「自分=オリジナル」発想法

「自分=オリジナル」発想法

こんにちは、佐藤ねじと申します。デザイナー・プランナーとして活動しています。面白法人カヤックというデジタルコンテンツの制作会社を独立し、2016年7月にブルーパドルという会社を設立しました。ここでは、僕の偏った「変な」発想法をシリーズ化して、ご紹介したいと思います。今回が3回目の更新となります。

オリジナリティのあるものは作れるか?

ものづくりをする上で「オリジナリティ」があることは、強力な武器となります。しかし、そう簡単にオリジナリティがあるものを作ることはできません。世の中には面白いもの、いろんなアイデアが溢れています。イイものを作ろうと奮闘しても、無意識のうちに既視感のあるものを作ってしまうことが多いです。なにかイイことを思いついても、だいたいすでにやられているものです。だから、僕もいつも苦悩しながら挑んでいます。

オリジナリティは、普通の人には作れないものなのでしょうか?とても難しい問題だと思いますが、少し役立つ考え方があります。

それが「自分=オリジナル」発想法です。

あなたという尊い存在……それはオリジナル

ここでちょっと宗教じみたことを申し上げますが、自分という存在は尊いものであり、オリジナリティ溢れる存在なのです。

「苗字が佐藤で、A型で、父が公務員で、名古屋出身で、34歳で、デジタル系の仕事をし、デザインとアイデアを得意領域とし、渋谷で働き……」といくつかの要素を組み合わせていくと、広い広い宇宙の中だけでも僕1人だけに絞り込まれます。

宇宙の中で、検索結果が1になる自分という存在……それはすごいことだと思いませんか?

もちろん、それだけではオリジナリティのある作品はできません。ですが、「自分」という存在は発想のヒントにはなります。

例えば、僕が突然「佐賀」をテーマにした個人作品をつくったら違和感があります。僕は佐賀を知らないし、佐賀とは縁遠い人生を送ってきました。だけど、僕には子供がいるので「子供」をテーマにした個人作品をつくることには必然性があります。

さまざまな意味での「自分らしさ」を抽出して、そこから作品を作ることで必然性が生まれます。作品は「何」を作るかだけでなく、「誰」が作るかも重要な要素なのです。

そこそこきれいな風景画を大人が描いても何てことありませんが、もし3歳児が作ったとしたら、もしAIが作ったとしたら、それはニュースです。

自分が何者で、どんな特徴をもっているかを把握することで、もっと作るべきものが浮かびあがってくるのだと思います。

佐藤の飽和水溶液

この発想法で作った事例として、「佐藤フィルター」という作品があります。

ある日、病院の待合室で「佐藤さーん」と呼ばれたときに、僕を含め4人ほど振り向いたという経験がありました。そうか、佐藤って世の中にいっぱいいるんだな。ということを、改めて実感しました。

電車の中、レストラン、映画館、いろんな群衆の中に、ある一定量の佐藤がいるかもしれない。砂糖の飽和水溶液(砂糖が水に溶ける限界量)のように、市民プールの中にも一定量以上の佐藤は入ってはいけないという「佐藤飽和量ルール」を定めたら面白そう……などと、いろいろ妄想が広がりました。

当たり前すぎて気づいてなかったのですが、自分は「佐藤」なんだから、佐藤をテーマにした作品をつくるのは筋が通っている。そこで、佐藤作品をつくることにしました。

どれくらい佐藤さんがいるかを確認する「佐藤フィルター」

3月10日、佐藤の日を記念して作られた、いろんな場所で「佐藤さ~ん」と呼んで、どれくらい「佐藤」がいるかを確認するプロジェクトです。制作メンバーも全員「佐藤」を集めて、制作時間は「3時間10分」という制限を設けて作りました。(でも正直に申し上げますと、映像編集するために、どうしても出沼翔太という後輩が必要になったので、上から圧力をかけて、クレジットを佐藤翔太に改名してもらいました…)

実際、大きな声を出したから振り向いた人もいるわけで、正確に佐藤さんを把握できる訳ではないのですが、佐藤に生まれたからには、作っておいて損はないプロジェクトとなりました。

3月10日は佐藤の日だけど、もっと大切な日だった

佐藤の日に、毎年なにか佐藤作品を作っていこう。佐藤フィルターを作っているときに、そう考えていたのですが、2012年3月10日に佐藤フィルターをリリースしたあと、とても大切なことに気がつきました。そうです、その翌日は3.11です。

