非日常を踊る 第13回:真青ハヤテ

非日常を踊る 第13回:真青ハヤテ

2020年春、新型コロナウイルス感染症の影響で1回目の緊急事態宣言が発令され、文化芸術活動にかかわる人たちは大幅な自粛を余儀なくされた。フォトグラファーの南しずかさん、宮川舞子さん、葛西亜理沙さんの3名が、撮ることを止めないために何かできることはないか?と考えてはじまったのが、表現者18組のいまを切り撮るプロジェクト「非日常を踊る」だ。

コンセプトとして掲げられたのは「コロナ禍のいまを切り撮ること」と「アートとドキュメンタリーの融合写真」という2つ。プロジェクトは、タップダンサーやドラァグクイーン、社交ダンサー、日本舞踊家などさまざまなジャンルのダンサーがそれぞれの自宅や稽古場という「裏舞台で踊る姿」を撮影した、2020年を反映するパフォーマンスの記録となった。

本コラムでは、フォトグラファー3名が想いを込めてシャッターを切った写真と、南さんが各表現者にインタビューした内容を一緒に紹介していく。今回は、2020年11月に撮影を行った、真青ハヤテさんの写真とインタビューを紹介する。

真青ハヤテ/アクション俳優&監督、パルクール・コーディネーター(撮影:南しずか)

2020年11月11日、千葉県船橋市のある公園。真青ハヤテさんは“バク宙”をするため、公園内の遊歩道の手すりに立った。安全対策としてハヤテさん自前の折りたたみ式マットを着地点に設置しているが、もしジャンプを失敗すれば、コンクリート舗装の地面に叩きつけられる。絶対大丈夫という保証はなく、大怪我につながる可能性もあった。

テスト撮影の1回目。緊張しつつも合図を出した。夕焼け空の下、ハヤテさんは飛んだ。

ボンっと音を立て、マットの上に着地成功。「何回でも飛べますよ!」とハヤテさんが言う。後ろ向きに飛ぶことぐらいなんてことないらしい。心配は杞憂だった。

1980年北海道生まれ、千葉県育ち。古武術空手歴25年、パルクール歴11年、アクロバット歴13年。2016年、映画「KARATE KILL」に主演し、フィラデルフィア・アンドネームド映画祭最優秀長編映画賞を受賞。2017年、ジャパンアクションアワード最優秀アクション男優賞にノミネート。

約10年前、ハヤテさんは2001年に公開された映画『YAMAKASI』を見た。この映画は映画界の巨匠リュック・ベッソンが原案・脚本を手がけたもので、実在するパルクール集団をモデルにしている。その当時、古流空手の先生をしていたハヤテさんは「これを習うと武術に使えるかもしれない」とひらめき、興味本位でパルクールをはじめた。その決断は、思っても見なかった方向に人生を導くことになる。

パルクールとは、フランスの軍事訓練をルーツとした、「走る」、「飛ぶ」、「登る」という移動所作に重点を置いたスポーツ/動作訓練のこと。たとえばビルの屋上から別の屋上へ飛び移ったり、柵を乗り越えたり、塀から飛び降りたりして、素早く移動をする。

軽やかに手すりから飛ぶハヤテさん。

ハヤテさんは『YAMAKASI』の映画やパルクールの動画を繰り返し見てその技術を研究し、地道に練習した。一見超人的なパフォーマンスに見えるが、パルクールをする上で大怪我をしたことはないという。

ハヤテ:ムチャして怪我するのはダサいという世界なんです。できないことはやらない。己の限界を理解した上で、トレーニングを通じて、その限界を超える方法を模索するのがパルクールです。

徐々に「パルクールができる人」ということが知れ渡り、芸能界から声がかかるようになった。そこで、動き方の指導から演出、ロケ地の選定などパルクールに関するすべてをコーディネートする仕事を本格的に引き受けるようになった。仕事を重ねるうちに、“見せ方”の重要性に気付いていった。

