第4回:イム・ジョンホ(mount inc.)

第4回:イム・ジョンホ(mount inc.)

森ビルの『Shanghai World Financial Center』のWebサイトからはじまり、星野リゾートの旗艦ブランド『星のや』のブランドサイト、サントリー山崎蒸溜所『YAMAZAKI MOMENTS』、Toyota.jpなど、純度の高いユーザー体験のある、数多くのキャンペーンサイトやプロモーションサイト、企業の情報サイト、オンラインショップを世に送り出してきた「mount inc.」。

その純度の高さの所以は、代表取締役イム・ジョンホさんが、mount inc. の設立10周年のあいさつに書いた「プロジェクトの始まりから終わりまで、どの局面においても妥協したくない」という真摯な言葉だろう。それは、クライアントに向きあって問題解決することに尽力する姿勢の現れであり、インタビューからも垣間見ることができた。それは当連載のホストであるライゾマティクス・木村浩康さんにとっても突き刺さる言葉となった。

どの断面を切っても高水準であること

――木村さんから見たmountの魅力はどこにありますか?

木村浩康さん(以下、木村):自分の会社や自分自身のホームページをつくってもらうなら、mount以外にないと思っています。Webプロダクションの各能力をダイアグラムにした場合、普通は得意・不得意が出てきますが、mountはすべてのパラーメーターのバランスが高い。以前、佐藤卓さんとお話した時に、佐藤さんが「デザイナーに作家性はいらない」とおっしゃっていたんです。デザインとは案件に対して、問題解決というか、叶えなければいけないものに対してチューニングを合わせていくから、作家性は必要ないのだと。mountはまさにそれだなと思っているんです。

mountの仕事は作家性よりも、各案件に対するソリューションが100%ちゃんとできている。例えば『DNA GLASS』であればテクノロジーを見せるし、サン・アドや『GYRE』のWebサイトもそう。細部に神が宿っているというか、ものづくりが丁寧でバランスが良いんですよね。ちゃんと自分の色に乗せた丁寧なものづくりをしてくれるから、もし自社のサイトを別のプロダクションにお願いするならmountにつくってもらいたい(笑)。

木村浩康(ライゾマティクスデザイン)

――イムさんは木村さんの意見をどう捉えますか?

イム・ジョンホさん(以下、イム):まず、いまの話はクオリティをダイアグラムで例えていてわかりやすいと思ったんですが、まさに私たちがやりたいことは、ものづくりにプロセスがあるとすれば、どの断面を切っても高水準になっていること。何を取っても胸を張れる状態にしていきたいということは常に思っていて、だからそういう見られ方をされているのは嬉しいです。クライアントの課題があって、それを解決をするために何をするという順番なので、課題解決型です。

イム・ジョンホ
1977年韓国 釜山生まれ。2000年よりビジネスアーキテクツ入社。アート・ディレクターとして、FUJIFILM、積水ハウス、イオングループなどの大手企業サイトを手がける。2004年独立、フリーランスを経て、2008年に梅津岳城と共にmount inc.設立。近作は、星のやWebサイト、サントリー山崎蒸溜所「YAMAZAKI MOMENTS」、Suntory『DNA GLASS』、トヨタ自動車公式WEBサイト、瀧本幹也写真事務所オフィシャルWebサイト、HEARTLAND『SLICE OF HEARTLAND』、SUNTORY『3D on the Rocks』など。カンヌライオンズ、One Show、Clio Awards、D&AD、NY ADC、London International Awards、Spikes Asia、Ad Stars、グッドデザイン賞など受賞多数。

木村:うまく言葉にはできないですけど、どのサイト見てもmountらしいと思うんですよ。

イム:さっきの自社サイトの話はよく言われるんですよ。いままでフォトグラファーだと上田義彦さんと瀧本幹也さん、制作会社で言うとサン・アドとは縁があってつくりました。なぜかわからないけど、ものをつくっている人たちから頼まれる事が多くて。

木村:僕が言っている理由に近いんじゃないですかね(笑)。違いますかね?

イム:いやー、逆の立場になって考えて欲しいです。例えば、私たちmountのサイトをライゾマの木村くんがつくるとしたら……?

