非日常を踊る 第10回:シュミッツ姉妹

非日常を踊る 第10回:シュミッツ姉妹

2020年春、新型コロナウイルス感染症の影響で1回目の緊急事態宣言が発令され、文化芸術活動にかかわる人たちは大幅な自粛を余儀なくされた。フォトグラファーの南しずかさん、宮川舞子さん、葛西亜理沙さんの3名が、撮ることを止めないために何かできることはないか?と考えてはじまったのが、表現者18組のいまを切り撮るプロジェクト「非日常を踊る」だ。

コンセプトとして掲げられたのは「コロナ禍のいまを切り撮ること」と「アートとドキュメンタリーの融合写真」という2つ。プロジェクトは、タップダンサーやドラァグクイーン、社交ダンサー、日本舞踊家などさまざまなジャンルのダンサーがそれぞれの自宅や稽古場という「裏舞台で踊る姿」を撮影した、2020年を反映するパフォーマンスの記録となった。

本コラムでは、フォトグラファー3名が想いを込めてシャッターを切った写真と、南さんが各表現者にインタビューした内容を一緒に紹介していく。今回は、2020年9月に撮影を行った、シュミッツ姉妹の写真とインタビューを紹介する。

シュミッツ姉妹/ヨガインストラクター、モデル、ダンサー(撮影:葛西亜理沙)

1992年1月1日に一卵性双生児としてアメリカで生まれた、日本人とアメリカ人のミックスであるシュミッツ姉妹。その後日本に移り住み、新体操選手として全日本jrオリンピック選手権大会で優勝などの結果を残している。

姉の恵利香さんは、高校時からダンサーに転向し、名前と実力のあるダンサーしか出演できないLAカーニバルなどに出演。現在はヨガインストラクター、モデル、ダンサーとして活動を行っている。妹の茂仁香さんは、高校時代は陸上部、大学時代はストリートダンスに熱中し、卒業後はコンテンポラリーダンスに目覚めて安室奈美恵のバックダンサーを務めたり、モデルとして東京ガールズコレクションに出演したりと幅広く活動している。

撮影は、都内のヨガスタジオで行われた。左が姉の恵利香さん、右が妹の茂仁香さん。

取材をオンラインで行った今回、開始7分前にパソコンの真っ暗な画面がパッと切り替わり、シュミッツ姉妹が映し出された。一卵性双生児の2人は、クリッとした大きな目や顔の輪郭がそっくりだ。姉の恵利香さんはショートヘアを後ろで一つに結び、妹の茂仁香さんはボブヘア。もし同じ髪型だったらなかなか見分けることが難しかったかもしれない。

「今日はよろしくお願いします!いつ始めても大丈夫です」と、茂仁香さんがハッキリしたよく通る声で切り出した。取材はまず、2人の普段の活動について聞くことからスタートした。

茂仁香:私はダンサー、ヨガのインストラクター、モデルのお仕事をしています。どれがメインというわけではなく、全部を頑張っている感じですが、いまは一番コンテンポラリーダンスとストリートダンスに燃えています。プロモーションビデオなどで「双子で踊ってほしい」という依頼もあるので、その時はエリ(恵利香)にも踊ってもらっています。

恵利香:そうですね。私はヨガインストラクターをメインに、モデルやダンスの仕事をしています。

――シュミッツ姉妹として2人で踊ることについて、どういう思いがありますか?

茂仁香:(ビジュアルが)似ているもの同士が同じ振りを踊ることは、絵的に面白いなとは思っています(笑)。踊り方も似ているし、姉妹で11年間一緒に新体操をやっていたので、言葉のやり取りがなくても体が合ってしまうことがあるんですよね。双子で表現することで、観ている人から「面白いね」とか「感動した!」などと言ってもらえる時が嬉しいです。

恵利香:私は、同い年の姉妹という感じでそこまで双子について意識していませんが、ほかの双子の作品を見ると(ビジュアルが)面白いので、私たちもそういう風に思われているのかなぁと思ったりしています。

――お二人で活動されるということで、姉妹の仲が良いんでしょうね。

2人:はい。

恵利香:もちろん仲は良いですが、双子でも少し違う部分があることを分かってもらえると嬉しいですね。聞く音楽や好きな食べ物が違いますし、たとえばモニ(茂仁香)が抹茶フラペチーノが好きでも、私はチョコレートフラペチーノが好きだったり。

――なるほど。お互い理解できない部分はありますか?