ハヤテ:たとえばカメラマンは機材を持っているので、一緒に走っても僕の方が早いんですよ。カメラマンが撮りやすいスピードで走ることによって、はじめて絵になります。

それからハヤテさんはお芝居の勉強をはじめ、約3年後、アクション俳優と名乗るようになっていた。日本パルクール協会によると、国内のトレーサー(パルクール実践者)は3,000人程度。そのうち、ハヤテさんを含め、役者として活躍しているのは片手で数えられるぐらい。貴重な人材だからこそ、次々と仕事のオファーがある。映画や舞台、テレビ、ミュージックビデオ、CMなど関わった作品をあげたらキリがない。

ハヤテ:名だたる方々と仕事をしてきましたが、特に印象に残っているのは元プロ野球選手のイチローさんですね。彼主演のCMで、パルクール指導・演出をした時のことなんですが、イチローさんの身体能力が超一流なのは言うまでもなく、理解してコツを掴む速さ、見せ方の上手さ、身体の操作などすべてが抜群で驚きました。壁を登るのも上手でした。

コロナ禍に新しい試みに挑戦したハヤテさん。自身初となる主演/監督の自主アクション映画『ファースト・ミッション』を制作した。

ハヤテ:世の中が停滞した時に「アクションでみんなを元気にしたい!」と思ったんですよね。

映画業界は、コロナ禍の影響で大打撃を受けた。2020年2月以降、国内で少なくとも60本以上の映画が公開延期。ハヤテさんにも影響がおよび、自身がパルクールの指導などを担当した、岡田准一主演『ザ・ファブル 第2章』(2021年6月18日公開)の撮影が一時期ストップしたという。

先行き不透明の状況に、多くの映画関係者が不安やストレスを抱いたが、ハヤテさんは仕事が止まってもすぐに前を向いた。一人で脚本を書き上げ、クラウドファンディングを通して制作費を募り、役者らに声をかけた。

より躍動感があらわれるよう、撮影時はハヤテさんが飛ぶたびに「はったい粉」を振りかけて行われた。撮影後は全員で掃除を行い撤収した。

ハヤテ:「アピール動画を送ってこい!」とSNSで呼びかけたんですよ。その動画が面白かったら採用するし、映画制作という目標に向かって、一緒に走りませんかって。「一緒に何かつくりたいです!」と希望してくれた、半身付随や車椅子の友人も出演することになって、さらに「映画で一緒に市を盛り上げませんか」と地元の千葉県船橋市も巻き込んでいきました。

基本的に、僕、エンターテイナーなんですよ。人を楽しませることが好きで、おこがましいかもしれませんが「人を今よりちょっとでも楽しく、気持ちを豊かにすることができたらいいな」と思っています。

同映画は、2021年9月21日に完成。現在、公開劇場を募集中だ。収益を上げることは優先事項ではないが、収益が出た場合、脳卒中当事者への支援や、映画館や劇場などへのコロナ救済活動の支援に充てるつもりである。

自身のポーズを確認するハヤテさんと、カメラマンの南さん。

同映画の撮影を行なったという船橋市の公園でテスト撮影を続けたが、1回シャッターを切るたびにハヤテさんはカメラの液晶パネルを確認した。「両足はそろっていない方がいいかな」など、自ら修正ポイントを見つけ、空中時のポージングについて微調整した。

徐々に日も暮れてきて、公園内の外灯が点灯した。いよいよ、本番の撮影。ハヤテさんが遊歩道の手すりに立ってスタンバイ。合図を出す。

放物線を描き、夜空に舞った。我ながら躍動感あるキレイな写真になったと思う。それもこれも正義感の強い頼れる兄貴=ハヤテさんのおかげだ。

取材・執筆:南しずか 写真1~2枚目:南しずか タイトルイラスト:小林一毅 編集:石田織座(JDN)