木村:……やりづらいですね(笑)。

イム:やりづらいし、それが上手くいっても普通の評価になりますよね。ものをつくっている人同士では、そういう客観性を伴いハードルが高いので、しっかり吟味して仕事を受けるようにしています。

「人からどう見られたいか」をヒアリングしてカタチにしていく

――上田さんと瀧本さんのサイトの場合、空気感を伝えるためのものだから、それをつくる上でドラフト版を本人に見せる時は緊張しそうですね。

イム:緊張しますよ。外したくないので、実制作に入る前にたくさん会話をします。名刺や自社サイトもそうなんだけど、デザイン案を持っていったときにしっくりくるかが大事ですよね。その人の人柄や作品性だけでなく、人からどう見られたいかが非常に重要なことです。

上田さんと瀧本さんの例を挙げるとするならば、おふたりとも写真家としてスキルだけではなく、ものづくりの精神含め極みの領域にいます。実際におふたりと仕事をしたことはないのですが、商業写真、作品写真それぞれ全然違うアプローチを撮っている気がするんですよね。

先につくったのが、上田さんのサイトで、そのサイト自体の評価が高く、瀧本さんのサイトの依頼があったとき、どうしたら、また違う形で、つくれるかを苦心しました。

そこで不可欠なのが、「編集視点」で、上田さんの場合は、作品一覧で、すべての作品をひとつの塊として見せる編集方針を取り、瀧本さんの場合は、逆に、写真を複数枚同じ画面で見せず、作品を見る前に視聴者の思考をリセットさせる編集方針を取りました。

写真家のサイトだから、「答え」がひとつなわけではなく、いままでつくってきたものを軸に、人柄を含めた作家性がにじみ出るようなサイトづくりを目指しています。

個人の作品から商業写真までを一画面に入れ込み、写真家・上田義彦さんの集大成としての見え方を目指した。いかに集中して写真をみてもらえるかを考え、サイト構造をシンプルにし、表示される要素をできる限り絞り込んでいる。
http://www.yoshihikoueda.com/

個人作品から商業写真、映画撮影、と幅広く活躍する写真家・瀧本幹也さんの作品を、贅沢に味わえるポートフォリオサイト。写真を見ることを一番に集中できるよう、あらゆる要素を削ぎ落とした画面設計を行い、瀧本さんの作品のような、静かな中にも強さを感じられる。
http://mikiyatakimoto.com/

――サン・アドのサイトは規模がすごい膨大ですよね?

イム:サン・アドはコンセプトを決めるのに4か月くらいかけていますね。

木村:やはり丁寧ですよね。僕らのプロジェクトはもっと短いですよ。

イム:サン・アドの場合は、開高健さんはじめとする大先輩たちがつくり上げてきた55年の歴史がある会社です。いまのサン・アドを表しつつも、かつてのこともフィロソフィーとしてどう落とし込むか考えないといけない。だから、センシティブな案件でしたね。

外から見ていると大先輩たちが築き上げてきたキラ星のような作品群とそれによって生まれた状況。そして、いま追い付け追い越せと切磋琢磨している後輩たち、同じ会社だとは言え、違う時代、違う状況で生きてきた両者をどう共存させ、世の中に知らせていくのかをみんなで悩みました。

そこで私が最終的に出したコンセプトは「新しいサン・アド」。このサイトをつくるうえでの判断基準として、「サン・アドが新しく見えること」として何を残し、何を加えるかを考えていくことを決めたんです。

サイトに掲載する作品群を決める判断基準にも「新しく見えること」を反映していて、いま現在中心となっているスタッフの作品を中心としつつも、厳選して掲載するようにしました。サイトに作品が載ること自体がスタッフのモチベーションにつながることを願いながら。

大量の過去作品、企業文化と向き合い議論を重ね、定めたコンセプトは「あたらしいサン・アド」。先人の築いた「過去のサン・アド」に敬意を払いながら、「今のサン・アド」の魅力を伝え、「あたらしいサン・アド」へと踏み出す力強さを感じさせるWebサイトを目指した。
https://sun-ad.co.jp/

「新しいサン・アド」というコンセプトで、もうひとつ定めたのは「挑戦者であること」。いままさにものづくりの現場にいるひとたちでよりよい作品で新しい時代をつくることで、サン・アドを「より新しいサン・アド」にしていけるようにと。コンセプトを体現するサン・アドについて語っている言葉の中で好きな一文があって「私たちはいまだ上り坂の途中にいて、道のさきの空を見上げながら、汗をかき、可能性に胸弾ませる挑戦者なのだ」(コピーライター:波間知良子)と。サン・アドだけでなく、いまの時代の頑張ってる世代にもぜひ読んでいただきたいコピーとなりました。

Webは能動的なもの。最初にグンと引き込む

――「サン・アド」のサイトはコンセプト策定に4か月かけましたが、『星のや』にはどのくらいかかりましたか?