茂仁香:お互いに理解し合っていますが、違う部分もあるので、そこを共有する感じです。たとえば、私が聞かない音楽をエリに教えてもらったり。普段からいろいろ共有しているので、「音楽も振り付けも全部お任せした上で、双子で踊ってほしい」という仕事の依頼があった場合、曲や振り付けに関してスッと感性を合わせられます。

――表現者として、お互いに尊敬している部分を教えてください。

茂仁香:海外のダンサーやモデルなどいろいろな情報収集力が高いこと、また(表現者として)体型を保っているところもすごいなと。

恵利香:それ、モニもだよ(笑)。

茂仁香:そっか(笑)。エリはダンスが上手なのはもちろんのこと、生まれ持ったセンスがかっこいいです!求められるものに対して、カッコよく表現できるというか。

恵利香:モニのすごいところは、努力家で諦めないところですね。すごく努力して新体操をして、その後に陸上をやって。私はそんな走り続ける体力はなかったです。さらに、その後にダンスを始めて。どんな分野でも諦めないで努力して頑張って結果を出して、そういうところをすごく尊敬しています。

――コロナ禍で感じたことを教えてください。

茂仁香:どんな状況であれ「踊りたい!表現したい!」と、感じました。自粛期間中は特にSNSという手段を通して、自分の表現を披露したり、海外のダンサーのオンラインレッスンを私自身が受けたりしていました。また、オンラインでヨガのレッスンを行っていたのですが、オフラインの時よりもっと多くの人と繋がり、見てもらえることは素直にいいなと思いました。その一方で、やっぱり生で体感するエネルギーというものをオンラインでは感じられず、そこはやっぱりオフラインがいいですね。

恵利香:ダンスもヨガの世界もオンラインレッスンに切り替わって、その臨機応変な対応に感動しましたが、コロナ禍や地震、火事などの自然災害が起こるとダンスができなくなってしまうんだということを改めて気付かされました。だからダンスができる環境に感謝することを忘れずにいようと思ったんです。

また、自分のパフォーマンスに対して観客が拍手をしてくれたり、「感動したよ!」と声をかけてくれることが、自分の価値やダンスの魅力をより高めてくれると思ったので、観客のみなさんに感謝する心を忘れてはいけないなということも改めて感じました。

――その気持ちをふまえて、今後、シュミッツ姉妹として、取り組みたいことはありますか?

茂仁香:踊れる双子はなかなかいないと思うので、その強みを活かして活動していきたいです。

――明確な目標はありますか?

茂仁香:以前、ファッション雑誌の『VOGUE』でハイブランドのファッションを身にまとってヨガのポーズをしている写真を見た時に、「私もこういうことをやりたい!」と思ったことがあったんです。その夢はファッション誌の『GINZA』で叶えられて、その時は新体操のように高く上げた右足にハイブランドのファッションバッグを吊るすというものだったんですが、その経験がすごく楽しくて印象に残っているからそういうことを今度は2人でやりたいです。

恵利香:私は他ジャンルの雑誌でモデルの経験がありますが、すごくファッションが好きなので、ファッション誌でも積極的にお仕事をさせていただけたらいいなと思っています。

茂仁香:個別で雑誌のモデルの経験があっても、2人一緒はあんまりないからね。

――では、姉妹で目指せ『VOGUE』ですね。

茂仁香:はい、目指せ『VOUGE」ってことで(笑)!

取材・執筆:南しずか 写真1~2枚目:葛西亜理沙 タイトルイラスト:小林一毅 編集:石田織座(JDN)