正直、しまったなぁと反省しました。別に佐藤フィルターは作ってもいいものだけど、3月10日はもっと大切な日だぞと。3.11は絶対忘れないけど、3.10という数字は、震災とは別のものとして考えていました。

震災から2か月くらいは、家の防災システムを見直したり、カバンの中に笛とか防災グッズを持っていたのに、1年経つと危機意識が薄れている自分にびっくりしました。

原発や復興については忘れないけど、自分の防災システムについてはけっこう忘れているな……。そういう人、周りにもいっぱいいそう。まるで災害は去って、エンディングのような心地でいたけど、地震に終わりはないんだ。ということに気づきました。

今日は2011年3月10日かもしれない

そこで翌年に作ったのが、2011年3月10日(東日本大震災の起こる1日前)のツイートをまとめた作品です。

なんでもない日常のすぐ先に、非日常はある。地震はまた必ずやってくる。この文章を読んだ1分後かもしれないし、明日かもしれないし、10年後かもしれない。

だから、防災の準備がまだの人はいますぐにという啓蒙メッセージをこめた、少し大げさなつぶやきです。

そのリアリティを出すために、特定の4つのキーワードで絞り込んだ、地震の前後のつぶやき集めました。日常的につかっている「明日」や「福島」「おにぎり」の意味が、大きく変わる様子が妙に生々しくて、地震への危機感が高まります。

震災というテーマだけに、この作品に共感してくださる方がけっこういらっしゃいます。でも僕としては、この作品をつくった経緯は、「震災」発想ではなく、佐藤の日だったからなのです。自分自身の防災の危機意識を薄れさせないために、この作品があります。

いまの自分だから作れるものを
佐藤ねじの似顔絵 イラスト:JUN OSON

佐藤ねじの似顔絵 イラスト:JUN OSON

基本、何かを企画するときには「自分」ではなく「ターゲット」とか「ニーズ」とか、世の中にある答えを探すように考えます。もちろんそれは間違ったことではないし、僕もそうやって考えはしますが、一方でその反対側から、「自分」から考えることも大切なのではないでしょうか。

最初から「震災」をテーマにしたオリジナリティのある作品をつくろう!と考えても、「3.10」の作品にはならなかったかと思います。もっと何か復興に役立つ規模の大きな企画だったり、別に自分が作らなくてもいいようなものになっていたかもしれません。

発想の中に、「自分」という要素を含めることで、「必然性」が生まれたり、地に足ついた無理のない企画になることが多い気がします。

僕は年間で作るもののうち、ある一定量「いまの年齢・いまの環境でしか作れないもの」を作るようにしています。子供が1歳のときにしか作れない作品。僕が34歳でないと成立しない作品。独立して1年目にしか作れないもの。

クリエイターとして40歳・50歳になっても、枯れないでいられるかと問うと怪しいです。でも枯れたなら、枯れたことをテーマにした作品をやればいい。いつか自分が病気で家から出れない生活になったら、その時にしか作れないものを作ろう。

そう考えると気がラクになります。

世の中の流行に合ってるか、ニーズはあるか、バズるかどうか、売れるかどうか。そういうものに疲弊した方は「いま自分が作るべきもの」にフォーカスしてみてはいかがでしょう。

きっと気晴らしになるし、そこから考えた方が面白いものが作れるかもしれません。

佐藤ねじ

佐藤ねじ(株式会社ブルーパドル代表)

株式会社ブルーパドル代表。アートディレクター/プランナー。
1982年生まれ。愛知県出身。名古屋芸術大学デザイン科卒業。デザイン事務所を経て、2010年に面白法人カヤック入社。2016年7月に独立し、株式会社ブルーパドルを設立。デジタルコンテンツの企画・デザイン・PRを仕事にしつつ、「空いてる土俵」を探すというスタイルで、様々なジャンルの「ブルーパドル」を発見することを使命としている。代表作に『ハイブリッド黒板アプリKocri』『貞子3D2 スマ4D』『しゃべる名刺』『Sound of TapBoard』など。文化庁メディア芸術祭、Yahoo!インターネットクリエイティブアワード、グッドデザイン・ベスト100など受賞多数。
https://blue-puddle.com/