イム:『星のや』は3か月くらいかかっています。

木村:実作業に入るまでに3か月ということですよね。

イム:もっとも頭を悩ませたのは、『星のや』とほかの高級旅館や高級リゾートとの比較の際に、強く訴求すべきことが何かについてです。

そこで3か月の間、すべての施設に滞在し、体験しながら、何に着目すべきかを考え続けてわかった『星のや』の魅力は、日常からこの施設に入ったときに感じるコントラストではないかと。例えば、『星のや京都』では船に乗って施設まで移動をする。『星のや軽井沢』では施設まで林間道を車に乗っていく。これらの導入部分から日常から非日常にきたんだという、そのコントラストが人々を魅了しているのではないかと思ったんです。

この考え方をきっかけに、各施設の導入部からどういう要素をどの順番で見せるべきかを図にまとめ提案しました。いわゆるジャーニーマップみたいな気分ですが、サイトを見はじめ、どういう順番で体験し、接することができれば、その施設に行きたくなるかを定義するためにすべてを分解して、並べなおしました。「こういう感じで見せていったら、もっと行きたくなりませんか?」と説明するための準備に3か月かけています。

『星のや』をどう伝えるべきか、他施設と何が決定的に違いがあり強みなのかを、現地訪問、ヒアリングや議論を通しまとめあげてリニューアル。写真と文章からなるコンテンツづくり、最終的にコンバージョンに導くための予約UIの設計、デザイン、実装まで、プロジェクトは1年にわたっている。
https://hoshinoya.com/

木村:自分が仕事をしていない気にさせられる(笑)。

イム:乱暴に言うと、「これをこうすればいいんです」という話をするだけでもいいんだけど、それではなかなか伝わらないんです。だから一見無駄に思えるヒアリングや体験を多目に行い、それらをコンセプトや要件定義として資料をつくることを毎回やってます。

mountでは、ヒアリングや体験から得た情報を元に、コンセプトの策定や要件定義するための資料作成を毎回行っている。

木村:これはヤバいですね!この資料を見たら、日本中のWebディレクターたちが仕事をしていない気分になる。

イム:これは1人ではできないんです。この時は外部のパートナーと一緒にコンセプトをつくろうという初めての試みでした。私の場合、外部のパートナーがいたとしても、自分なりの答えも常に持てるようにしています。星のやの場合、社長と打ち合せする場に手ぶらで行くわけにはいかないので、自分で得られる情報をすべて書き出して、考察までまとめておく作業をしています。ここまでやると話すときに自信が少しはもてるんです。なぜならクライアントのことを私が知っているから、よりお話をしていただけるし、話がまとまっていく。

――これはクライアントに見せるんですか?

イム:いや、自分用。まずはファクトを全部集めて、自分は何を感じたか、現状からどうしたらいいのかをまとめて、そこから重要なことを抜き出しました。私はクリエイティブディレクターとアートディレクターをやっていたから、20人以上のチームに対しても自分の考えがまとまっていることは必要でしたね。

木村:気軽にホテルのサイトやりたいとか言っている場合じゃない……。全部の施設に泊ったんですか?

イム:6施設すべて。時期はばらばらですがヒアリングや撮影で丸1か月かけて。私がそこに年間30日間いるのは、小さな会社だからかなりのインパクトありますけどね(笑)。

――施設では導入部の設計がしっかりできているのに、以前のサイトではリニューアル後の見せ方と全然違っていたのはなぜでしょうか?

イム:以前のサイト制作時のことは全然想像はつきませんね。Webは能動的に見にいくものでありながら、そこに魅力やほしい情報などですぐに引き込んでくれないと離れてしまいます。2017年につくった「サントリーウイスキー・YAMAZAKI MOMENTS」も、氷がドーンと出てくるシーンからはじまって、それから画面の中にグンと引き込まれる。最初に引き込みがないと、それから時間軸で引っ張っていくのはなかなか難しい。なので星のやのサイトも基本的に写真や言葉で引き込んでおいて、それからどう回遊させていくかを考えました。

――いま、真髄が語られましたね。

木村:けっこう真髄ですよね。入り口で「なにこれ!?」と引き込むいうのは、このやり方のほうが良さが生きるよというアドバイスと一緒だと思うんですよね。

キャリアのスタートは「ビジネス・アーキテクツ」から

――表現の媒体としてWebを選んだのはどうしてですか?

