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vol.01 坂崎千春(絵本作家・イラストレーター)

vol.01 坂崎千春(絵本作家・イラストレーター)

絵本好きの女の子、イラストレーターになる

JR東日本のSuicaのペンギンにダイハツのカクカク・シカジカなど「人気のキャラクター作者と言えば」のイラストレーター・坂崎千春さん。彼女は、幼い頃から絵を描いたり絵本を作ったりすることが好きだったそう。その楽しい趣味がいつしか進む道となり、かけがえのない仕事となっていきます。坂崎さんの今にいたるまではどのようなものだったのか?インタビュー前半ではその過程に迫ります。

ルーツは手づくり絵本にあり!?

笑いも交え、質問に丁寧に答えてくださった坂崎さん
笑いも交え、質問に丁寧に答えてくださった坂崎さん

絵を描くのは小学生の頃から好きでした。動物も大好きだったので、描くのはほぼ身の回りの動物。妹と飼っていたインコが主人公の絵本を作ったり、ノートに物語を書きためたり、やっていることは今とあまり変わらないですね(笑)。写真や豆知識の載った『週刊ペット百科』が毎週の楽しみでいつも読んでいました。今でもすぐ出せる場所に置くほどなんです。
この頃は当然、職業のことなどは考えていませんでしたから、絵にまつわる仕事をしたいと考えたのはかなり後のことです。「手に職をつけなさい」と昔から両親に言われていたのですが、美術は特別な才能を持つ人がやるものだと思っていたので、ただ絵が好きなだけの自分がそれを職業にできるとは考えていませんでした。
ただ、コラージュでポスターを作る授業を中学で受けた時に、これなら技術だし訓練で仕事になるかもと考えたことはありました。
美術系に進もうと決めたのは高2の頃です。手に職もつきそうだということで、大学のデザイン科を受験しました。大学では課題制作の傍ら、絵本のコンテストにも時々参加しました。卒業制作も手づくりの絵本です。それを持って絵本の出版社に持ち込みに行ったのですが、残念ながらその時は絵本作家の夢は叶いませんでした。私の趣向が、当時やっと出てきた位の大人向けの内容だったからかもしれません。それで、最終的にはステーショナリーメーカーにデザイナーとして就職しました。

メーカーのデザイナー時代に学んだこと

坂崎さんの人生を語る上で欠かせない手づくり絵本と、世に認められるきっかけとなった『ペンギンゴコロ』
坂崎さんの人生を語る上で欠かせない手づくり絵本と、世に認められるきっかけとなった『ペンギンゴコロ』

会社ではたくさんのことを学びました。キャラクター中心というよりは、デザイナーの個性を活かして商品にしてもらえる会社だったんです。なので、普段からイラストを描いてデザインして、印刷に立ち会って…とすべての工程に携わらせてもらえたのです。Macの技術に版下の作り方、印刷知識とどんな形で印刷されるかまで一通り身につけられたのは大きかったですね。バブルの名残の時代だったのでグリーティングカード一枚にもシルクや活版を使ったり、高い紙を選んだりとずいぶん贅沢なことをしていました。特色6色刷のカードなんて今ではとてもできないですから(笑)。
それから、自分の描きたい絵と人が欲しがる物に違いがあること、この想いと需要がぴったり合った時の嬉しさがわかったことも重要でした。売上が悪ければすぐ廃番になるし、良ければお給料にも反映される。商品ですから、楽しい職場でもそこはシビアです。自分がいいと思うのに売れないことや、デザイナー同士では評判がいいのに市場では受けが悪いこともあります。良し悪しじゃないんでしょうけど、若い時は自分なりにかっこ良さの基準があるじゃないですか?でもそこにこだわりすぎていると、売れる商品を作るのは難しい。こうした市場と自分の感覚との擦り合わせのさじ加減などは、会社にいなければわからなかったことだと思います。

手づくり絵本とキャリアの転機

観葉植物の緑と柔らかな光が心地良いアトリエ
観葉植物の緑と柔らかな光が心地良いアトリエ

6年ほど会社で働き、1998年にフリーランスとして活動を始めました。出版社さんに装画の依頼をいただく機会が増え、私もステーショナリーのハッピーでかわいいもの以外の作品も描きたいと考えるようになったからです。元々絵本が好きでしたし、そこに関われる仕事ができるなら、と。とはいえ、これまでのお仕事も外注として続けていたので、恵まれたスタートだったと思います。
最初のうちは、外注仕事と雑誌カット、本の装画のお仕事が中心でした。この頃に友達に誘われて手づくり絵本のグループ展に参加したのです。印刷物が好きなので、会場で100冊ほど簡易印刷した絵本を頒布していたら、編集さんが興味を持ってくださって『ペンギンゴコロ』の出版が実現したんです。
そこから絵本制作の依頼が増え、絵本を見た代理店の方からSuicaのお話をいただき…とすべてに繋がった気がします。最初は、絵本や印刷物が好きだから自作の絵本を見てもらえたらな、程度の考えでしたが、参加しなければ出逢いもなかったと思うと不思議ですよね。
絵本を描く時は、昔から好きだったスヌーピーやムーミンのように、大人っぽさやシニカルさがある世界を作りたいと考えています。エルマーやドリトル先生、プーさんみたいに、動物が出てくる文章が多めで挿絵が白黒の童話も好きなので、私がキャラクターを白黒で描くのはこの辺の影響があるかもしれません。

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