複数のスタンツを一度に決めた。みんなのそろった声が体育館に響き渡った。

「画面の向こうの皆さんに、元気と笑顔を届けます!」

チアリーディングの語源は、「Cheer=励ます」+「Leading=先頭に立って」ということ。
1年生の浅賀桃香さんは、入部して感じたことを教えてくれた。

浅賀:何か応援するスポーツをやってみたかったので、その立場に回れたことが嬉しいです。(その一方で、)いろんな部活の応援に行けないことはすごく悲しいです。

予想だにしなかったキャンパスライフ。コロナ禍がおよぼした学生への影響は計り知れない。それでも、自分たちのできる範囲で、最高のパフォーマンスをつくり上げた。2020年度のチア部みんなで披露した、最初で最後の演技。画面越しでも、みんなの笑顔は十分輝いていた。

取材・執筆:南しずか 写真1~2枚目:南しずか タイトルイラスト:小林一毅 編集:石田織座(JDN)