イム:デザインにはまったく興味がなかったんですが、授業でホームページに出会った事が大きいですね。たまたま千葉のヨドバシカメラにあった、「Webデザインアワード」というアワードの1999年の年鑑に載っているものがめちゃくちゃかっこよくて。家に帰って、サイトを1個1個クリックしていったら、めちゃくちゃかっこいい。どうしたらつくれるようになれるんだろうと悩んでいたら、そこに書いてあった「Webデザインメーリングリスト」という5,000人くらいのホームページのメーリングリストがあって、そこでビジネス・アーキテクツ(以下、bA)の募集があり、デザイナーとして応募をしたんです。ただ、当時のレベルがデザイナーとしては達していなかったので、HTMLコーディングからはじめました。

木村:最初はコーダーだったんですね。イムさんがコーダーをしていた頃がぜんぜん想像できないですね。

イム:当時はマクロメディアDreamweaverでやっていました。社内のみんなからは馬鹿にされてましたね。手打ち文化があったので。カスタマイズして、みんなが書くコードとまったく同じコードになるようにして頑なに使ってました(笑)。

木村:わりと実装ベースでやってたんですね。もともとはコーダーをやっていて、デザイナーになるまでにはどれくらいかかりましたか?

イム:1年半くらいコーディングやったり、プロジェクトマネジメントをしたり、情報設計したり。

木村:Webデザイナーのレジェンド枠を探すとbAに集約される。bAが1番力強くて、bAたらしめていた時代にイムさんはいたわけですよね?

イム:当時は周りの人がすご過ぎて、コンプレックスを感じていた。どうやってここで生き延びるかしか考えてなかった。でも鍛えられましたね。

木村:やっぱりコンプレックスを感じますよね。bAの人たちの大半は独立するじゃないですか。あの文化は何かあるんですか?ある程度育つと独立を促されるんですか?

イム:それはまったくないし、会社の状況と自分がどうありたいかのギャップなんだと思いますよ。どこの会社にもあるような。

木村:やりたいことがズレてくるということですよね。bAへの思い入れ以上につくりたい自分の想いが強くなっているから、自分のことをするためには独立しないといけなくなるという。

イム:きっとそういうことになるよね。会社に集まっている人たちは、いろいろあると思うけど、方向性が違ってくると辞めるよね。

木村:(笑)。でもいい登竜門ですね、bAの人ってみんな優秀じゃないですか。

イム:私的には嬉しいもので、bA出身の先輩たちがいろんな流れをつくっているのは。

過去を振り返って思う、自分にとっての財産

イム:最近振り返った時に、よく話す言葉が2つあって。それが「基準」と「ポリシー」。これは私の財産なんです。

ものをつくるとき、「このクオリティを超えたらOKじゃない?」という「基準」をそれぞれが持っていて、その基準が世の中に通じるのかが問われる。要は自分が良しとしたものをクライアントに提案して、バツをくらっているならば、それは世の中の「基準」を超えてないということ。私は17~8年ぐらいこの仕事をやっているんだけど、その基準みたいなものをbA時代から鍛え上げていて、自分が定めたその「基準」を超えるのか超えないのかでずっと勝負していた。

あとは仕事をするうえでの「ポリシー」。パートナーを大切にして進めるとか、仕事が過酷な状況できちんとプロジェクトマネジメントするとか、いろいろな「ポリシー」があると思うんです。プロジェクトに関わるメンバー全員が、自分の裁量が反映できるようにしているのは17年ぐらい変わらない。自分自身もそのような仕事の頼まれ方をしたいので。

木村:いやぁ……イムさんはどっしり芯が太いなあと思って。ブレブレな自分が悲しくなってきた。

イム:でも、それはスタイルなんじゃない?状態や状況が変化をしてるからこそ、揺れ動いているとも言える。それが悪いかっていうと悪くないし、飽きないじゃないですか?こっちはずっと同じことだから飽きる要素がふんだんにあるから(笑)。

ゴッティンガムからの問い

当連載では、撮影を担当する写真家のGottingham(ゴッティンガム)こと杉山豪州さんが、対談を終えたふたりへの素朴な質問を投げかけてゆる〜く締めていきます。今回はいつもよりややシリアス……?

Gottingham:木村くんは写真家と仕事をするのがあまり好きじゃなくて、撮影現場も立ち会わないって言ってたよね?でも、この連載は「同級生のゴッティンだったらいいだろう」と指名したと。

木村:でもね、最近は裏返っていて(笑)。積極的に人に会って、血の通ったものをつくりたいと思うようになってきたんだよね。

Gottingham:その流れでいうと、イムさんはまさに向かうべき方向にいる人なのかな。というのも、『星のや』ではチームの人数も多く、コンセプトづくりから外部の方と協働したとうかがって、コラボレーションを大切にしている印象があって。

イム:私は仕事していて、いろんなコンプレックスがあって、自分が足りていないことを自意識として持っていたんですよ。それを埋めようとして生きてきたんですけど、26歳ぐらいの時にやめようと思いました。興味のないことはないし、できないことはできない。ただ、ものをつくるときに自分が足りない部分は必要なわけだから、それをどう解決したかというと“人”なんですよね。なにか仕事で課題ができたときに、これだったら、私はできないけどこの人はできるという発想でやると、自分が行けないところに連れていってくれる。そういう感覚は大切だし、それで生き抜いている部分はありますね。

Gottingham:ディレクションをするときに、そこはなるべく自分の思ったとおりに動いてほしいタイプですか?それとも予定不調和な物事を積極的に取り入れますか?

イム:まずディレクションするからには、「こういうふうにやろうね」という方針が最初にあります。でも、その人に頼んでいるからには理由があると思うんですよね。ゴッティンガムさんだったら、こういう写真を撮る人だから、方針をぶつけるときっと答えてくれるはずであると。ただ、私はディレクションをけっこうふわっとさせるタイプなんですよ。画をがっちり書き込んでそれに沿ってもらうのではなく、ある程度ふわっとした状態でぶつけて答えを出してくださいっていうスタイル。具体的なことはできるだけ言わず、その人の答えを見せてもらって、そこから調整していく。それでも、頼んだ人からぜんぜんダメなものが出てくることはない。なぜかというと、できるであろう人に頼んでいるので。

良いレストランやバーに行って、そこになじんでないとガチガチになるし、ワインを知らない人が頼んでいいのかなと思うじゃない?でも、それは間違っていると思っていて。ソムリエの人に「私はこういう味が好きで……」と伝えたら、そこから考えるのはソムリエの仕事だから、こっちで全部を知って対等な関係でいようとする必要はない。そうするとなんにもできないから。そう考えると楽だから。

Gottingham:木村くんは普段からジェネレーティブデザイン系のプロジェクトを多く手掛けてるから、予定不調和なアウトプットや関係性を活かしたディレクションが得意なんじゃないかなと思っているんだよね。人を巻き込んだようなプロジェクトも、最初の設計さえしっかりしていれば、あとはその人がどう動こうとも、結局は木村くんのやりたかったカタチになるんじゃないかな。

木村:最後に励まされた(笑)。

構成・文/齋藤あきこ  撮影:Gottingham  編集:瀬尾陽(JDN)

mount
http://mount.jp/

木村 浩康(アートディレクター/インターフェイス・デザイナー)

株式会社ライゾマティクス/Rhizomatiks Design所属。アートディレクター/インターフェイス・デザイナー。東京造形大学卒業後、Webプロダクションを経てライゾマティクスに入社。最近の主な仕事にggg『グラフィックデザインの死角展』、ヴェルディ:オペラ『オテロ』宣伝美術、経済産業省『FIND 47』など。文化庁メディア芸術祭最優秀賞など多数受賞。
https://rhizomatiks.com/

Illustrated by Maya Numata

Gottingham(写真家)

東京造形大学卒業、ロンドン芸術大学修士準備課程修了。ソロプロジェクトとして、国内外のアートセンター、研究開発機関、企業、デザインスタジオ等とのコラボラティブ/コミッションワークを中心に作品制作を行う。近年の展覧会に「もしかする未来」(国立新美術館、2018)や「Nomadic Raphsody」(建築倉庫ミュージアム、2018)。写真集や共著に『クリシュナ—そこにいる場所は、通り道』(アーツカウンシル東京)、『米麹のモノリス』(山口情報芸術センター)など。 *Illustrated by Maya Numata
http://gottingham.com